文献情報
文献番号
201902003A
報告書区分
総括
研究課題名
リンケージデータだからこそ示すことのできる要介護発生前から死亡までの軌跡—要介護発生の背景、医療介護費用に着目して
課題番号
H30-統計-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 智子(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
- 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
- 森 隆浩(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
1,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、リンケージデータに関するレビューとリンケージデータを用いたユースケースを示すことで、公衆衛生におけるリンケージデータの有効性を議論することを目的とした。
研究方法
海外での公的死亡データの研究目的利用については、公的データの突合が活発に行われている米国、英国、オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、オーストラリアにおける公的死亡データを挙げ、その突合可能性について方法や突合実績を踏まえてレビューした。また医学主要誌でのリンケージデータ活用の状況については、JAMA、NEJM、BMJ、Lancetの2019年発行分とした。検索語は使用せず、発行されたすべての原著論文を対象とし、研究で使用されているデータがリンケージデータである論文を選出した。ユースケースにおいては、主に千葉県柏市の行政データを用いた。データは、国民健康保険・後期高齢者医療保険・介護保険のレセプトデータ、要介護認定のための認定調査、住民データ、介護保険料についてのデータを用いた。各データは、研究目的に新たに付与されたID番号を用いてリンケージされた。
結果と考察
海外の公的死亡データの研究目的利用についてレビューした結果、海外8か国においては公的な死亡データの研究目的利用を可能にしており(英国は部分的)、データを用いて出産、小児から高齢者といったあらゆるライフステージの対象について分析を行っていた。我が国において、公的死亡データとのリンケージは許されておらず、今後、我が国のデータヘルスをより促進するために、この重要な「死」のデータである人口動態統計のリンケージ活用が望まれると考えられた。また、2019年の医学主要4誌において、リンケージデータを用いた研究は発行論文数の中で0.5-3%と決してメジャーな研究方法ではなかった。しかし、一定のレベルを誇る医学主要誌に掲載されたリンケージデータ研究は、質の高いものであると言え、そうした研究のレビューはリンケージデータの活用上の意義について、一定の見解を導き出せるものと考えられた。次に、ユースケースとして、地方自治体の有する医療介護のリンケージデータを用いて、介護保険の介護予防サービス利用による要介護度悪化への予防効果を検証した。その結果、介護予防サービス利用は、全対象に効果的ではなく、初回要介護認定時に85歳以上かつ要支援2の限定的な対象でのみ有意な予防効果がみられた。本研究では交絡因子の調整が重要であり、扱うことのできる変数を多様にできる点はリンケージデータ研究の強みであると考えられた。最後に、医療介護リンケージデータを用いて入院中に初回要介護認定された者を特定し、その特徴や予後を記述した。その結果、入院中に初回要介護認定された者は、日常生活における障害が重度化しやすく、医療処置が多い傾向がみられた。また軽度の要介護者においては、1年後の死亡が多く予後が悪いことが明らかになった。これは、医療介護のリンケージデータを用いたからこそ示すことのできた結果であり、今後は、この結果を参考に、死亡までの医療介護両方のサービス利用の分析を進めていく。
結論
で、公衆衛生におけるリンケージデータの今後の利活用に向けた提言を目指している。研究期間2か年の初年度である本年では、公的死亡データの海外での研究目的利用の実態と医学主要誌におけるリンケージデータ研究をレビューし、ユースケース研究では、リンケージデータを用いて、介護予防サービス利用の効果を検証し、また初回要介護認定が入院流に行われた対象の特定を行った。今後、さらにレビューおよびユースケース研究を進め、リンケージデータの研究活用の意義や方法について検討していきたい。
公開日・更新日
公開日
2021-07-15
更新日
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