学校の療養生活の場における医療的ケア児への質の高い医療的ケアの提供に資する研究

文献情報

文献番号
201901009A
報告書区分
総括
研究課題名
学校の療養生活の場における医療的ケア児への質の高い医療的ケアの提供に資する研究
課題番号
H30-政策-指定-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 総合医療センター小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩本 彰太郎(三重大学医学部附属病院)
  • 前田 浩利(医療法人財団はるたか会)
  • 横山 由美(上田 由美)(自治医科大学)
  • 田角 勝(大田区立障がい者総合サポートセンター B棟さぽーとびあ診療所)
  • 米山 明(心身障害児総合医療療育センター外来診療部)
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(聖路加国際大学大学院看護研究科国際看護学)
  • 田中 総一郎(医療法人財団はるたか会 あおぞら診療所ほっこり仙台)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,027,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急増する高度な医療的ケアを受けながら就学する小児について、訪問看護師による学校での支援の試験的実践を行うとともに、その課題や効果を評価・検討する。また、医師-訪問看護師-教育関係者の連携の課題やあり方について明らかにする.
研究方法
I. 人工呼吸器装着児の保護者の付き添いを解消することの利点と課題を明らかにするため以下の4パターンでの介入研究を実施する。Ⅰ型 訪問看護師の1対1での児への付き添い。Ⅱ型 訪問看護師による伝達。Ⅲ型 訪問看護師によるケア+伝達。IV型 訪問看護師の複数の児への付き添い。
II.初年度で明らかとなった課題に対する対処方法をワーキンググループ毎に検討し、訪問看護師が学校で活動するための実践的な手引書等を作成する.
III. 平成30年度に実施した調査2で回答を得た24箇所の訪問看護ステーションの管理者を対象に、通学する医療的ケア児とその家族を支援する訪問看護師と学校等関係機関との連携に関する実態・ニーズを把握するために、依頼文を送付し、インタビュー調査を行った。
結果と考察
I. 9例(重複有り、のべ13例)において介入研究を実施した。I型は8例、Ⅱ型は4例、Ⅲ型は1例であった。1人に対しては、同一事例に対してI型とⅢ型を、また別の3人に対してはI型とⅡ型を別の日程で実施した。IV型は対象児の体調不良で日程調整が困難となり実施できなかった。Ⅱ型の実施にあたっては、事前の学校側との調整に多大の労力と時間を必要とした。
II-1. 学校看護師が高度な医療ケアを行うための研修に関するプログラム
既存の学校の看護師対象研修プログラムのアンケートやディスカッション等から、学校看護師が人工呼吸器を学ぶために必要な項目を絞り、校医・医療的ケア指導医・在宅人工呼吸管理の経験のある小児科医師がプログラム案を作成した。
Ⅱ-2 学校での学校外看護師向けの人工呼吸器児支援マニュアル
訪問看護師による学校での支援の試験的実践を踏まえて、学外看護師が学校内で医療ケアを実施するにあたって知っておくべき基本情報「人工呼吸器使用児等が安全に教育を受けるための支援マニュアル~学校看護師にむけて~」をまとめた。
Ⅱ-3.学校における訪問看護に関する法的対応.
訪問看護師が学校内で高度な医療的ケアを行う場合の法的手続きや責任の所在に関して議論した結果、1)主治医は学校に対しての過去の病歴や現在の医学的病態を医師向けに記載した診療情報提供書を提出し、これらの医学的な情報を学校や医療的ケア指導医と共有することが望ましい。2)医療事故の発生予防と事故発生時の対応のために、あらかじめ策定したマニュアルを遵守する必要がある。また、万が一損害賠償が発生した場合に備えて、主治医、看護師ともに適切な損害賠償責任保険に加入することが望ましい、との結論を得た。
III. 8箇所から承諾の回答があったが、3箇所は新型コロナウイルス感染症対応のため中止し、5箇所の訪問看護ステーションにインタビュー調査を行った。また、本研究班で作成した学校外看護師向けの支援マニュアル案を全国1000カ所の訪問看護ステーションに郵送し、意見を求めた。学校への訪問については、経費は都道府県や市、教育委員会が負担していることは共通していたが、学校外看護師が学校に訪問できる対象児の条件や訪問回数・費用は異なっており、都道府県および市によって一律の方法で実施できない状況であることが明らかになった。多くは学級担任と教室内での連携を行っているが、学校看護師が常駐する学校では訪問看護師と養護教諭との連携があまり行われていないことが分かった.
学校外看護師向けマニュアル案に関する回答は370件から寄せられ、現場の訪問看護ステーションから好評を博し、今後、学校での訪問看護の支援が広まることへの期待が大きいことが分かった。
結論
