レセプトデータベースにおける健康寿命を規定する重症イベント精密捕捉技術の確立・正確性検証とその社会実装を通じたEBMと政策立案に貢献できるエビデンス創出

文献情報

文献番号
201903014A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプトデータベースにおける健康寿命を規定する重症イベント精密捕捉技術の確立・正確性検証とその社会実装を通じたEBMと政策立案に貢献できるエビデンス創出
課題番号
19AC1001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
曽根 博仁(新潟大学大学院医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
  • 松山 裕(東京大学大学院医学系研究科 )
  • 赤澤 宏平(新潟大学医歯学総合病院 医学情報部)
  • 山崎 達也(新潟大学自然科学研究科)
  • 加藤 公則(新潟大学医歯学総合研究科)
  • 藤原 和哉(新潟大学医歯学総合研究科)
  • 児玉 暁(新潟大学医歯学総合研究科)
  • 谷内 洋子(千葉県立保健医療大学 健康科学部)
  • 堀川 千嘉(新潟県立大学 人間生活学部)
  • 石澤 正博(新潟大学医歯学総合病院 臨床研究推進センター)
  • 森川 咲子(徳島文理大学 人間生活部)
  • 鈴木 浩史(新潟大学 研究推進機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 Non-communicable diseases (NCD)は健康寿命短縮の主因であり、医療ビッグデータの利活用が期待される領域である。とりわけレセプトデータは、心血管イベントや腎透析等の重症NCDイベントを漏れなく捕捉できる悉皆性が利点である一方、いわゆるレセプト病名(保険病名)の不正確さが弱点で、病名を統計や研究にそのまま用いると質低下につながる。この弱点を克服するために、重要疾患イベントについて、確定診断の下でしか実施されない診療行為を厳選し、その処置コードの組合せにより、確実な発症を捕捉する新手法を確立し、妥当性検証を行う。さらにそれを介護保険を含む長期縦断データベースに適用して解析することにより、要介護者を減らし、健康寿命延伸と医療費抑制を実現するためのエビデンスを確立する。
研究方法
① 重症イベントの捕捉のためのレセプト処置内容分析に基づく「イベント定義コード」策定
 現場診療と報酬請求の現状を熟知し、疫学・データサイエンスにも精通する臨床専門医と医療情報専門家のチームを立ち上げ、健康寿命に影響する重症イベントについて、確定診断がつけばほぼ実施されるが、そうでなければ踏み切られることはない処置を厳選し、組み合わせることによりイベント定義コードを作成する。

② レセプトと電子カルテの突合による「イベント定義コード」の妥当性検証
 レセプトを利用した研究は従来からあるが、病名を含むアウトカム定義と実際のアウトカムとの一致度を大規模、科学的に検証した報告は少ない。そこで地域のリアルワールドデータを用い、上記定義コードの正確性・信頼性を検証する。

③ 特定健診/レセプト/介護保険データベースへの適用によるエビデンス確立
 健診/レセプト/介護保険の突合により長期縦断統合データベースを作成し、現場臨床および厚生労働行政上、重要な各種重症イベントについて、今回作成した定義コードを用いて解析し、診療と政策立案に貢献する科学的エビデンスを確立する。
結果と考察
 今回の検討の結果、健康寿命に直結する重症疾患イベントを、レセプトデータ上で高精度に捕捉することが可能で、従来のエビデンスの質を大きく改善できることが示された。多くの成果が得られたため、診療/EBPM上、特に有用と考えられるエビデンスを選択し報告する。

1)糖尿病による要介護リスク増大度と運動習慣による相殺

 「糖尿病」と「運動習慣なし」は、要介護発生リスクを各1.7倍、1.8倍上昇させていた。「運動習慣のない糖尿病患者」の介護発生リスクが、「運動習慣がある非糖尿病者」の3.2倍であったのに対し、糖尿病でも運動習慣があれば有意なリスク上昇はなかった。これは要介護リスクを非糖尿病者並みに低減できることを示し、国民の運動励行啓発や健康政策立案上、有用なエビデンスである。

2)健康寿命を短縮させる重症糖尿病合併症のリスク因子解明

 糖尿病は、わが国の透析導入原因疾患の第一位、成人失明原因の第二位を占めるが、近年の医療レベル向上により、これらの絶対発症率は以前よりは低下したため、従来型コホート研究では、リスク因子解析のために十分数のイベントが確保できなくなっていた。しかしレセプトデータを用いた今回の研究では解析可能となり、その結果、これらのリスク因子として、収縮期血圧より脈圧の方がより重要であることが判明した。

3)「働き盛りの突然死」に結びつく若年糖尿病患者の冠動脈疾患のリスク解明

糖尿病は、冠動脈疾患のリスクを2-3倍上昇させるが、年齢層別の違いは検討されていなかった。ビッグデータを用いた今回の検討でそれが初めて可能になり、その結果、30代患者では上記リスクが約20倍にも達しており、近年、増加が問題になっている若年糖尿病の対策の必要性を如実に示すエビデンスとなった

4)心血管リスク因子改善度と冠動脈疾患リスク低減度との関連解明

 行ガイドラインの、LDL-C、HbA1c、血圧、禁煙の目標達成度と、冠動脈疾患リスクとの詳細な関係を検討した結果、これらのうち一つを達成する毎にリスクが半減し、さらに糖尿病患者でもすべてを達成すれば、冠動脈疾患リスクは非糖尿病者と変わらなかった。これは糖尿病でも生活習慣改善や治療努力に比例した予防効果があることを示唆し、国民の治療意欲向上、診療ガイドラインへの反映、医療施策立案などに利用価値の高いエビデンスである。
結論
 今回示した成果は、いずれも健康寿命に直結する重要なアウトカムで、しかもビッグデータを用いることにより、今回初めて確立できたエビデンスばかりである。このようなエビデンスは実地診療上もEBPM上も非常に有用と考えられ、今後さらなるエビデンス確立を通じて、医療ビッグデータが健康寿命延伸に役立つことを実証していく。

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201903014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
13,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,725,856円
人件費・謝金 280,638円
旅費 230,740円
その他 4,762,766円
間接経費 3,000,000円
合計 13,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2020-10-15
更新日
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