公私年金の連携に注目した私的年金の普及と持続可能性に関する国際比較とエビデンスに基づく産学官の横断的研究

文献情報

文献番号
201901002A
報告書区分
総括
研究課題名
公私年金の連携に注目した私的年金の普及と持続可能性に関する国際比較とエビデンスに基づく産学官の横断的研究
課題番号
H29-政策-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 邦夫(株式会社ニッセイ基礎研究所 保険研究部 兼 年金総合リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 敏之(関西学院大学 経済学部)
  • 北村 智紀(東北学院大学 経営学部)
  • 佐々木 隆文(中央大学 総合政策学部)
  • 西久保 浩二(山梨大学 大学院総合研究部)
  • 西村 淳(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
  • 柳瀬 典由(慶應義塾大学 商学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,095,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 研究目的は、私的年金の普及と持続に影響する要因の解明と、さらなる普及に向けた政策提言である。具体的には、諸外国と比較分析して日本の課題を精査し、エビデンスに基づく政策検討のために実証分析を行う。社会保障制度改革国民会議は、公的年金の給付水準の調整を補う私的年金での対応の支援の検討を求めている。
研究方法
 研究方法は、全体方針として、退職給付、個人型年金、受給方法の各テーマを進めつつ、横断的に公私年金の連携に注目して総合的な政策提言を検討する。今年度は、(1)中小中堅企業向け退職給付調査の設計では、昨年度調査を実施した地域以外の地域を対象とし、割付後の送付数が5未満のセルでも5件を送付できるよう調整した。調査の設計は、厚生労働省年金局企業年金・個人年金課の意見も聞きつつ研究メンバーで行った。(2)中小企業における退職給付制度の決定要因の分析では、2018年と2019年の調査結果を利用して回帰分析を行った。被説明変数には退職給付制度の有無を表す9の変数とその水準を表す6の変数を利用し、説明変数には、企業の人事と財務に対する考え方を表す変数などを投入した。(3)中小企業の年金制度設立の障害要因に関する分析では、年金シニアプラン研究機構で2017年度に実施した「私的年金の普及可能性に関する企業アンケート」の個票データを利用して回帰分析を行った。被説明変数は各企業のDB年金とDC年金の導入状況、説明変数は財政的負担、手続き上の負担などである。
結果と考察
 研究結果は、次のとおり。(1)中小中堅企業向け退職給付調査の設計では、送付数に対する回収数の比率(回収率)は、2018年調査を大きく上回った(2018年は20%、2019年は35%)。また、業種×地域のセルのうち無回答や回答が1件のみだったセルは2018年調査よりも減少した。(2)中小企業における退職給付制度の決定要因の分析では、新卒採用を重視する会社は退職給付制度があり総支給額も多い、年功主義を重視する会社は退職給付制度が充実、DC年金に関しては成果主義を重視する会社で多い、節税効果があると考える企業ほどDB年金やDC年金などの年金制度を設ける傾向があり、退職給付制度は新規投資の制約になると考えている会社ほどDB年金や社外積立の退職金がない、近年に設立された会社であるほど退職給付制度がない企業が多く、あるとしても退職金のみを採用する企業が多い、という傾向があった。(3)中小企業の年金制度設立の障害要因に関する分析では、DBありに対しては手続き上の負担、従業員規模、株主・親会社の理解の係数が負で有意、厚生年金基金廃止が正で有意であった。DCありに対しては、財政的負担、手続き上の負担の係数が負で有意、加入者への投資教育負担と厚生年金基金廃止が正で有意であった。年金制度の有無には、概して退職金額と定年61歳以上と負の関係となっている可能性がある。
結論
 考察や示唆は、次のとおり。(1)中小中堅企業向け退職給付調査の設計では、019年調査は2018年調査より良好な回収結果となったものの、業種×地域のセルのうち回答がゼロ件や僅少だったセルがあることには留意が必要である。(2)中小企業における退職給付制度の決定要因の分析では、設立が新しく成果主義をとる企業の退職給付制度が充実していない傾向が観察された。また、退職給付制度に節税効果を認める企業ほど制度の整備に積極的であった。そのため、新設企業等を対象に、DC年金設立・運営の税制メリットを拡充することで、企業年金の実施を促進できる可能性がある。また、新規投資先に資金を向けたい企業では退職給付制度が事業成長の妨げになると考えている可能性があるため、新規事業支援との協調政策が必要だと考えられる。本研究では変数として利用しなかったが、調査結果では、DB年金やDC年金を実施している企業で事務負担が大きいと考える傾向も見られたため、事務負担を縮小していく必要も考えられる。(3)中小企業の年金制度設立の障害要因に関する分析では、DB年金設立の障害要因としては、手続き上の負担、従業員規模、株主・親会社の理解を得ることが考えられる。DC年金設立の障害要因としては、財政的負担、手続き上の負担が要因として考えられる。また、DC年金実施企業においては投資教育も負担となっている可能性がある。さらに、退職金が多い企業ほど、定年延長を行っている企業ほど年金制度がない傾向が認められた。企業の年金制度の設立が従業員への他のベネフィットを考慮して総合的に決定される可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2020-10-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201901002B
