AI遠隔健康モニタリングシステム「まいにち安診ネット」を用いて介護施設等に入居する高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防を行う実証研究

文献情報

文献番号
201903007A
報告書区分
総括
研究課題名
AI遠隔健康モニタリングシステム「まいにち安診ネット」を用いて介護施設等に入居する高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防を行う実証研究
課題番号
H29-ICT-一般-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
前田 俊輔(芙蓉開発株式会社 安診ネット事業部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊達 豊(医療法人芙蓉会 筑紫南ヶ丘病院 医局 理事長)
  • 青柳 潔(国立大学法人長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系)公衆衛生分野 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,153,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速な高齢化により、高齢者の疾病の早期発見・重症化予防が課題となっている。高齢者は一般成人に比べ自覚症状に乏しく、認知症患者など意思疎通が困難なことが多いため、従来の問診が適応されにくく、重症化しやすいという課題がある。そこで、高齢者一人ひとりの特性に合わせた最適化医療を提供するため、ICTを用いバイタルに注目した新たなテーラーメイド健康管理法を提言する。
生命徴候であるバイタルは、客観的に高齢者の健康状態を把握できる指標として健康管理に日常的に用いられている。しかし高齢者は加齢により、体温・脈拍の低下や血圧の上昇という傾向があり、一般成人とは異なる特性を持つ。それにも関わらず、絶対値基準で判定されているのが実情で個人差を考慮した医療介入の判定に関する検証は稀有である。
本研究では、医療リスクが判定できる「デジタルバイオマーカー」として、個人ごとのバイタル評価基準を使った『バイタルスコアリング技術』を用いて、介護施設における高齢者の罹患率の高い肺炎・心不全の早期発見・重症化予防に対する新たなICT健康管理の有効性を明らかにする。