十分な準備の下に訪問看護師が学校で人工呼吸器児のケアに関わることで、保護者の付き添いが無くとも医療的ケアを安全に実施することが出来た。この取り組みは保護者の負担を軽減するだけで無く、対象児や周囲の児童にも種々の教育的効果をもたらすことが示された。全国の訪問看護ステーションに対するアンケート調査でも同様の内容が示された.。
学校外の看護師が学校内での医療的ケアを実現するためには、行政が率先して医療的ケア児が通学により教育を受けられるシステム作りをすることが望まれる。こうした提案を関係者が十分に活用し、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(以降、成育基本法という)が平成30年に成立した日本においてこそ、保護者の負担を出来るだけ軽減して医療的ケア児が学校教育を受ける権利を行使出来る様な時代が来ることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2020-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-11-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201901009B
報告書区分
総合
研究課題名
学校の療養生活の場における医療的ケア児への質の高い医療的ケアの提供に資する研究
課題番号
H30-政策-指定-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 総合医療センター小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩本 彰太郎(三重大学医学部附属病院)
  • 前田 浩利(医療法人財団はるたか会)
  • 横山 由美(上田 由美)(自治医科大学)
  • 田角 勝(大田区立障がい者総合サポートセンター B棟さぽーとびあ診療所)
  • 米山 明(心身障害児総合医療療育センター)
  • 大田 えりか(伊東 えりか)(聖路加国際大学大学院看護研究科国際看護学)
  • 田中 総一郎(医療法人財団はるたか会 あおぞら診療所ほっこり仙台)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高度な医療的ケアを受けながら就学する小児について、訪問看護師による学校での支援の試験的実践を行うとともに、その課題や効果を評価・検討する。
研究方法
I. 人工呼吸器装着児に以下の4パターンでの介入研究を実施する。Ⅰ型 訪問看護師の1対1での児への付き添い。Ⅱ型 訪問看護師による伝達。Ⅲ型 訪問看護師によるケア+伝達。IV型 訪問看護師の複数の児への付き添い。
II.初年度で明らかとなった課題に対する対処方法を検討し、訪問看護師が学校で活動するための実践的な手引書等を作成する.
III. 調査1:全国の訪問看護ステーションを対象に質問紙調査。調査2:了承があった37施設に質問紙調査。調査3:調査2で回答を得た管理者を対象にインタビュー調査。調査4:「学校外看護師に向けた支援マニュアル案」を全国1000箇所の訪問看護ステーションに送付し、意見を求めた。
結果と考察
I.症例数32人(のべ36例)において介入を実施した。1型が25例、Ⅱ型が5例、Ⅲ型が6例。Ⅳ型は実施できなかった。「全てのパターンで見られた利点」は、保護者の身体的・精神的負担を減らす事が出来たこと、子どもの自立が促されたこと、子ども同士や教師との教育環境が良好となったことであった。「全てのパターンで見られた課題」は、学校や主治医との協議に多大な労力と時間が必要なことであった。また、特別支援学校で実施可能とされる学校看護師の医療的ケアの範囲が限定される場合があるため、個々の事例に最適な支援方法の選択が困難であったことも課題であった。これがⅡ型とⅢ型の介入事例が少ない原因となった。さらに、学校も訪問看護師も医療事故が発生したときの責任の所在について危惧していた。
II-1. 学校看護師が高度な医療ケアを行うための研修に関するプログラム
既存の学校の看護師対象研修プログラムのアンケートやディスカッション等から、学校看護師が人工呼吸器を学ぶために必要な項目を絞り、校医・医療的ケア指導医・在宅人工呼吸管理の経験のある小児科医師がプログラム案を作成した。
Ⅱ-2 学校での学校外看護師向けの人工呼吸器児支援マニュアル
訪問看護師による学校での支援の試験的実践を踏まえて、学外看護師が学校内で医療ケアを実施するにあたって知っておくべき基本情報「人工呼吸器使用児等が安全に教育を受けるための支援マニュアル~学校看護師にむけて~」をまとめた。
Ⅱ-3.学校における訪問看護に関する法的対応.
訪問看護師が学校内で高度な医療的ケアを行う場合は、1)主治医は学校に対しての過去の病歴や現在の医学的病態を医師向けに記載した診療情報提供書を提出し、これらの医学的な情報を学校や医療的ケア指導医と共有することが望ましい。2)医療事故の発生予防と事故発生時の対応のために、あらかじめ策定したマニュアルを遵守する。万が一損害賠償が発生した場合に備えて、主治医、看護師ともに適切な損害賠償責任保険に加入することが望ましい。
