ウイルスを原因とする食品媒介性疾患の制御に関する研究

文献情報

文献番号
201823006A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルスを原因とする食品媒介性疾患の制御に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
上間 匡(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 卓穂(一般財団法人食品薬品安全センター秦野研究所 公益事業部)
  • 高木 弘隆(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
  • 斎藤 博之(秋田県健康環境センター 保健衛生部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性食中毒の多くは食品取扱者からの食品の二次汚染を原因とされ、汚染防止対策が急務である。本研究ではウイルスによる食品媒介性疾患の発生及び被害の拡大を効果的に低減するための食中毒調査体制の強化、食品からの簡便なウイルス検出法の改良・開発などの研究を行う
研究方法
地方衛生研究所等の協力を得て以下の研究を実施した。
1.食中毒検査体制の強化に関する研究
食品のウイルス検査の精度管理手法についてウイルス汚染食品を模した検体を用いて調査を実施した。
パンソルビントラップ法について、ウイルス回収率を評価できる内部標準物質を検討した。
食品、拭き取り検体からのウイルス遺伝子検出方法としてnestedリアルタイムPCR法を検討した。
食品、患者、調理従事者由来ウイルスの分子疫学解析領域について通知法(N/S領域)および、領域を拡大した手法(RdRP-VP1領域)の比較を実施した。
集団事例(食中毒、胃腸炎)、環境検体(下水、市販二枚貝等)から食品媒介性ウイルスの検索を行った。
2. 調理従事者からの二次汚染防止に関する研究
手洗い効果の向上策として水様性高分子ポリマーコーティングについて、実際の手洗いにて検証した。
抗ウイルス活性のある天然化合物について検索した。
消毒剤のウイルス不活化評価に用いるウイルス、細胞株を検討した。
実際の調理加熱方法による食肉中のウイルス不活化効果を検討した。
腸管ウイルス(ノロ、サポウイルス)の一般細胞での培養を検討した。
結果と考察
1. 食中毒検査体制の強化に関する研究
食品検体の使用で機関間のばらつきは大きくなるが精度評価を実施できる調査手法が確認できた。
パンソルビントラップ法の内部標準物質としてCA2を示し、検査実施者自身による手技評価を可能とした。
食品、拭き取り検体についてnestedリアルタイムPCR法は通知法のリアルタイムPCRよりも有効であった。
食品、患者、調理従事者由来のウイルスの分子疫学解析についてN/S領域とRdRP-VP1領域の解析結果は多くの場合一致し、現状で検出ウイルスの一致度の確認は多くの場合問題ないが、今後RdRP-VP1領域解析が必要となる場合も想定された。
NoV関連集団事例(食中毒、胃腸炎)において、不顕性感染者からもアウトブレイクにつながる量のウイルス排出が確認された。
環境検体(下水、市販二枚貝等)から食中毒や胃腸炎の報告を反映するNoV遺伝子型が検出されたほか、報告に現れないサポウイルスなどが通年検出された。
2. 調理従事者からの二次汚染防止に関する研究
水様性高分子ポリマーコーティングが、実際の手洗いでも効果の向上が期待できる結果であった。
抗ウイルス活性のある天然化合物について235化合物中ネコカリシ、マウスノロウイルスに抗活性を持つ1化合物を同定した。
消毒剤のウイルス不活化評価に用いるネコカリシウイルス2株、コクサッキーウイルス1株を選定した。同じネコカリシウイルスでも消毒剤耐性に大きな差が示された。
実際の食肉加熱調理方法について、50℃90分では不活化されないこと、3log以上のウイルス不活化には、75℃1分、68℃5分、65℃15分の加熱が必要だった。
サポウイルスの一部について、一般細胞での培養で高い増殖が確認された。
結論
1. 食中毒検査体制の強化に関する研究
食品のウイルス検査について食品検体を用いた精度評価調査手法を確認した。
パンソルビントラップ法の内部標準物質の選定を行った。実施機関へ情報提供を行っていく。
食品や拭き取り等、ウイルス低コピーの検体からの遺伝子検出には、nested リアルタイムPCRが有効であった。
調理従事者の関与を検証するための分子疫学解析は、通知法に基づくN/S領域解析で概ね問題無いが、事例によってRdRP-VP1領域を検査できる体制を整えていく必要がある。
環境から検出されるNoV遺伝子型は食中毒、胃腸炎事例で報告される人の状況を反映していた。また、報告されないウイルスが通年環境から検出され、アウトブレイク等の早期探知のためにも環境中ウイルスのモニタリングは有効である。
2. 調理従事者からの二次汚染防止に関する研究
手洗い効果の向上については現場に取り入れ可能な手法を検討していく必要がある。
消毒剤のウイルス不活化効果評価法のガイドライン作成を進める。
