地域保健における保健婦の機能・役割と質向上に関する研究

文献情報

文献番号
199800705A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健における保健婦の機能・役割と質向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 美知子(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 村山正子(富山医科薬科大学)
  • 金子仁子(筑波大学医療技術短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健婦の「調査・研究」及び「保健計画・施策化」の資質向上を図るため、
実践的な指導方法を開発し、指導指針を作成するとともに、保健婦の現任教育方法を明らかにすることを目的とする。
研究方法
以下の3分担研究班から構成し、研究をすすめた。
1.保健婦の「調査・研究」に関する指導方法の開発・指針作成に関する研究
調査・研究に取り組んでいる先駆的な保健所8カ所(都道府県本庁の推薦)を選定し、保健所の指導的立場の保健婦8名とスタッフ保健婦23名に対象に、調査・研究プロセスに沿ってスタッフ保健婦が困っていること、課題だと感じていること、指導・助言の内容、指導上の工夫・内容等についてそれぞれの立場からヒヤリングを行った。
また、保健婦の調査・研究を指導している看護系大学の地域看護担当教員5名を対象に、卒業生、保健所保健婦等の調査・研究に対する指導・助言の状況を把握すると共に、保健婦が困っていること、課題と感じていること、指導助言内容、指導・助言の工夫・留意点についてヒヤリングを行った。委員会を設置し、前年度の全国保健婦を対象とした調査・研究能力に関する調査結果、今年度のヒヤリング結果、研究メンバーの調査・研究指導の経験を踏まえて指導指針を作成した。
2.保健婦の「保健計画・施策化」に関する指導方法の開発・指針作成に関する研究
保健計画・施策化に先駆的に取り組んでいる保健婦指導者23名を対象にヒヤリングを行った。調査内容は、指導者自身が実践した保健計画・施策化の事例を取りあげ、プロセスに沿って具体的な実践内容とその考え方について調査をした。また、スタッフ保健婦が実践した施策化のプロセスにおいて指導・助言した内容や指針に盛り込むべき事項について調査した。委員会を設置し、前年度までの調査結果、研究メンバーの施策化の経験、今年度のヒヤリング結果を踏まえて指導指針を作成した。また、スタッフ保健婦が実践する施策化に対するの指導・助言内容等についても示した。
3.保健所保健婦の現任教育方法の開発・指針作成に関する研究
保健所保健婦の企画調整機能の達成目標について文献研究や前年度の調査結果をもとに検討し、新任・中堅・管理者別の目標を作成した。また、保健所保健婦の専門性を高める現任教育方法を明らかにするために、保健所保健婦として卓越した10名を対象にヒヤリングを行い、新任期の能力開発に有効な職務内容、上司のサポート内容等の指導体制について提言した。
結果と考察
1.保健婦の「調査・研究」に関する指導方法の開発・指針作成に関する研究
保健婦が調査・研究を実践する上で課題と感じていることは、指導的立場の保健婦では「調査の目的・目標の設定」「結果のまとめ」であり、スタッフ保健婦は「問題の把握と明確化」「結果の分析と解釈」をあげている。また、スタッフ保健婦にとって有効であった指導・助言内容は「結果の分析・解釈」「結果のまとめ」である。研究メンバーの研究指導の実績、大学教員のヒアリングからも同様な結果が得られた。
これらの調査結果を基に、学識者等による委員会を設置し、指導指針を作成した。指導指針内容は、調査・研究プロセス27項目に沿って①保健婦が調査・研究を実施するにあたっての課題、②課題解決のための指導・助言内容、③指導上の留意事項・工夫内容を示した。さらに保健婦が最も課題としている調査方法、結果分析等についてわかりやすく解説した。また、看護系大学の地域看護担当教員は保健婦卒業生、保健所保健婦等の調査・研究を実施しており、保健婦の調査・研究を支援体制として重要な役割を果たしていることが明らかになった。
2.保健婦の「保健計画・施策化」に関する指導方法の開発・指針作成に関する研究
先駆的に取り組んでいる保健婦指導者は、保健計画・施策化にあたって取りあげた理由、ニーズ分析、根拠等について充分な検討が行っていること、合意形成にあたって組織をふまえ、関係者にきめ細かく実施していることが共通していた。これらの調査結果を基に、保健婦指導者らによる委員会で指導指針を作成した。指導指針内容は、保健計画・施策化のプロセス8項目について①実践上の留意事項②その考え方を具体的に示した。また、スタッフ保健婦が実践するの施策化に対する指導・助言内容と留意事項も示した。
3.保健所保健婦の現任教育方法の開発・指針作成に関する研究
保健所の機能強化に伴い、企画調整機能が保健婦に求められている。そこで、保健所保健婦の企画調整機能の達成目標について地域のニーズの明確化、事業企画、評価等の項目別、新任・中堅・管理者別に作成した。また、保健所保健婦の専門性を高める現任教育方法として、特に、新任期の能力開発には職務内容や上司のサポートが重要であることが明らかになった。そのため、指導体制の整備が急がれる。
地域保健法の制定により保健婦機能・役割が変化しているが、本研究の保健婦のヒヤリングを通して、現状はこれらの機能を果たすための資質向上のための現任教育が体系化されていないという点と、職場内教育等においても、実践的な教育・指導が充分に実施されていないという点がより明らかになった。
以上のことから、保健所・市町村保健婦の職場内教育等において、指導的立場の保健婦が教育・指導をする上で具体的な指導指針が求められていた。
本研究において作成した指導指針は、これからの保健婦に求められる機能の資質向上を図る上で有効と考える。具体的には、(1)地域の健康問題の解決、保健活動の見直し、効果的な地域保健サービスの提供等が科学的、客観的データに基づいた実践ができる(2)他職種、関係者、住民との共有化を図るための資料が作成できる(3)保健婦業務を研究的、行政的視点で実践できる等の能力が育成されると考える。
また、保健所保健婦にとって保健婦の調査・研究への支援体制において、各都道府県の看護系大学に対する期待が大きく、その果たす役割が重要であることから、地域の大学・研究機関を含めた保健婦の現任教育の体系化が望まれていた。
今後の課題として、これらの指導指針を都道府県保健所に配布し、全国の指導的立場の保健婦を中心に職場内教育や保健婦の機能強化のための研修プログラムの企画に活用してもらう予定である。
平成11年度の研究では、指導指針の妥当性を評価し、内容の精選を行うこととしている。さらに各都道府県単位にある看護系大学の地域看護担当教員を対象に、保健婦の調査・研究への支援体制のあり方について実態把握および教員の意識等について研究をすることとしている。
結論
前年度の研究で、これからの保健婦に求められる機能の実践力を高めるためには指導指針の作成が必要であるという結果が得られた。そこで、本研究では、保健所の指導的立場の保健婦やスタッフ保健婦に行ったヒヤリング結果を基に実践的な指導指針を作成した。このような指導指針は、保健所・市町村保健婦の職場内教育等において指導的立場の保健婦が教育・指導する上で非常に有効であると考える。

公開日・更新日

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