III. 1)小児を対象は993施設。2)学校に訪問して医療的ケアを実施は78施設。3)依頼経緯は、子どもの親67.9%、学校37.2%、教育委員会30.8%。費用負担は都道府県や市、教育委員会など。4)連携が非常にとりにくいが養護教諭22.6%、学校看護師23.5%、管理者21.4%、学校介助員25.0%、コーディネーター教諭44.4%。。5)学校における危機管理体制がなしか不明が61.8%.6)学校で医療的ケアの責任を負う、子どもの危険に対応することが負担。7)利点:子どもの自立、教員・養護教諭のケアの理解、子ども・家族との良い関係、担任教諭・学校看護師・養護教諭との連携。8)訪問看護師が学校看護師への医療的ケアの技術や知識などの指導を実施。9)保護者は学校内に待機不要。調査4「大変勉強になった」
結論
十分な準備の下に訪問看護師が学校で人工呼吸器児のケアに関わることで、保護者の付き添いが無くとも医療的ケアを安全に実施することが出来た。この取り組みは保護者の負担を軽減するだけで無く、対象児や周囲の児童にも種々の教育的効果をもたらすことが示された。学校で訪問看護師が人工呼吸器児のケアに関わる場合には、Ⅰ型のように訪問看護師が終始付き添う方法か、Ⅱ型・Ⅲ型のように学校看護師に技術を伝達する方法が有効と考えられる。Ⅰ型は、市や教育委員会が訪問看護ステーションに委託して予算を捻出した場合に実現可能となっており、引き続き行政の柔軟な対応が求められる。Ⅱ型・Ⅲ型の技術伝達については、訪問看護師が学校看護師に対して研修を提供するという形で実現できる。その際に今回当班で作成したII,1〜3のプログラムやマニュアルを活用すれば、効率的で安全な実施が出来ると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2020-10-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2020-10-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201901009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来、人工呼吸器を持つ医療的ケア児(以下、人工呼吸器児)が学校に通学するためには保護者の付き添いが求められることが多く、通学への障壁となっていた。人工呼吸器児に訪問看護師が付き添って学校に滞在する実証実験を実施し、そのために必要な準備や注意点についてまとめた。人工呼吸器児を学校に滞在させ、かつ訪問看護を活用するという試みを実証的に行った点において、画期的な取り組みである。
臨床的観点からの成果
人工呼吸器児を訪問看護師の付き添いのもとで学校に滞在させる取り組みは安全に行われ、子どもの自立的動作が増え、クラス活動に積極的に参加するようになった。その一方で、ケアが訪問看護師任せになること、訪問看護の費用を誰が負担するか心配されたこと、事故発生時の責任の所在が不明確なことなどの問題が浮かび上がった。
ガイドライン等の開発
この研究を通し、「呼吸器使用児等が安全に教育を受けるための学校外看護師にむけた支援マニュアル」、「学校看護師が高度な医療ケアを行うための研修プログラム」、「医療事故に備えるための法的対応指針」をまとめた。これは今後、訪問看護師等が学校での医療的ケアに関わるためのガイドラインに準じた指針として扱われることが期待できる。
その他行政的観点からの成果
学校での医療的ケアは文部科学省の所管事項であるが、そこに厚労省の所管である訪問看護師を活用するアイデアを現実化させる道筋を作った点で、画期的な試みである。文科省の通知「学校における医療的ケアの今後の対応について」(2019年3月)において、学校での医療的ケアのための教育委員会の課題として看護師等の確保(雇用や派遣委託)があげられた。今後、地域の教育委員会において訪問看護師の活用を前向きに検討することが期待される。
その他のインパクト
学校における医療的ケアの重要性が社会的にも認知されるようになり、診断と治療社から「受け入れに自信がつく! 医療的ケア児保育・教育ハンドブック」が2024年2月に出版された。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
日本小児在宅医療支援研究会のホームページ、診断と治療社「受け入れに自信がつく! 医療的ケア児保育・教育ハンドブック」2024年2月出版

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
2024-06-27

収支報告書

文献番号
201901009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,277,000円
(2)補助金確定額
13,277,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 585,597円
人件費・謝金 4,275,922円
旅費 745,359円
その他 5,420,122円
間接経費 2,250,000円
合計 13,277,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-02-26
更新日
-