文献情報
文献番号
201826007A
報告書区分
総括
研究課題名
人口減少社会における情報技術を活用した水質確保を含む管路網管理向上策に関する研究
課題番号
H29-健危-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 史朗(公益財団法人水道技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 安藤 茂(公益財団法人水道技術研究センター )
- 島崎 大(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 長岡 裕(東京都市大学 工学部)
- 荒井 康裕(首都大学東京 都市環境学部)
- 三宅 亮(東京大学大学院 工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,829,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口減少に伴う水需要減少による給水収益の悪化及び水道事業に携わる職員の減少等により、特に小規模水道事業者において事業の持続が困難になりつつある。また、水需要減少により、水道管内での水の滞留に伴う水質悪化等が懸念される。このような状況下でも、送配水管における管路網の管理及び末端給水での水質管理の確保・向上を図ることが求められており、遠隔監視制御技術の活用による水質管理を含む効果的な管網管理手法が望まれるが、遠隔監視制御を水質管理等に積極的に実施している事例は国内に少なく、高価なシステムであるため、特に小規模水道事業者における普及が進んでいない状況である。このような背景から、本研究は、将来にわたり適切な管路網管理を持続していくために、最近進展が著しい情報通信技術を活用し、少ない職員で広い地域の送配水管を効果的に管理するための遠隔監視制御手法及び小型水質計の提案を目的とする。
研究方法
送配水管における水質管理等の課題の抽出では、毎日検査結果が日々の送配水水質管理へ活用されているかを把握するため、人手による測定及び遠隔監視測定に関するヒアリング調査を実施した。また、関連する国内文献から情報収集を行い、送配水過程の水質管理等の実態把握を行った。送配水管における水質管理等の既存技術の調査では、関連技術を有する企業へ機器コンパクト化の可能性、今後の遠隔監視制御装置開発の方向性等についてヒアリング調査を実施した。海外学術論文等から海外の水質監視技術等の動向を調査した。送配水管における水質等の変化の予測及び実証では、既存測定データに基づき、ニューラルネットワーク(NN)を用いて残留塩素濃度減少を推定し、NNモデルの有用性に関する評価を試みた。また、実証では採水した試料水について、水質試験を実施し、管路内における水質の実態把握を行った。水質計の開発及び実証では、平成29年度に実施した計器の性能検証結果を踏まえて、計器と通信環境の改良・実地検証を実施し、改良事項、有効性の評価を行った。
結果と考察
ヒアリング調査等の結果、人手による測定において、1日1回の測定により浄水場での塩素注入量の変更や水が停滞していないか等の安全確認に活用されていた。一方、遠隔監視装置による監視では、残留塩素濃度の低減化や異常の早期発見等に活用されていることが明らかとなった。関連資料の調査では、計測データを活用して残留塩素濃度と季節変動や流量・水温等の相関を調べ、適切な塩素注入量を決定する等の取り組みが実施されていた。企業ヒアリング調査では、公定法によって機器本体の規格が定められており、コンパクト化に進みにくい背景があることが明らかとなった。今後の装置開発の方向性は、定期メンテナンスの適切な時期を予測判断する機能を搭載した機器の開発が検討されていた。海外の学術文献調査では、従来よりも小型かつ安価な遠隔水質監視センサーの開発が進展していた。実証フィールドでの予測では、既往の研究成果モデルの最大絶対誤差と比較して、最大誤差を改善することができた。NNモデルの推定値は実測値の局所的な微細な変動を再現することが可能であり、NNモデルの汎化能力が確認された。実証ではフィールドで採水した試料水の分析を行い、管内において微細なたんぱく質が発生していることが推定された。水質計の開発では、水質計の動作プログラム及び通信環境の改良を実施した。その後、実地検証を行った結果、計測データの変動・ばらつきが抑えられ、安定したデータを得ることができた。これら結果を受けて、安定的に計測する小型水質計開発の可能性が示された。
結論
人手による測定では、水が停滞していないか等の安全確認に活用されており、遠隔監視装置による監視では、浄水場での塩素注入量の変更や異常の早期発見等に活用されているなど、より多目的や迅速な活用がなされていることが明らかとなった。国内文献調査では、既存測定データを活用して適切な塩素注入量を決定する等の残留塩素濃度低減・均等化に向けた取り組み等が見受けられた。企業への調査結果では、メンテナンスの適切な時期を予測診断する機能を搭載した機器開発が検討されており、予測診断が可能になることで、適切な時期にメンテナンスを行うといった、維持管理の省力化につながる可能性があることが確認された。実証フィールドでの予測では、重回帰分析を用いたモデルと比較して最大絶対誤差が改善され、実測値の局所的な微細な変動を再現できた。また、採水した試料水の分析により、管路内に微細なたんぱく質を含む粒子が発生し、それらも一つの原因となって、管路内の水道水中の残留塩素濃度が低減することや減少速度は水温の影響を受けていることが明らかとなった。水質計の開発では、改良計器の実地検証を行った結果、安定的に計測することができ、改良計器の有効性が確認された。
公開日・更新日
公開日
2019-09-02
更新日
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