報告書区分
総合
研究課題名
公私年金の連携に注目した私的年金の普及と持続可能性に関する国際比較とエビデンスに基づく産学官の横断的研究
課題番号
H29-政策-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 邦夫(株式会社ニッセイ基礎研究所 保険研究部 兼 年金総合リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 敏之(関西学院大学 経済学部)
  • 北村 智紀(東北学院大学 経営学部)
  • 佐々木 隆文(中央大学 総合政策学部)
  • 西久保 浩二(山梨大学 大学院総合研究部)
  • 西村 淳(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
  • 柳瀬 典由(慶應義塾大学商学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的は、私的年金の普及・持続の要因解明と普及への政策提言。諸外国と比較して日本の課題を精査し、エビデンスに基づく政策検討のために実証分析を実施。社会保障制度改革国民会議は、公的年金の水準調整を補う私的年金の支援の検討を要望。
研究方法
研究方法は、退職給付、個人型年金、受給方法の各テーマを進めつつ、公私年金の連携に注目し総合検討。テーマ1(退職給付)では、文献調査等を行い、上場企業と中小企業にアンケートを実施・分析。テーマ2(個人型年金)とテーマ3(受給方法)では実験経済学を応用した個人アンケートを実施・分析。テーマ1~2では既存調査の借用・分析も実施。テーマ4(総合検討)では文献調査やヒアリングを実施。
結果と考察
研究結果は、次のとおり。
テーマ1(退職給付):(1)企業財務と企業年金の関係では年金財政を起点にした経路と投資決定を起点とした経路とが研究課題。(2)米国での私的年金(引退貯蓄)の普及策では2006年年金保護法が高評価。小規模企業での普及が課題で、政府は簡易型を導入し敷居を引下げ。(3)労使団体曰く、近年は企業の退職給付への関心が薄く、業種や規模などでは傾向が不明。(4)上場企業調査では、退職金の実施には長期勤続と人件費抑制の重視が正で有意で、財務上の課題は有意でない。DB実施には、女性比率と正社員退職率が負で、60歳定年とS字カーブが正で有意。(5)中小企業調査は、回答負荷の考慮や僅少セルへの追加割付で良好な回収結果。(6)中小企業調査では、新卒重視や年功重視だと退職給付が充実、成果主義重視でDC年金が多い、節税効果認識でDB/DC年金あり、新規投資の制約との認識でDB年金や社外積立が少ない、近年設立ほど退職給付がない。(7)借用調査では、DBありには、手続き負担や従業員規模、株主・親会社の理解が負で有意。DCありには、財政的負担や手続き負担が負で、投資教育負担が正で有意。年金制度の有無は退職金額や定年61歳以上と負の関係。
テーマ2(個人型年金):(1)個人年金保険加入率の年齢効果は50代後半から下降、世代効果はほぼゼロ。(2)金融に全般的に不明の人は詳しくないと自覚し、誤答の人はリテラシーの低さを自覚せず。(3)金融や税制に正答の人は老後準備に積極的、不明の人は消極的。(4)税制知識は税制優遇商品の保有に正で有意、金融リテラシーはNISA口座と証券口座の保有に正で有意だが個人年金保険の保有には負で有意。金融リテラシーは税制知識を考慮すると各種口座保有に有意でない。
テーマ3(受給方法):(1)75歳支払開始の据置年金の主観的評価は公正価値と有意な差がなく、85歳開始は相当割安に評価。(2)私的年金額への税制優遇や有用な情報提供が公的年金の繰下げ不選択を減らす傾向。
テーマ4(総合検討):(1)高齢者世帯の支出構造は若年世帯と、雇用収入割合は年齢や世帯で、大きな差異。従前の高齢者所得保障制度は、生活保護基準を基礎とした年金額を非課税で保障。(2)オーストラリアでは、老後の所得保障水準に3段階の指標を設定し、公的年金・企業年金・個人貯蓄が達成するべき各範囲を国民と共有。(3)米国有識者は、DCは増加したが新規加入は多くない、自動加入等の効果判定は時期尚早、中小企業では自動IRAが注目だが低拠出率なら効果は限定的、受給方法も大きな課題、と認識。
結論
考察や示唆は、次のとおり。
テーマ1(退職給付):(1)企業財務と企業年金の関係には様々な研究があり、アンケート調査に期待。(2)米国の現状や問題解決への着眼点は極めて有意義。(3)企業アンケートは有益だが調査票や対象の検討が重要。(4)上場企業では、DBあり企業は長期勤続や従業員確保に効果があると認識し、積立不足解消より設備投資等を優先。DCは長期勤続より多様性を重視する企業で導入。なおサンプル数が少ない点に要注意。(5)業種×地域で回答がゼロや僅少のセルの存在は要留意。(6)新設企業等にDC年金の税制メリットを拡充すると実施促進の可能性。新規事業支援との協調政策や事務負担の縮小も必要。(7)企業年金設立は従業員への他のベネフィットと総合的に決定。
テーマ2(個人型年金):(1)年齢効果と世代効果の是正が課題。(2)経済的準備の前に生活設計の助言が必要。(3)2極化抑制にはリテラシー向上や準備促進の介入が必要。(4)税制優遇知識が税制優遇商品の保有に有意に影響。
テーマ3(受給方法):(1)据置年金の導入には政策的動機付けが必要。(2)繰下げ受給促進には私的年金への優遇や情報提供を行うべき。
テーマ4(総合検討):(1)就労継続や社会参加を支援する所得保障制度が必要。(2)豪州を応用した指標を決定すべき。(3)中小企業では自動加入制度に要注目。受給方法は多様だが長寿リスクの理解不足が課題。

