保険者の展開する健康・体力増進事業効果の特徴と改善点に関する研究

文献情報

文献番号
199800715A
報告書区分
総括
研究課題名
保険者の展開する健康・体力増進事業効果の特徴と改善点に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
勝木 道夫(財団法人北陸体力科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 牧川優(財団法人日本健康スポ-ツ連盟)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
労働の機械化及び職場環境の複雑化は運動不足、食生活の乱れ及びストレスの
増大をもたらし、その結果高血圧、高脂血症、糖尿病及び腰痛などの生活習慣病が急増し
社会問題ともなっている。本研究はこれらのことを背景として、約3ケ月間にわたる運動
指導を中心とした栄養指導及び心理指導等の生活習慣改善事業が健康・体力へ及ぼす効果
を明らかにし、また各保険の展開する保健事業遂行上の改善点を検討することを目的とし
て行った。
研究方法
被検者は健康保険組合加入者90名、社会保険(政府管掌健康保険)加入者5
6名、国民健康保険加入者計97名の計243名であった(男子117名、女子126名
、年齢23~75歳)。被検者は事業前後に医学的検査{尿検査、血液検査(GOT,GPT,γ-
GTP,総コレステロ-ル,HDLコレステロ-ル, 中性脂肪,尿酸,血糖,血算一式,血清鉄,フルクトサミン、インスリン、
レプチン) 、血圧測定、安静時心電図検査}、形態測定(身長、体重、体脂肪率)、体力測定
{長座体前屈、上体おこし、垂直跳、多段階運動負荷試験(最大酸素摂取量の推定)、但
し60歳以上は上体おこし、垂直跳の代わりに握力、開眼片足立ち、全身反応時間の測定
を行う}、日常生活調査、栄養調査、心理調査(ストレス度チェックリスト使用)及びラ
イフスタイル調査を受けた。また約3ケ月間にわたって週2回を目安に身体運動(各自の
健康状態や体力レベルに応じたトレ-ニングメニュ-を実行)を行い、またその間栄養セ
ミナ-(栄養講話、ヘルシ-バイキング 等)や心理セミナ-(自律訓練法等)を受講した。
結果と考察
被検者の行った運動は、ストレッチ体操、歩行・ジョッギング、自転車運動
、ウェイトトレ-ニング、水泳及びその他(ステップエクササイズ、エアロビクス等)で
あった。事業前と比較して事業後では、血圧は最低血圧、血中成分は尿酸、HDLコレス
テロ-ル、血糖、フルクトサミン及びインスリン分泌能に有意な改善が認められ、これら
の結果は生活習慣病発生の抑制や改善に結びつくものと思われた。またこれら血圧・血中
成分の一部は、事業前に異常域であった者及び疾病状態の重篤性が高かった者ほど改善効
果は大きかった。体脂肪率の制御と関与する血中レプチンは男子で低下傾向を示したが、
その臨床的意義は今後さらに追究していく必要があるであろう。また、形態・体力では体
脂肪率は有意に減少し、長座体前屈(体柔軟性)、上体おこし(筋力・筋持久力)及び最
大酸素摂取量(全身持久性)も有意に向上し、その結果体力評価合計点も有意に向上した
。これらの結果もまた生活習慣病(腰痛等)の抑制や改善に結びつくものと思われた。ま
た体脂肪率及び体力測定項目の一部並びに前述の血中成分の一部は運動実施時間が多いほ
ど改善効果は顕著であったことが認められた。これらの効果の保険種別の比較では、血圧
・血中成分では健保>国保>社保の順で、体力では健保>社保>国保の順で大きかった。
効果に差をもたらした原因については明確ではなく、今後保険の特徴に基づく社会的要因
を含めて詳細に追究していく必要があろう。食生活では各栄養素・食品の充足率には著差
はなかったが、体脂肪率の増加を招く菓子・清涼飲料水の摂取得点は有意に低下し、アル
コ-ル摂取量はやや減少傾向を示し、そして外食を控える被検者が若干ながら増加した。
また自覚症状としては身体的な倦怠感や食欲不振の訴えが有意に減少し、総合的な自覚的
愁訴も有意に減少した。心理調査においてもストレス度は有意に減少し、その減少は運動
実施時間が多いほど著明であった。これらに加えてライフスタイルの構成要素の一部(規
則正しい生活の遵守、毎日の朝食の摂取、7~8時間の睡眠時間の確保、飲酒習慣)も改
善傾向を示し、本事業が生活習慣予防の一次対策として重要な意義があることが理解され
た。また、参加者の事業後の感想から本事業が健康に対する知識や意識を高め仲間づくり
を促進する上で重要な契機となることも理解された。しかし、運動指導の方法や内容等に
さらに工夫をこらすことも今後の改善点として考慮すべき点であると思われた。さらにラ
イフスタイルに関しても、喫煙及び労働時間(1日9時間以内)については改善は認めら
れず、これらの習慣の改善を阻止する社会的要因を究明するとともに改善を促進する事業
内容の構築を今後考えていくべきであると思われた。
結論
3種類の保険の加入者計243名を対象として3ケ月間にわたる運動指導を中心と
した栄養指導及び心理指導といった生活習慣改善事業の心身へ及ぼす影響を追究した結果
以下のことが明らかとなった。最低血圧、尿酸、HDLコレステロ-ル、血糖、フルクト
サミン、インスリン分泌能、体脂肪率、長座体前屈、上体おこし及び最大酸素摂取量は有
意に改善し、これらは生活習慣病の予防及び改善に結びつくものと思われた。これらの改
善効果には運動実施時間が多いほど顕著であり、血圧・血中成分の一部については事業前
に異常域の値であった者及び医師判定による疾病状態の重篤性が高かった者の方が顕著で
あるという特徴が認められた。また改善効果には保険種別による差異が生じる(血圧・血
中成分では健保>国保>社保の順で、体力は健保>社保>国保の順で効果が大きかった)
特徴があったが、差異の生じる要因を特定しそれが発生しない対策を事業の中に構築する
ことが今後の改善点として重要であろう。
食生活では菓子・清涼飲料水の摂取得点は有意に低下、自覚症状は総合的な自覚的愁訴
は有意に低下、そして心理面ではストレス量は有意に低下した。これらに加えて、規則正
しい生活の遵守、毎日の朝食の摂取、7~8時間の睡眠の確保及び飲酒習慣などにやや改
善傾向が認められ、参加者のライフスタイルは概ね改善しこれらも前述の効果に結びつい
ていると思われた。また参加者の感想から本事業が健康・体力の保持増進や仲間づくりを
促進する上で重要な契機となっていることも理解された。しかし一方で、運動の指導方法
や内容などにさらに工夫することが必要であるし、改善されなかったライフスタイルの一
部である喫煙習慣と労働時間の過多(1日9時間以上)についても変容を促す対策を事業
の中に構築していく必要があると思われた。さらに、事業によって植え付けられたライフ
スタイルの変容が今後も継続されるべく参加者に動機づけを与える(フォロ-アップ調査
等)ことも今後の改善点として考慮すべきであると思われた。

公開日・更新日

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