文献情報
文献番号
199800710A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進事業の評価方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
猫田 泰敏(東京都立保健科学大学)
研究分担者(所属機関)
- 湯沢布矢子(宮城大学)
- 佐藤林正(九州看護福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢化の進展に伴い、生涯を通じた健康生活の実現、特に生活習慣病の予防やストレス等の影響による半健康状態の改善のため、個人の生活習慣の改善を目指す健康増進事業の重要性はますます増加している。中でも、地域において直接的に住民に対して行われる健康教育の意義・役割は大きく、その評価の充実を図ることは、評価結果を踏まえた効果的な展開を推進する上で必須の要件であり、さらには保健婦機能の充実強化と専門性の確立のための重要な課題といえる。本研究では、生活習慣病の一次予防としての健康教育に焦点をあて、日常の保健活動に即した実際的な評価方法の確立を目指し、①健康教育の評価実態、特に効果評価にかかわる実施実態の検討、②内的妥当性を保つための対照群設定による効果評価の方法に関する検討、③効果にかかわる評価指標に関する検討、を中心的な課題として各分担研究を行った。
研究方法
前記課題に取組むため、1)地域における健康教育の評価実態に関する研究、2)健康増進事業による参加者における効果測定のための質問項目に関する研究、3)日本公衆衛生学会発表演題における健康教育効果の評価要素の検討、4)健康教育の実践経験に基づく効果にかかわる評価指標作成の試み、5)対照群を設定した健康教育の効果評価の一事例、の各分担研究を行った。課題①には分担研究1、課題②には分担研究1、3および5、さらに課題③には分担研究2、3および4が関連する。各分担研究は次の方法により実施した。1)地域における健康教育の評価実態に関しては、全国の保健所ないし市町村からそれぞれ400か所づつを無作為抽出し、保健婦主務者を対象として、健康教育の評価実態、特に効果の評価にかかわる実施実態について郵送による質問紙調査を平成10年11月に実施した。2)地域において実施されている健康増進事業による参加者における効果を測定するための調査票を作成する上で役立てるために、最近の主要な公衆衛生関係の各種雑誌、研究報告書、出版物の中から、調査票およびその作成目的にかかわる記述を収集・整理するとともに、前記調査に併せて、各保健所ないし市町村で実際に使用したアンケート票や問診票等を収集した。なお、既存文献の選択基準は、その信頼性・妥当性を確保するため、公衆衛生の専門家によって質問文・選択肢が作成されていること、および原則として、全国レベルないし地域レベルで調査対象が抽出され、その集計結果が掲載されていることの2点とした。3)最近3年間の日本公衆衛生雑誌の総会抄録集で、地域住民に対する教育効果を評価した演題について、先に提案した健康教育効果の評価要素の設定実態についてまとめた。4)地域での健康教育実践経験が豊富で、特に糖尿病予防教室に深く取り組んだ一保健婦の協力を得て、経験的に参加者における効果判定のめやすとして活用してきた方法を聞き出すインタビュー調査を行った。5)平成10年度に奈良県で、6保健所のうち4保健所の管内市町村において、準実験デザインにより対照群を設定して生活習慣病予防のための健康教育の効果評価に取り組んだ経緯のうち、評価の方法論の検討経緯を中心にまとめた。
結果と考察
まず、分担研究別の結果を述べる。1)調査票の回収率は総数で69.1%であった。健康教育の評価が地域においてますます重視されていること、および地域保健法による保健所、市町村の役割分担が評価実施に反映している実態が明らかとなった。また、健康教育の評価段階のうち効果にかかわる評価実態については、参加者の健康・生活の状況や知識・態度・行動変容等の把握にはアンケートや問診・健診結果の利用が主要な方法として活用されていること、また、評価指標を得るために新た
な検査を実施した経験も2割認められること、さらに、4割の保健所・市町村においては、健康教育の効果を把握するために、指標を実施前・後に同じ方法で調査した経験がある等の実態が明らかとなった。また、対照群の設定については、保健所22、市町村15から実施経験があるとの回答が寄せられた。さらに、健康教育の効果を把握するためのデータの収集と分析に関して、7割が分析に関する研修の機会の不十分さを、また5割が役立つマニュアルの未整備を問題として指摘していることに比べ、予算の点や分析ソフト、ハードの未整備を指摘する意見は比較的少なかった。