保健福祉サービスの効果のQOLを含む総合的な指標による評価

文献情報

文献番号
199800709A
報告書区分
総括
研究課題名
保健福祉サービスの効果のQOLを含む総合的な指標による評価
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
川南 勝彦(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会を迎えて、現在、高齢者に対するtotalhealth promotionとして、健康診査やリハビリテーション等の保健事業と、デイサービスやホームヘルパーの派遣等の福祉事業が行われている。これらの諸サービスの有用性について、必ずしも明らかにはされていない。地域保健法では、保健所が果たす役割の一つとして、調査研究機能をあげている。その調査研究の目的として、さらに良質で効率的な保健サービスが地域に提供されることを目指していると考えられる。本研究では、保健と福祉のサービスの有用性について、ADLなど身体上の指標の他、QOL等の精神的指標を用いて、3年間のコホート研究により保健福祉サービスが果たすQOLを検討する計画である。
今回はベースライン調査として、都市部・農村部における高齢者の状況、特に介助が必要である者について、家庭状況、福祉サービスの必要度の点で比較検討を行うことを目的とした。
研究方法
研究対象は、東京都大田区新井宿出張所管内における年齢71~79歳の在宅高齢者1,403人、石川県能登中部保健所管内の七尾市における同年齢の在宅高齢者1,900人を対象とした。管轄保健所に協力を依頼し、ベースライン調査として郵送法による調査を行った。調査項目は、ADLとQOL(PGC Morale Scale)等の調査指標、住居形態、収入、同居家族についてであった。なお、PGC Morale Scaleにより測定されるQOLは志気の高さを表している。さらに、大田区については、かかりつけ医の状況を調査した。
結果と考察
1.ADLの状況;大田区の方で介助を必要とする者が多く、その差は2%であった。
2.福祉サービスの必要性(介助が必要な者);大田区では必要とした割合が、男女とも多かったが、七尾市では必要としない割合が多かった。
3.基本属性(介助が必要な者);住居状況については、大田区では、約2割が賃貸の集合住宅であった。七尾市では、ほとんどが持ち家の一戸建て住宅であった。自室状況については、大田区では、約2割が自室のない状況であった。七尾市では、約9割が自室ありであった。収入状況については、大田区、七尾市とも年金収入は約9割を超え、収入なしが大田区では約1割、七尾市では約2%であった。同居家族については、大田区では一人暮らしが約1割であったが、七尾市では一人暮らしが全くいなかった。
4.QOL得点;大田区、七尾市とも福祉サービスを必要とした方が低かった。
5.大田区でのQOL指標中の項目;統計学的に有意な違いのあったのは、家族・親戚・友人の行き来についての満足度であった。福祉サービスを必要とした方に、満足していない状況がみられた。
6.大田区における基本属性;住居状況、自室の所有、収入状況については、大田区全体との違いはみられなかった。同居家族については、大田区全体と比べて一人暮らし、夫・妻が多く、息子・嫁、孫は少ない傾向であった。
7.大田区におけるかかりつけ医の状況;かかりつけ医の有無については、2割の人がいないと回答し、そのうち紹介希望者の割合が約4割であった。かかりつけ医がなく、紹介希望もない者について、過去1年間の受診状況は受診していないと回答した者が約4割であった。ADL状況においてもほとんど100%近くが介助を必要としない者であった。かかりつけ医とQOL得点との関係については、かかりつけ医がいない方が大田区全体では高いが、介助を必要とする者では、かかりつけ医のいる方が高い結果であった。そのQOL指標中の項目の中で、介助を必要とする者で、統計学的に有意な違いのあったのは、家族・親戚・友人の行き来についての満足度であった。かかりつけ医がいない方に、満足していない状況がみられた。
結論
1.都市部と農村部では、介助を必要とする者の割合は同じ程度であったが、福祉サービスの必要性については、都市部でより必要とする者が多い結果であった。
これらの要因は、①住居形態の違い、特に都市部で賃貸の集合住宅が多いこと、自室を所有していない割合が高いことが影響している。賃貸であることによる経済的な面、マンション等高層建築による歩行面での弊害が考えられた。
②都市部では、収入のない者が1割であったこと、同居家族では、一人暮らしが1割あったことが影響していると考えられた。
収入での保証がないことや、一人暮らしという生活での不安などが、福祉サービスを必要とする割合を多くさせていると考えられた。
2.QOL得点は、福祉サービスを必要とする者の方が、農村部・都市部で同様に低かった。
このことから、都市部だけでなく農村部においても、福祉サービス等の充実によるQOLを向上させることの必要性が考えられた。
3.都市部の同居家族のうち、介助が必要で、福祉サービスを必要とした者は、大田区全体と比べて一人暮らし、夫・妻が多く、息子・嫁、孫が少なかった。
このことから、都市部における老夫婦世帯や独居老人への孤立化に対する援助が必要であることが示唆された。そして、住宅・収入対策も必要であることが考えられた。
4.都市部でのかかりつけ医の状況については、介助を必要とする者で、かかりつけ医のいない方が、QOL得点が低く、家族・親戚・友人の行き来について満足していない状況がみられた。
このことから、かかりつけ医を定着させることが、都市部における高齢者、特に要介助者に対して必要であると考えられた。

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