公開日・更新日

公開日
2020-10-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201901002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内外での学会発表を積極的に行って研究内容を発展させ、海外の学術誌で複数の論文が採択された。現在も海外学術誌への再投稿を準備中。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
当研究で該当企業の意向等を調査し結果を担当課へ報告した「確定拠出年金における中小企業向け制度の対象範囲の拡大(100人以下→300人以下)」が2020年の年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案に盛り込まれ、成立し施行された。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kitamura, T. and Nakashima, K.
An investigation of policy incentives for delaying public pension benefit claims
Review of Behavioral Finance , 13 (2) , 109-124  (2021)
https://doi.org/10.1108/RBF-09-2019-0117
原著論文2
Kitamura, T. and Nakashima, K.
Preferences for deferred annuities in the Japanese retirement market
Journal of Financial Economic Policy , ahead-of-p (ahead-of-p)  (2021)
https://doi.org/10.1108/JFEP-06-2020-0138
原著論文3
中嶋 邦夫
個人年金加入に関する年齢・時代・世代(APC)分析
日本年金学会誌 , 38 , 43-48  (2019)
https://doi.org/10.24720/nenkingakkaishi.38.0_43
原著論文4
小野正昭
米国における私的年金の普及施策について
企業年金 , 37 (6) , 8-11  (2018)
原著論文5
中嶋邦夫
「勘違い」と「わからない」の違い-金融と生命保険に関するリテラシーの多様性を考慮した分析-
基礎研レポート ,  (2018-03-28) , 1-14  (2018)
原著論文6
中嶋 邦夫
中小中堅企業における老後資金準備支援の実施傾向
年金と経済 , 41 (1) , 12-17  (2022)

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
2023-09-01

収支報告書

文献番号
201901002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,095,000円
(2)補助金確定額
2,095,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 456,089円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,808,199円
間接経費 0円
合計 2,264,288円

備考

備考
収入の「(2)補助金確定額」と、支出の「合計」に差異がある理由は、アンケートの回収率が想定を上回り、予定より増えた返信時の郵便費等を自己資金で対応したため。

公開日・更新日

公開日
2021-02-19
更新日
-