また、健康教育の評価の実施や、評価のためのデータの収集と分析等に関する自由回答を、評価の重要性や必要性、評価指標の工夫について、評価実施に関わる技術的な問題点、データ解析技術習得の必要性、評価者の問題、大学等との連携、その他に分類・整理した。2)前記方法に従い既存文献から、個人の健康習慣に関わる実態の把握に活用可能な質問文と選択肢を含む14文献を収集し、そのリストを示した。また、一部については調査票作成の目的にかかわる記述を抽出するとともに記載されている調査票を例示した。さらに、前記調査にあわせて収集したアンケート票や問診票等から、特に健康知識と社会支援環境に関する質問項目を抽出した。3)95演題を分析した結果、評価の内的妥当性を保つために望ましいとされている実験デザインないし準実験デザインが13題で採用されており、また評価指標の特性に応じて事後調査時期が設定されていることが推測された。評価指標として用いられているデータ項目は、身体測定や血液検査などの客観的な項目が多く使用されていた。4)本事例の保健婦は、教室のプログラムづくりにおいては、生活習慣を改善することが客観的な指標の改善につながり、参加者自身がその意義を直に理解できることが生活習慣の定着に結びつくことを重視し、さらに、試食会では、普段使っている箸と茶碗を持参させた体験的学習法を組み入れ、個別指導と集団指導を効果的に組合わせて指導していた。また、糖尿病予防教室の数年にわたる実践経験を通じて、働きかけの効果判定のめやすに気づき、これを3つのステップとして具体的に視点化し、これらのことは、順序性をもってできるようになることも指摘している。この視点にそって、測定、判定の手続きを定めることにより、順序尺度として意味が明確なガットマンスケールを作成することが可能なことを示した。5)事業の取り組み経過を、事業の目的と方法、効果評価を行う健康教育の選定、本事業の企画と実施状況の点からまとめたが、本取り組みの最大の特徴は、対照群を設定した比較調査にしたこと、および各健康教育において共通の調査票および調査方法を採用したことであった。地域における保健事業の一環として、このとおり科学的な観点から効果評価に取り組んだ経緯は貴重であり、他地域での実践上有用な実例として紹介した。
これらの分担研究の結果を踏まえて、先の3課題について考察すると、まず、①健康教育の評価実態、特に効果評価にかかわる実施実態の把握については、研究者らは平成元年に、今回の質問項目のうち「健康教育の評価の視点分類」を用いた全国調査を行っているが、分担研究1により、この調査成績との比較を通じて、地域における評価実施の進展状況を明らかにするとともに、効果評価にかかわる取り組みの現状を明らかにした。本調査成績は、実態把握のみならず、今後の効果評価にかかわる展開を検討するための基礎的資料として重要と考えられる。次に、②内的妥当性を保つための対照群設定による効果評価の実施に関する検討については、分担研究1で作成した資料、分担研究3における整理、分担研究5の報告を通じて、地域における実践例を提示した。これらは、研究機関との共同研究が多いと考えられるが、地域が主体となって保健事業の一環として取り組んだ実例も紹介されており、科学的な評価実践上の有用な事例としてまとめたところである。また、③効果にかかわる評価指標に関する検討については、分担研究2により指標を得るための一方法である質問紙調査法を用いる際に、調査票を作成する上で役立つ参考事例を提示し、また、分担研究3において研究ベースで使用されている評価指標を分類・整理した。さらに、分担研究4で熟練保健婦に対するインタビューを通じて、参加者における効果判定のめやすとしてきた視点-経験的知-を明らかにするという手法を用いて、保健婦の視点からの指標づくりのための一検討を試みた。これらの実例は、いずれも地域における実践を通じて作成・提案されたり使用されたものであり、日常の保健活動に即した実際的な評価を行うための資料として直ちに活用できるものであることを強調したい。来年度においては、本年度の成績をもとに、評価指標の作成にかかわる基本的事項の整理、教育効果把握のための調査計画の立案・実施支援の具体的方策の検討、得られた情報の集計・分析の支援手順のまとめと有効な集計・分析ソフトの設計等を行い、パーソナルコンピュータ上で動く健康増進事業の評価支援のためのマルチメディアソフトの開発につなげたい。
