家庭用品化学物質が周産期の中枢神経系に及ぼす遅発性毒性の評価系作出に資する研究

文献情報

文献番号
201825012A
報告書区分
総括
研究課題名
家庭用品化学物質が周産期の中枢神経系に及ぼす遅発性毒性の評価系作出に資する研究
課題番号
H30-化学-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 掛山 正心(早稲田大学・人間科学学術院)
  • 冨永 貴志(徳島文理大学・神経科学研究所)
  • 中島 欽一(九州大学大学院・医学研究院)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 菅野 純(独立行政法人 労働者健康安全機構・日本バイオアッセイ研究センター)
  • 五十嵐 勝秀(星薬科大学・ 創薬科学学域)
  • 今村 拓也(九州大学大学院・医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
13,847,000円
研究者交替、所属機関変更
該当しない。

研究報告書(概要版)

研究目的
 家庭用品は、それに求められる機能が多様であり、種々の化学物質が使われている。その中にはフタル酸やビスフェノールAといった低分子化学物質に代表される物質や、核内受容体や神経伝達物質受容体などに対して低濃度で作動性を発揮すると考えられる物質等が含まれている。この様な特性を有する物質には、申請者らの今までの研究から、周産期にある動物の中枢神経系にシグナル異常を引き起こし、成熟後に遅発性の有害影響を誘発することが示唆されるものもある。世代や性別を問わず、妊婦(胎児)や小児を含む国民が広く日常的に長期に渡って接する家庭用品に関しては、この観点からの有害性評価の確立をすることには大きな意義があると考えられる。
研究方法
 本研究は、先行研究(H20-化学-一般-009、H23-化学-一般-004、H27-化学-一般-007)にて開発した評価系による独自の知見を応用することで、家庭用品に含まれる化学物質について、妊婦(胎児)や小児を上記の様なシグナル異常に脆弱な集団と位置づけ、生活環境レベルでの低用量ばく露による遅発性の中枢神経系への影響を検討する。近年の使用量が増加傾向にある物質の中から、中枢神経系の発生発達に関わる受容体に対して標的性があることが知られている物質を含む、塗料剤(研究1年目:トリブチルスズ化合物類を予定)、ゴム製品老化防止剤(研究2年目ビスフェノール系化合物類を予定)、及び防虫加工剤(研究3年目:ピレスロイド系化合物類を予定)を対象とし、周産期マウスへの経胎盤投与や経乳投与を行い、成熟後に、個体・器官(システム)レベル、組織・細胞レベル、分子レベルに生じた影響を実験的に捉える。具体的な毒性評価指標は、先行研究において遅発性毒性が明らかとなった既知化学物質の結果を基準として、定量的に評価する。
結果と考察
 H30年度の研究として、(1)発生発達期にかけてのペルメトリンの低用量長期飲水投与による成熟後の中枢神経系への影響解析と(2)発生発達期にかけての塩化トリブチルスズの低用量長期飲水投与による成熟後の中枢神経系への影響解析、(3)化学物質暴露影響評価に関する国際的なガイドラインの作出に向けた取り組みを行った。その結果、以下の結果を得た。(1)雌雄マウスを交配させるとともに0.3ppmペルメトリンを含んだ飲水投与を開始し、妊娠期および出産期-授乳期を通して雌マウスに飲水投与を継続し、得られた産仔雄マウスを用いて生後10週齢時に行動解析を行った結果、投与群マウスにオープンフィールド試験における総移動距離の減少と条件付け学習記憶試験における音連想記憶度と対応するすくみ率の低下が有意に認められた。さらに行動解析後のマウス脳切片を用いた各種神経分化マーカーによる免疫組織化学解析の結果、未分化ニューロン数の増加が認められた。またグリア細胞であるアストロサイト数の減少と未発達な突起を持つアストロサイトの増加が確認できた。(2)塩化トリブチルスズを0.025、0.25、2.5ppmに調整し、妊娠11.5日齢の雌マウスに飲水投与を開始し、妊娠期および出産期、授乳期を通して雌マウスに飲水投与を継続し、得られた産仔雄マウスを用いて生後12-13週齢時に行動解析を行った。その結果、いずれも空間連想記憶異常が疑われた。特に高用量投与群においては音連想記憶異常を伴うものであった。幼若期と成熟期におけるマウス海馬神経回路への塩化トリブチルスズ添加による直接影響の差違について、膜電位感受性色素を用いたイメージング解析を行った結果、40pMの低濃度にて、急性影響を受ける部位に違いがあることが示唆された。(3)OECDテストガイドラインのTG426を補強するための、情動行動(不安関連行動)への影響、および学習記憶行動への影響を評価するバッテリー式のマウス行動評価系プロトコールの提案を行った。その際、従来のプロトコールでは不十分であった行動解析試験施行前のマウスの馴化と行動解析試験中の実験環境制御に関する記載も補強した。
結論
 家庭用品に使われる一部の化学物質について、マウスでの発生ー発達期(周産期を含む)におけるデータが収集できた。発生-発達期(周産期を含む)を対象とした国際的ガイドラインへの提言のためにも、家庭環境レベル、生活環境レベルにおける化学物質暴露による神経行動毒性の強度を明らかにするために、引き続きデータを収集するとともに、機能変調に対応する神経科学的物証を捉える必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2019-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-07-11
更新日
2020-12-14

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201825012Z