地域保健法施行後の保健所機能の強化・推進の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800711A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健法施行後の保健所機能の強化・推進の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
藤崎 清道(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根智史(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
  • 武村真治(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成6年の地域保健法により、保健所は広域的、専門的、技術的サービスの機能強化が求められ、所管区域の拡大や施設・設備の充実などの、保健所の「整備」に関する側面と、保健所の「運営」に関する側面から、機能の強化・推進を評価する必要にせまられている。しかし評価手法が開発されていないため、保健所の機能強化の推進状況はほとんど把握されていない。そこで本研究では、地域保健法施行後の保健所機能の強化・推進の状況を評価する指標を開発し、保健所機能の評価体系を構築することを目的とした。
研究方法
本研究では以下の2つの研究を実施した。
(1)保健所の整備に関する研究…都道府県、指定都市、特別区、保健所において地域保健の実務に従事する医師及び保健婦、大学や研究所において地域保健の研究に従事する研究者からなる研究委員会を設置し、保健所機能の強化・推進を評価する指標のあり方を、focus groupの手法を用いて検討した。
(2)保健所の運営に関する研究…研究委員を対象に、ケースメソッド方式で保健所機能の強化・推進に関する事例を収集した。事例の執筆内容として「問題編」と「考え方編」に分け、前者では事例の背景、主人公の立場、関係する人々、事例の発端、展開、決断を迫られた具体的事例をできるだけ客観的に、後者では論点、解決策、学んだ教訓などを執筆者の経験や考えをもとにまとめた。
結果と考察
(1)はじめに、平成6年に告示された「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」で記載されている保健所の「整備」に関する事項(所管区域、設備、マンパワーなど)と、保健所の「運営」に関する事項(専門的・技術的業務、情報機能、調査研究機能、市町村援助、企画調整機能など)を評価の枠組みの基礎として、各項目に当てはまると考えられる評価項目を全て列挙した。
議論の中で、保健所機能を評価する前提としていくつかの問題点が指摘された。一つは、保健所の中には政令市型、県型、基幹保健所などの機能の異なるものが混在している点であり、もう一つは評価のレベルとして、設備、マンパワーなどの保健所機能の前提条件である「システム」、実施回数、事業内容などの保健所事業の「実績」、市町村の信頼、健康水準の向上などの保健所の機能強化による「効果」の3つが考えられる点であった。そして保健所機能評価の方針として、保健所の種別に関わらず共通の評価項目からなる、地域保健法の基本指針に示された機能を網羅できる「ミニマムスタンダード」を作成し、保健所によって該当しない項目(例えば、政令市型における市町村の援助など)については「該当せず」とすること、実績や効果のレベルは、地域保健法施行後ある程度の期間が経過しないと評価できない部分が多いため、「システム」の部分に重点を置くこととした。
さらにこれまでの議論では、保健所の「整備」に関する事項と保健所の「運営」に関する事項を独立のものとして扱ってきたが、この両者は互いに関連するものであることが明らかとなり、「整備」の事項に関連する「システム」の系列と「運営」の事項に関連する「機能」の系列を組み合わせた「保健所機能評価マトリックス」及び「機能横断的評価項目」からなる評価体系が構築された。
「システム」の系列は、設備(機能のために必要な部屋の有無など)、マンパワーの配置(機能のために必要な専門職・担当職員の有無など)、マンパワーの研修(実施主体別・職種別派遣人数、OJTの実施体制及び実施の有無、派遣計画の有無など)、所内システム(担当部局の有無及び職員数、担当部局への支援体制の有無など)、所外システムで構成された。所外システムは市町村支援(市町村からの相談の有無、マンパワー及び技術支援の有無、共同事業の有無など)と関係団体との連携(医師会、福祉部門などとの会議の有無など)からなる。
「機能」の系列は、専門的・技術的サービスの供給機能(対人サービス、対物サービス)、情報機能(情報の整備、情報の活用)、調査研究機能、研修機能、企画調整機能、危機管理機能で構成された。
機能横断的評価項目は、所管区域及びその区域の状況(管内の人口・面積・市町村数、二次医療圏、老人保健福祉圏等との整合性など)、設備(合築・改修の状況、面積など)、予算(保健所独自の予算の有無など)で構成された。
(2)4名の研究委員によって執筆された8事例は「保健所機能評価マトリックス」の機能の項目にしたがって、以下のように分類された。
○専門的・技術的サービスの供給機能の事例
・し尿運搬船のタンクに混じった漁港の清掃排水
○研修機能の事例
・保健所保健婦の企画力の育成
・県と市町村保健婦の相互・人事交流
○企画調整機能の事例
・病床過剰圏域における市立病院開設計画
・保健所運営協議会に代わる会議の設置
○危機管理機能の事例
・腸管出血性大腸菌O157による食中毒
・A型肝炎の集団発生が疑われる保育園への対応
・水害時の保健所の対応
この分類は各事例において中心的話題と考えられる事項にしたがっているが、分類項目以外の様々な要素が含まれていた。保健所機能評価マトリックスに基づいて事例を詳細に検討することによって、マトリックスと現実との整合性が明らかになり、保健所機能の評価方法として有用であることが示された。
今回の事例を実際にディスカッションで使用することにより、様々な解決案が提示され、保健所機能の観点からもより深い考察がなされるものと考えられた。また、実際には成功しなかった事例を検討することでも、別の角度から保健所機能強化の手がかりが得られることも期待される。
(3)今後は、パイロットスタディによって「保健所機能評価マトリックス」及び「機能横断的評価項目」の問題点や修正すべき点を明らかにし、都道府県、指定都市、中核市、政令市、特別区、保健所を対象に全国調査を実施し、現在の保健所機能の強化・推進の状況を評価し、今後の保健所機能のあり方に関する政策提言を行う。
結論
地域保健法施行後の保健所機能の強化・推進を評価するための指標をfocus groupの手法を用いて検討した結果、システムの系列(設備、マンパワー、所内・所外システム)と機能の系列(専門的・技術的サービスの供給、情報、調査研究、研修、企画調整、危機管理)からなる「保健所機能評価マトリックス」及び「機能横断的評価項目」が構築された。また保健所機能の強化・推進に関する現場での事例を分析した結果、実際の事例には多くの保健所機能が関与していること、事例分析が保健所機能の評価手法として有用であることが示された。

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