網羅的エピゲノム解析を用いた化学物質による次世代影響の解明:新しい試験スキームへの基礎的検討

文献情報

文献番号
201825006A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的エピゲノム解析を用いた化学物質による次世代影響の解明:新しい試験スキームへの基礎的検討
課題番号
H29-化学-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅 邦夫(山梨大学大学院総合研究部医学学域社会医学講座)
  • 石塚 真由美(北海道大学大学院獣医学研究院環境獣医科学分野)
  • 佐田 文宏(中央大学保健センター)
  • 荒木 敦子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
  • 宮下 ちひろ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
  • 伊藤 佐智子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
  • 山崎 圭子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
  • 三浦 りゅう(北海道大学 環境健康科学研究教育センター )
  • 堀 就英(福岡県保健環境研究所)
  • 松村 徹(いであ株式会社環境創造研究所)
  • 松浦 英幸(北海道大学大学院農学研究院)
  • 篠原 信雄(北海道大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
16,208,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メチル化を含む後天的DNA化学修飾であるエピゲノムは,塩基配列の変化なしに遺伝情報を分裂後の細胞に伝える個体発生や生体機能維持に必須のメカニズムである。母体の環境要因による児のエピゲノム変化が後世の健康・疾病リスク発現に関与していることが示唆されているため, エピゲノムを介したメカニズム解明は環境リスク評価や健康障害の予防にとって重要である。一方, DNAメチル化の解析法として, 近年エピゲノム網羅的メチル化解析の技術が開発されてきた。しかし,健康影響が懸念されている合成化学物質の胎児期曝露について,網羅的メチル化解析を用いた研究は非常に少ない。さらに,曝露によるエピゲノム変化が関与する次世代影響については未だ明らかにされていない。本研究は,種々の環境化学物質曝露による多様なアウトカム発現機序として,エピゲノム変化を介する毒性メカニズムを遺伝的差異や多様なライフスタイルをもつヒト集団でエピゲノム網羅的に明らかにし,新規の次世代影響試験およびスキームの開発に資する。
研究方法
(1)曝露評価として 94名の臍帯血試料を対象にダイオキシン類・PCBsの異性体定量分析を実施した。(2)血液中のフタル酸モノエステル類7種(MnBP,MiBP,MBzP,MEHP, MEHHP,MECPP,cx-MiNP)の分析法を確立し,試料20検体の分析を行った。(3)エピゲノム網羅的DNAメチル化変化と胎児期ビスフェノールA(BPA)曝露との関連を検討した。 (4)母児562名(ADHDケース:245名,コントロール:317名)を対象とし。質問票(非喫煙群(n = 276),喫煙群(n = 38))もしくは母体コチニン濃度(高濃度群(n = 48),中程度濃度群(n = 200),低濃度群(n = 262))へ群別化した。昨年度実施した網羅的DNAメチル化解析から胎児期の喫煙曝露により有意にDNAメチル化変化した46CpGsから14CpGs(9遺伝子)を解析遺伝子領域とし,次世代シークエンサーを用いたメチル化解析はThermoFisher社のIonPGMシステムを用いた。
結果と考察
(1)臍帯血94例のうちダイオキシンは92例,PCBsは94例すべての定量結果が得られた。定量値を過去の報告事例と比較したところ同等かやや低い濃度となり,職業性の曝露等に由来する特異的な高濃度事例は認められなかった。 (2)妊娠初期血清中フタル酸エステル類の測定ではDEHPの一次代謝物であるMEHPは諸外国の先行研究より血中濃度が低いが,DnBP,DiBPの一次代謝物であるMnBP,MiBPの血中濃度が先行研究より高レベルであった。 (3)解析した45万CpG部位全体のメチル化変化としては,男児ではメチル化増加,女児ではメチル化減少が顕著であった。また,メチル化変化を示す遺伝子のネットワーク形成や機能にも男女間で差異が見られ,BPA曝露によるメチル化への作用機序に性差による違いがあることが示唆された(Sci Rep. submitted)。(4)コチニン濃度で群別化した結果,ERS1以外の4つのCpGsは質問票と同様に低濃度および中程度濃度群と比較して高濃度群で有意な差が認められた。次世代シークエンサーを用いた特異的遺伝子領域のDNAメチル化解析法から喫煙曝露の影響を受けやすい遺伝子領域の検証ができた。
結論
(1)臍帯血94例のうちダイオキシンは92例,PCBsは94例すべての定量結果が得られた。(2)フタル酸エステル類のDnBP,DiBPの一次代謝物であるMnBP,MiBPの妊娠初期血清中濃度が諸外国より高レベルであった。(3)一般環境レベルのBPA曝露でも男女特異的に児のDNAメチル化に影響を与えることが明らかになった。(4)次世代シークエンサーを用いた特異的遺伝子領域のDNAメチル化解析法の妥当性を検討し,喫煙曝露の影響を受けやすい遺伝子領域を検証することができた。次世代シークエンサーによるメチル化解析の精度についてはさらなる検証が必要である。今後,化学物質曝露に誘引されるDNAメチル化変化がどのアウトカムに影響するかを介在の大きさを含めて明らかにし, 胎児期の化学物質曝露と成長後の疾病発現をつなぐ分子メカニズムとして, エピゲノム試験法開発につなげる。

公開日・更新日

公開日
2019-07-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-07-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201825006Z