【バイタルスコアリング技術】
日々のバイタルデータから医療リスクの判定支援を行う技術である。個々人の体温・血圧・脈拍が正規分布する特性を生かしその平均値±2σを閾値とし、正規分布しない酸素飽和度・呼吸数・意識レベルは絶対値基準にて、各バイタル項目をスコア分布表に配点する。そのスコア合計点より医療リスクを算出する。
研究方法
介護付有料老人ホームに入居する高齢者(延べ280名、平均85.27歳)の日々のバイタル(収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、脈拍、体温、血中酸素飽和度、意識レベル(JCS))をICT機器を用いて測定・分析した。入居者が肺炎または心不全と診断された場合、重症度分類にて評価した。その他に計3か所で実地運用を行い、ICT利用に関するアンケートを取得した。
【1】入院契機となるスコア値を求めるために、対象施設より心不全・肺炎の合併で医療機関に入院した対象者に対し、バイタル測定をし、バイタルスコアリングを行った。入院に対する各スコア合計点の感度・特異度を算出し、Youden Indexよりカットオフ値を定めた。
【2】システム導入による早期発見・重症化予防の効果を検証するために、対象施設から入院した肺炎患者の「平均入院期間」を全国平均と比較した。また最も多い人数である入院日数を出した。
【3】システム導入による要介護度進行抑制の検証のために入居2年以上の要介護度4、および要介護度5の者に対し、入居時の要介護度および1年経過後、2年経過後の要介護度を調べた。
【4】システムの使用開始1年後に、疲労蓄積度とシステム運用に関するアンケートを実施した。
結果と考察
【1】心不全・肺炎の合併(14名、2016年5月~2019年7月)に対する医療介入のカットオフ値はYouden Indexよりスコア合計2点となった。スコア合計2点以上を検査陽性とした場合の感度64.3%、特異度89%であった。
【2】対象施設の肺炎(22件、75歳以上)での退院患者の平均入院期間は30.0±19.4日であった。全国平均入院期間(2200件、75歳以上)の38.4日に比べ、短いことが確認された。最も多い入院期間は、16日であった。
【3】要介護度維持改善率は、要介護度4(n=22)で1年経過時で95.4%、2年経過時で90.9%であった。特別養護老人ホームでの報告として、要介護度4(n=1474、17カ月経過時)で76.4%があるが、施設環境が異なり、改善率に対する交絡因子も考えられるため、一概に比較できない。
【4】疲労蓄積度における有意差は認められなかった。アンケートの結果(n=177)から、スコア合計点によりバイタル評価基準ができ、施設健康管理への共通認識となる、記録・転記・伝達業務の効率が向上したとの意見があった。
結論
バイタルスコア合計点をバイタル評価基準としたテーラーメイド健康管理法により、医療介入の早期発見・重症化予防に対する可能性を示した。対象施設では、トリアージ:赤(スコア合計3点以上)の患者に対し、医師が診断を行った結果、大部分が医療介入(入院・服薬指示)が必要とされる等の運用実績が評価され、研究終了後も全ての協力介護施設において、医療介入のスクリーニングや、看護師の観察密度のトリアージ判定が行われており、臨床活用が進んでいる。今後前向き研究を行うには、介護施設からの病院搬送や服薬指示に対し、医療介入の診断基準を統一し、明確に示されなければならず、しっかりとした研究デザインに加え、それを理解する介護施設及び連携した医療機関が複数必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201903007B
報告書区分
総合
研究課題名
AI遠隔健康モニタリングシステム「まいにち安診ネット」を用いて介護施設等に入居する高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防を行う実証研究
課題番号
H29-ICT-一般-008
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
前田 俊輔(芙蓉開発株式会社 安診ネット事業部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊達 豊(医療法人芙蓉会 筑紫南ヶ丘病院 医局 理事長)
  • 青柳 潔(国立大学法人長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系)公衆衛生分野 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速な高齢化により、高齢者の疾病の早期発見・重症化予防が課題となっている。高齢者は一般成人に比べ自覚症状に乏しく、認知症患者など意思疎通が困難なことが多いため、従来の問診が適応されにくく、重症化しやすいという課題がある。そこで、高齢者一人ひとりの特性に合わせた最適化医療を提供するため、ICTを用いバイタルに注目した新たなテーラーメイド健康管理法を提言する。
生命徴候であるバイタルは、客観的に高齢者の健康状態を把握できる指標として健康管理に日常的に用いられている。しかし高齢者は加齢により、体温・脈拍の低下や血圧の上昇という傾向があり、一般成人とは異なる特性を持つ。それにも関わらず、絶対値基準で判定されているのが実情で個人差を考慮した医療介入の判定に関する検証は稀有である。
本研究では、医療リスクが判定できる「デジタルバイオマーカー」として、個人ごとのバイタル評価基準を使った『バイタルスコアリング技術』を用いて、介護施設における高齢者の罹患率の高い肺炎・心不全の早期発見・重症化予防に対する新たなICT健康管理の有効性を明らかにする。
【バイタルスコアリング技術】
日々のバイタルデータから医療リスクの判定支援を行う技術である。個々人の体温・血圧・脈拍が正規分布する特性を生かしその平均値±2σを閾値とし、正規分布しない酸素飽和度・呼吸数・意識レベルは絶対値基準にて、各バイタル項目をスコア分布表に配点する。そのスコア合計点より医療リスクを算出する。
研究方法
介護付有料老人ホームに入居する高齢者(延べ280名、平均85.27歳)の日々のバイタル(収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、脈拍、体温、血中酸素飽和度、意識レベル(JCS))をICT機器を用いて測定・分析した。入居者が肺炎または心不全と診断された場合、重症度分類にて評価した。その他に計3か所で実地運用を行い、ICT利用に関するアンケートを取得した。
【1】入院契機となるスコア値を求めるために、対象施設より肺炎、または肺炎と心不全の合併で医療機関に入院した対象者に対し、バイタル測定をし、バイタルスコアリングを行った。入院に対する各スコア合計点の感度・特異度を算出し、Youden Indexよりカットオフ値を定めた。
【2】システム導入による早期発見・重症化予防の効果を検証するために、対象施設から入院した肺炎患者の「平均入院期間」を、全国平均と比較した。
【3】システム導入による要介護度進行抑制の検証のために入居2年以上の要介護度4、および要介護度5の者に対し、入居時の要介護度および1年経過後、2年経過後の要介護度を調べた。
【4】システムの使用開始1年後に、疲労蓄積度とシステム運用に関するアンケートを実施した。
結果と考察
【1】肺炎(62名、2016年5月~2019年7月)に対する医療介入のカットオフ値はYouden Indexよりスコア合計3点となった。スコア合計3点以上を検査陽性とした場合の感度66.1%、特異度93.1%であった。心不全・肺炎の合併(14名)に対する医療介入のカットオフ値はYouden Indexよりスコア合計2点となった。スコア合計2点以上を検査陽性とした場合の感度64.3%、特異度89%であった。
【2】対象施設の肺炎(22件、75歳以上)での退院患者の平均入院期間は30.0±19.4日であった。全国平均入院期間(2200件、75歳以上)の38.4日に比べ、短いことが確認された。
【3】1年経過時には両対象者において悪化より改善のほうが多く見られた。2年経過時には要介護度の維持が多く見られた。
【4】疲労蓄積度における有意差は認められなかった。アンケートの結果(n=177)から、スコア合計点によりバイタル評価基準ができ、施設健康管理への共通認識となる、記録・転記・伝達業務の効率が向上したとの意見があった。
結論
バイタルスコア合計点をバイタル評価基準としたテーラーメイド健康管理法により、医療介入の早期発見・重症化予防に対する可能性を示した。対象施設では、トリアージ:赤(スコア合計3点以上)の患者に対し、医師が診断を行った結果、大部分が医療介入(入院・服薬指示)が必要とされる等の運用実績が評価され、研究終了後も全ての協力介護施設において、医療介入のスクリーニングや、看護師の観察密度のトリアージ判定が行われており、臨床活用が進んでいる。ICT/AI を用いたテーラーメイド医療へのニーズは、在宅医療を担っている介護施設等の医療リスク軽減に留まらず、急性期医療機関の負荷軽減、健康寿命延伸や高齢者の見守りの観点からも今後より一層高まると思われる。

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201903007C

収支報告書

文献番号
201903007Z