文献情報
文献番号
201903005A
報告書区分
総括
研究課題名
小児領域の医薬品の適正使用推進のための人工知能を用いた医療情報データベースの利活用に関する研究
課題番号
H29-ICT-一般-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 猛(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 臨床研究センター 開発推進部 ネットワーク推進室)
研究分担者(所属機関)
- 中村 秀文(国立成育医療研究センター 臨床研究センター)
- 森田 英明(国立成育医療研究センター 研究所 免疫アレルギー・感染研究部アレルギー研究室)
- 森川 和彦(東京都立小児総合医療センター 臨床研究支援センター)
- 石川 洋一(明治薬科大学 薬学部)
- 荒牧 英治(奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構/情報科学研究科)
- 井上 永介(聖マリアンナ医科大学医学部 医学教育文化部門(医学情報学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,608,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本の小児領域で汎用されている医療用医薬品のうち、添付文書に小児の用法・用量が明確に記載されていないものが全体の60~70%を占めているといわれており、適応が取得されていない薬剤で薬物療法を実施せざるを得ないことが多くある。このような現状を踏まえ本研究では、平成31 年度末までに小児医薬品の適正使用および安全対策推進のための情報を得ることのできるデータベースに人工知能技術・言語処理技術も活用した分析・評価の手法を開発することを目的とする。
本研究の最終年度となる令和元年度においては、前年度に引き続き種々の検証作業(小児医療情報収集システム(小児DB)の機能強化を含める)を進めるとともに小児DBより得られた実勢データより使用実態(適正使用)並びに安全性評価などを実施していく。また言語処理技術を用いた医薬品文書の表記ゆれの正規化並びに現状における実臨床下でのAIの性能評価についても検証する。
本研究の最終年度となる令和元年度においては、前年度に引き続き種々の検証作業(小児医療情報収集システム(小児DB)の機能強化を含める)を進めるとともに小児DBより得られた実勢データより使用実態(適正使用)並びに安全性評価などを実施していく。また言語処理技術を用いた医薬品文書の表記ゆれの正規化並びに現状における実臨床下でのAIの性能評価についても検証する。
研究方法
小児DBの機能強化については、小児DBに蓄積されている実勢データを容易に検索・抽出するための手段について検討する。一方、小児DBに格納されている実勢データより特定の薬剤が投与された際の安全性(検査値異常等)の発生度合(リスク評価)を判定するためのシステムの仕様について、前年度に調達した「有害事象等検出UIシステム」と小児DBとの連携(有害事象等検出UIシステムの小児DB(本番環境)へリリース)を実現するための仕様を完成させる。また、小児DBに蓄積されている実勢データ(平成28(2016)年4月1日~平成29(2017)年3月31日(1年間のデータ))を活用し、①ガイドラインに記載のある適応外医薬品の使用実態調査及び有害事象の評価②小児領域(アレルギー領域及び感染症領域)で汎用される医薬品の使用実態調査及び有害事象の評価③小児汎用薬の使用実態調査及び有害事象の評価などを実施する。さらに小児領域で汎用されている個々の医薬品の文書における表記ゆれの正規化に向けて、言語処理技術を用いた「百薬辞書」から抽出する。さらに実臨床下における人工知能の性能を評価するための研究についても精査していく。
結果と考察
本年度の研究では、小児DBの迅速な抽出・解析のための機能強化として蓄積データの圧縮やマスターデータ管理プロセスの評価並びにデータラングリング(加工/整形)作業を実践し、整理できたことでより迅速なデータ抽出が可能となってきている。また、小児DBに格納されている実勢データより特定の薬剤が投与された際の安全性(検査値異常等)の発生度合(リスク評価)を判定するため、昨年度に整備した有害事象等検出UIシステムについても、小児DBとの連携(本番環境へのリリース)の仕様を確定させた。ただし、このシステム連携の評価については、COVID-19の影響もあり実現には至っていない。また、小児DBに蓄積されている実勢データを基に様々な側面からの検証が実施できた。その結果、小児DBにて小児での使用実態については、把握できることが可能であることが実証された。ただし、現時点ではより詳細な情報(患者背景(状態)や合併症の重症度など)が得られないことから直ちに小児DBで個別の有害事象評価を実施するのは困難であると考える。また、「百薬辞書」から抽出した「百薬辞書:小児版」を調査したところ、小児領域で使用実態のある医薬品には様々な表現が対応することが明らかになった。「百薬辞書:小児版」で医療の現場で実際に用いられる医薬品表現を一般名に変換することで、小児医薬品の適正使用および安全対策推進のための情報を効率的に取得・集約が可能になると期待される。さらにシステマティックレビューにより、医療AIの臨床試験の最新動向を報告した論文によると、深層学習分野のランダム化比較試験はわずか10件であった。これだけ深層学習が注目されている中で、エビデンスレベルが高いランダム化比較試験の実施数がわずか10件という状況は、何か難しい状況があることを伺わせる。
結論
今後も小児DBに蓄積されているデータの検証と多くの抽出・解析を実施していくことで、さらに改修・検証すべき事項について課題を抽出することが必要と考える。これにより、より強固な小児領域における安全対策、適正使用推進に資することが可能な医療情報データベースが整備できると確信している。さらに言語処理技術も活用した表記ゆれや曖昧性を解消するための「正規化」技術との連携、そしてAI技術を取り入れることで、小児での「個別」評価(危険予測)にも利用できると考える。ただし、「AI技術」と言っても必ずしも万能ではなく、かつ臨床現場に活用できるAI機能、かつ医療情報データベースのどの部分でAI技術を活用していくかについては今後の技術進歩も踏まえて、慎重に検討していくべきであると考える。
公開日・更新日
公開日
2020-11-02
更新日
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