保健サービスの向上をめざした地域保健・医療・福祉支援情報システムに関する研究

文献情報

文献番号
199800706A
報告書区分
総括
研究課題名
保健サービスの向上をめざした地域保健・医療・福祉支援情報システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 関田康慶(東北大学大学院経済学研究科)
  • 信川益明(杏林大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化の進展に伴い、地域の保健サービスは、医療・福祉との連携のもとに提供されることが不可欠となってきた。この連携を推進し、効率的で有効な保健サービスを提供するには、情報システムによる支援が必要となる。我々は以前より地域の保健・医療・福祉の連携を支援するため、スキップ情報システムと呼ぶモデル情報システムの開発を宮城県遠田郡田尻町で進め、昨年度までに第一次構築を行った。本研究では、より効率的で有効な保健サービスの提供のみならず、医療・福祉と連携のいっそうの推進に資するため、スキップ情報システムの第二次構築をめざす。とくに2000年からの開始予定の介護保険サービスにも役立たせようとする。このため、①保健・医療・福祉連携支援情報システムとしてのスキップ情報システムの第二次システムの設計・構築、②地域保健・医療・福祉支援情報システムの定量的評価方法の検討、③医療・福祉との連携を考慮した疾病再発(3次)予防システム構築のための情報システムの機能の検討、に関する研究を実施した。
研究方法
前述した3課題についての研究方法を次に示す(かっこ内は分担研究者名)。
1.第二次システムの構築には、第一次システムの問題点を明確にしておく必要があるため、スキップ情報システムを導入した田尻町のスキップセンターにおける各部門の職員に対し、第一次構築の問題点ないし追加が望ましい機能に関して、聞き取り調査を行った。また第二次構築には、田尻町での高齢化が著しいことを考慮して、介護保険支援機能を付加する予定であるが、そのための条件を検討した。この条件の検討は、要介護者の実態とサービス量および資源量の推計が可能となる調査を実施し、これに基づき行った(稲田)。
2.地域の保健・医療・福祉支援情報システムの定量的評価方法の検討にあたっては、導入後の業務効果、サービス提供の質の向上、コンピュータとその周辺環境、システムのメンテナンス性、データベース情報の充実度、セキュリティの信頼性、情報リテラシーの確保、集計・分析・統計解析機能の8項目の評価点を考案し、これらの項目に評価ポイントを示すサブ項目を設けて、5段階のリッカートスケールにより、5点から1点の得点を与えるようにした定量的評価方法を考えた。そして、スキップセンターの各部門で評価を実施し、得られた得点に基づき、種々の解析を実施した(関田)。
3.医療・福祉との連携を考慮した保健サービスの向上のための情報システムの機能の検討に資するため、東京都北多摩郡南部2次医療圏内の武蔵野、三鷹、調布、府中、小金井、狛江の6市医師会に所属する631 の医療機関について、医療機関の診療項目、予約制、救急告示、入院設備、許可病床数、指定医、人間ドック、訪問診療、専門外来、相談窓口、他の医療機関からの紹介患者の受け入れ、医療機器の種類と共同利用の状況など、医療連携に関する医療情報について調査し、調査結果の解析を行った(信川)。
結果と考察
1.保健・医療・福祉連携支援情報システムとしてのスキップ情報システムの第二次システムの設計・構築:スキップセンターにおける各部門別の第一次構築における問題点ないし今後に求められる機能として聞き取り調査の結果、職員からあげられた主な事項を次に記す。①健診・事後指導関係:総合行政システムとのオンライン化による健診案内などの正確化、②介護保険係:住基データと福祉システム管理データのタイムラグの解消、③在宅介護支援部門:ホームヘルプ管理の24時間対応への可能化、④診療所:現在使用中のスタンドアロンのパソコンのネットワークへの接続、など。この結果、第一次構築に関する問題点をかなり明確にすることができたものの、スキップ情報システムの本格的運用後、まだ日も浅いことから、引き続き運用を通じての問題点の検討が必要と思われた。次いで、介護保険支援情報システムの構築条件について検討した。その結果、クライアントサーバ型による情報の一元管理、介護支援専門員への業務支援、効率的訪問計画立案支援、モニタリング機能、既存システムとの互換性、共有データの標準化、セキュリティ確保、情報システムの評価の体系化、住民への情報開示などを考慮して、システム設計を実施するべきであると考えられた。これらの条件は、次年度以降にスキップ情報システムに介護支援機能を組み入れる際の重要なポイントになるものと思われた。
2.地域保健・医療・福祉支援情報システムの評価:前述した8項目の評価視点を用いて、スキップセンターの職員を対象に面接による聞き取り調査を実施し、それぞれの視点についての満足度を得点化した。その結果、スキップセンターの診療部門、デイサービスセンター、ケアハウス、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、保健福祉行政部門、健康増進部門のいずれにおいても、業務効率の向上、サービスの質の向上、コンピュータとその周辺環境、データベース情報の充実度に関する評価得点が高かった。これに対し、これら以外の項目の得点は低く、運用面における効果的、効率的要因における問題点が散見される結果となった。また、8つの評価項目のスコアのうち、業務効率を目的変数、その他の項目を説明変数とする重回帰分析の結果、集計・分析・統計解析機能のみが有意で、その他は有意にならず、集計・分析・解析機能の充実をはかることが、業務効率をさらに向上させるポイントと考えられた。さらに、サービスの質の向上を目的変数、その他の項目を説明変数とする重回帰分析では、情報リテラシーの確保のみが有意となった。この結果より、情報リテラシーの確保はシステムを運用する重要なファクターであるだけに、この部分の改善は、今後の重要な課題になると考えられた。以上のようなスキップ情報システムへの適用結果を通して、今回、考案した定量的評価方法は、妥当であると思われた。
3.医療・福祉との連携を考慮した保健サービスの向上のための情報システムの機能の検討:調査結果の解析から、医療連携の状況は、他の医療機関からの紹介患者の受け入れ可能な医療機関の割合は高いが、訪問診療、MRIなどの医療機器の共同利用、予約制などの実施割合は低く、各医師会により連携に必要な医療機関の医療情報の把握状況も異なっていた。また、今回の調査結果を踏まえ、脳卒中を主とする疾病再発予防システムの構築を検討する際に考慮すべき点をあげると、①医療機能の現状調査と分析結果からの問題点の把握、地域特性の把握、将来の医療の提供形態の把握、地域がめざす機能連携の明確化、医療機能の連携の実施方法の確立、②とくに脳卒中のハイリスク者に対するMRI検査の導入を行う場合に必要な共同利用の推進と検査結果に関する情報の共有・交換の実施方法の確立、③健康情報、健診時の検査結果などの基本情報との連携も含めた医療機関の情報整備の推進、など。以上の結果は直接、スキップ情報システムの改良につながるものではないが、脳卒中などの再発予防システムの構築に資する点は少なくないと考えられた。
結論
地域の保健・医療・福祉の連携支援の強化による保健サービスの向上を目標にして、宮城県田尻町において、すでに構築したスキップ情報システムの第一次構築の発展をめざした第二次構築のため、①第一次システムの問題点の検討と介護保険支援情報システムとして役立てるための条件の検討、②保健・医療・福祉連携支援情報システムの数量的評価方法の検討、③医療・福祉との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能検討を目的とした医療機関における連携に関する医療情報の調査、を実施した。これらにより得られた研究成果は、スキップ情報システムの第二次構築の検討に有用であると考えられたが、次年度も引き続き、田尻町スキップセンターにおける運用を通じて問題点の検討や評価を進め、第二次構築に向けてシステムの設計を行う必要があると思われた。

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