文献情報
文献番号
201825019A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアル曝露による慢性影響の効率的評価手法開発に関する研究
課題番号
H30-化学-指定-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 津田 洋幸(名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
- 堀端 克良(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
- 菅野 純(独立行政法人 労働者健康安全機構 日本バイオアッセイ研究センター)
- 渡辺 渡(九州保健福祉大学大学院 医療薬学研究科)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院 医歯薬学研究部)
- 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
- 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 北條 幹(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部 生体影響研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、未だにナノマテリアル曝露で最も懸念される体内蓄積に伴う慢性影響を検討した研究がない上に、定量的リスク評価のために必要な慢性吸入曝露は多層カーボンナノチューブ(MWNT-7)による報告のみである現状を鑑み、2年間の慢性吸入試験と同レベルの評価が可能な代替の曝露手法による慢性試験法の開発を行うことを目的としている。また、これまでに他のナノマテリアルで検討してきた遺伝毒性や免疫影響に関する指標について、今回開発する慢性試験プロトコルへの適用性を検証すると共に、本研究班の研究成果をもって本代替法の有用性を国際的に発信することを目的としている。
研究方法
H30年度は、慢性影響に関する研究として2年間の慢性吸入毒性試験と同レベルの肺内負荷量を達成するために短期間曝露による慢性試験のプロトコルを確立するための予備検討を行った。慢性影響指標に関する研究としては、in vivo遺伝毒性試験系の開発、免疫ネットワークへの慢性影響評価、感染性免疫系への影響、細胞内異物処理メカニズムに関する研究を行った。海外動向調査としてOECDナノマテテリアル作業グループの最新動向を調査した。
結果と考察
慢性影響に関する研究に関して、MWNT-7を用いた慢性吸入毒性試験と同レベルの肺内負荷量を気管内投与法あるいは短期間吸入曝露法で達成するために、肺内負荷量の定量法(SEM法と大西法)のバリデーションと、単回あるいは複数回のMWCNT曝露による肺からの消失速度の測定を行った。その結果、既報(Kasai ら, Particle Fibre. Tox. 2016)の2年間の吸入曝露試験と肺内負荷量に関して同等性を維持するために、ラットを用いた気管内投与では2年間の曝露期間において4週間に1回の間隔で約100μg/ratを間欠投与するプロトコルが妥当であると考えられた。一方、マウス吸入曝露実験ではTaquann全身曝露吸入装置(ver. 3.0)を用いた単回曝露(6時間)を実施し、大西法により肺内負荷量測定を行った。その結果、曝露終了直後の高用量曝露群(5.1 mg/m3)では6μg/mouse、低用量群(2.7 mg/m3)では4μg/mouseであった。以上の条件設定で、気管内投与と全身曝露吸入による慢性試験を開始した。一方、短期間気管内噴霧+慢性観察(2週間8回投与、TIPS法)によるチタン酸カリウム(POT)、アナターゼ型二酸化チタニウム(TiO2)の炎症、発がん性をMWNT-7と比較した実験を行い、104週で肺胞上皮過形成・腺腫・腺がんの合計および胸膜中皮過形成と悪性中皮腫の合計頻度においてPOT(0.25 mg群と0.5 mg群の合計)とMWCNT-7に有意の増加が見られた。POT群の悪性中皮腫率(4/33例)は統計的に有意ではないが、MWNT-7の2年間の吸入曝露試験を実施した日本バイオアッセイ研究センターにおける対照群の背景頻度より約140倍高値であった。慢性影響指標として遺伝毒性を評価するin vivo遺伝毒性試験系の開発研究では、マウスでの気管内投与によるin vivo肺小核試験遺伝毒性試験の予備試験を行い、単回気管内投与による今回の予備試験条件下では、肺小核試験陰性であることを明らかにした。免疫ネットワークへの影響評価としての二層ナノチューブでの腹腔内投与による慢性影響において、腹腔内のマクロファージの活性化や機能が線維長に依存している可能性を示した。一方、感染性に対する影響としては、MWNT-7の単回吸入曝露では、複数回の経鼻投与で得られた肺炎増悪化は認められなかったが、肺の線維化に関する指標(TGF-β)の上昇を見出した。In vitroメカニズム解析研究において、様々なナノマテリアルにより惹起されるNLRP3インフラマソームを介する炎症応答は、ナノマテリアルの物性の違いにより化合物Xによる抑制効果が異なることを見いだした。海外動向調査としては、OECDナノマテテリアル作業グループにおいてEUから昨年度に加え7つの新規プロジェクトが提案されていた。また、本会議では我が国からの報告として、本研究班で検討している間欠型の慢性曝露試験法の検証研究に関する目的や研究計画等について紹介を行い、ガイドライン慢性吸入試験との相同性に関する比較研究の重要性を示した。
結論
通常の慢性吸入試験と同レベルの評価が可能な代替試験の開発に向けて、間欠的な短期的吸入曝露あるいは気管内投与による曝露手法を用いた慢性影響評価手法との比較検証を行う為の基礎的な試験条件を設定し、H30年度内に慢性研究を開始することができた。また、この試験系を用いることにより、より適切な慢性影響指標を同定したり測定したりするための基盤的な条件を整えることができたと考えられる。
公開日・更新日
公開日
2019-06-28
更新日
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