な検査を実施した経験も2割認められること、さらに、4割の保健所・市町村においては、健康教育の効果を把握するために、指標を実施前・後に同じ方法で調査した経験がある等の実態が明らかとなった。また、対照群の設定については、保健所22、市町村15から実施経験があるとの回答が寄せられた。さらに、健康教育の効果を把握するためのデータの収集と分析に関して、7割が分析に関する研修の機会の不十分さを、また5割が役立つマニュアルの未整備を問題として指摘していることに比べ、予算の点や分析ソフト、ハードの未整備を指摘する意見は比較的少なかった。また、健康教育の評価の実施や、評価のためのデータの収集と分析等に関する自由回答を、評価の重要性や必要性、評価指標の工夫について、評価実施に関わる技術的な問題点、データ解析技術習得の必要性、評価者の問題、大学等との連携、その他に分類・整理した。2)前記方法に従い既存文献から、個人の健康習慣に関わる実態の把握に活用可能な質問文と選択肢を含む14文献を収集し、そのリストを示した。また、一部については調査票作成の目的にかかわる記述を抽出するとともに記載されている調査票を例示した。さらに、前記調査にあわせて収集したアンケート票や問診票等から、特に健康知識と社会支援環境に関する質問項目を抽出した。3)95演題を分析した結果、評価の内的妥当性を保つために望ましいとされている実験デザインないし準実験デザインが13題で採用されており、また評価指標の特性に応じて事後調査時期が設定されていることが推測された。評価指標として用いられているデータ項目は、身体測定や血液検査などの客観的な項目が多く使用されていた。4)本事例の保健婦は、教室のプログラムづくりにおいては、生活習慣を改善することが客観的な指標の改善につながり、参加者自身がその意義を直に理解できることが生活習慣の定着に結びつくことを重視し、さらに、試食会では、普段使っている箸と茶碗を持参させた体験的学習法を組み入れ、個別指導と集団指導を効果的に組合わせて指導していた。また、糖尿病予防教室の数年にわたる実践経験を通じて、働きかけの効果判定のめやすに気づき、これを3つのステップとして具体的に視点化し、これらのことは、順序性をもってできるようになることも指摘している。この視点にそって、測定、判定の手続きを定めることにより、順序尺度として意味が明確なガットマンスケールを作成することが可能なことを示した。5)事業の取り組み経過を、事業の目的と方法、効果評価を行う健康教育の選定、本事業の企画と実施状況の点からまとめたが、本取り組みの最大の特徴は、対照群を設定した比較調査にしたこと、および各健康教育において共通の調査票および調査方法を採用したことであった。地域における保健事業の一環として、このとおり科学的な観点から効果評価に取り組んだ経緯は貴重であり、他地域での実践上有用な実例として紹介した。
これらの分担研究の結果を踏まえて、先の3課題について考察すると、まず、①健康教育の評価実態、特に効果評価にかかわる実施実態の把握については、研究者らは平成元年に、今回の質問項目のうち「健康教育の評価の視点分類」を用いた全国調査を行っているが、分担研究1により、この調査成績との比較を通じて、地域における評価実施の進展状況を明らかにするとともに、効果評価にかかわる取り組みの現状を明らかにした。本調査成績は、実態把握のみならず、今後の効果評価にかかわる展開を検討するための基礎的資料として重要と考えられる。次に、②内的妥当性を保つための対照群設定による効果評価の実施に関する検討については、分担研究1で作成した資料、分担研究3における整理、分担研究5の報告を通じて、地域における実践例を提示した。これらは、研究機関との共同研究が多いと考えられるが、地域が主体となって保健事業の一環として取り組んだ実例も紹介されており、科学的な評価実践上の有用な事例としてまとめたところである。また、③効果にかかわる評価指標に関する検討については、分担研究2により指標を得るための一方法である質問紙調査法を用いる際に、調査票を作成する上で役立つ参考事例を提示し、また、分担研究3において研究ベースで使用されている評価指標を分類・整理した。さらに、分担研究4で熟練保健婦に対するインタビューを通じて、参加者における効果判定のめやすとしてきた視点-経験的知-を明らかにするという手法を用いて、保健婦の視点からの指標づくりのための一検討を試みた。これらの実例は、いずれも地域における実践を通じて作成・提案されたり使用されたものであり、日常の保健活動に即した実際的な評価を行うための資料として直ちに活用できるものであることを強調したい。来年度においては、本年度の成績をもとに、評価指標の作成にかかわる基本的事項の整理、教育効果把握のための調査計画の立案・実施支援の具体的方策の検討、得られた情報の集計・分析の支援手順のまとめと有効な集計・分析ソフトの設計等を行い、パーソナルコンピュータ上で動く健康増進事業の評価支援のためのマルチメディアソフトの開発につなげたい。
結論
健康増進事業のうち生活習慣病の一次予防としての健康教育に焦点をあて、日常の保健活動に即した実際的な評価方法の確立を目指した各種研究を行った。本成績を踏まえ、健康増進事業の評価支援ソフトの開発につなげたい。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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