食肉中のウイルス不活化には一定の温度以上での加熱が必要であった。
サポウイルスについて株化細胞での増殖が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201823006B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルスを原因とする食品媒介性疾患の制御に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
上間 匡(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 高木 弘隆(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
  • 渡辺 卓穂(一般財団法人食品薬品安全センター秦野研究所 公益事業部)
  • 斎藤 博之(秋田県健康環境センター 保健衛生部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性食中毒は依然多発し、その多くは食品取扱者からの食品の二次汚染を原因とすることから、その汚染防止対策の確立が急務である。本研究ではノロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス等のウイルスによる食品媒介性疾患の発生及び被害の拡大を効果的に低減するための手法の確立を目標とする。食中毒発生時の迅速な原因究明や蔓延防止のための措置を講じるためには、原因食品や感染経路を特定するための食中毒調査体制の強化が必要であることから、食品からの簡便なウイルス検出法の改良・開発、網羅的ゲノム解析法等のウイルス性食中毒検査への応用等、食中毒の原因食品や感染経路の特定率を向上させるための研究を行う
研究方法
地方衛生研究所等の協力を得て、以下の研究を実施した。
1. 食中毒検査体制の強化に関する研究
汎用性の高い食品からのウイルス検出法の改良、および通知法の高感度化を検討した。
事例において検出されるウイルス遺伝子解析について、通知法の解析範囲とこれを拡大した解析範囲に寄る分子疫学解析の結果を比較した。
下水や市販カキ等の環境検体について食品媒介ウイルスの検索を行い、食中毒報告や胃腸炎報告と比較した。
複数の検査機関での食品衛生検査の精度管理手法の確立について食品を模した検体を用いた精度管理手法を検討した。
2. 調理従事者からの二次汚染防止に関する研究
手洗い効果の向上のための手指コーティング剤および使用法を検討した。
抗ウイルス活性を持つ天然化合物乃探索を行った。
加熱調理等によるウイルス不活化効果について検討した。
消毒剤によるウイルス不活化効果の評価方法について標準プロトコルと使用するウイルス、細胞の検討を行った。
腸管ウイルスの一般細胞での培養法について検討した。
結果と考察
1. 食中毒検査体制の強化に関する研究
パンソルビントラップ法の実用時における問題点として、新規流行遺伝子型NoV GII.17への対応や、試薬のロット差への対処法、検体からのウイルス回収率の評価のための内部標準物質の選定などを行い、良好な結果を得た。
通知法で実施されるリアルタイムPCRよりも高感度なウイルス遺伝子検出法としてnested リアルタイムPCR法の有用性を示した。
事例発生時の調理従事者・患者由来ウイルスの一致を確認するには通知法に従ったN/S領域の分子疫学解析でも多くの事例で問題ないが、解析領域をRdRP領域やVP1全長などへ拡大することでより詳細な解析が可能であった。
環境検体でのウイルス検索により、食中毒報告や胃腸炎報告では捉えられないウイルスの浸潤状況を把握することが可能であった。
食品からのウイルス検査について精度管理手法を確立できた。
2. 調理従事者からの二次汚染防止に関する研究
水様性高分子ポリマー化合物のコーティングにより手洗いの効果を向上できる可能性が示唆された。
ネコカリシウイルス、マウスノロウイルスに対して抗活性のある化合物1種を同定した。
ウイルスは50℃では90分の加熱でも不活化しないことが示された。実際の加熱調理を同様の手法で検討した場合、75℃1分、68℃5分、65℃15分の加熱により1/1000以上の不活化が確認できた。
消毒剤の評価に用いるウイルス株3種、細胞株2種を選定した。これまで評価に多く用いられているネコカリシF9株のみの評価では非エンベロープウイルス全体に対する不活化効果を正しく評価できていない可能性が示された。
腸管ウイルスとしてサポウイルス、ノロウイルスについてし、サポウイルスについて増殖が確認できる細胞株を1株確認した。
結論
食中毒検査体制の強化について、汎用性の高いパンソルビントラップ法をアップデートし実用しやすい手法とした。
また、通知法の検査法について、nested リアルタイムPCR法、分子疫学解析手法の有効性を示した。通知法で対応が難しい事例に備えて、遺伝子解析領域の拡大について検討、準備していく必要がある。
食中毒事例、胃腸炎報告に加え、下水等の環境検体についてウイルス検索を実施することはアウトブレイク早期探知につながる調査ととらえ、継続実施するべきである。
食品検査の精度管理・評価手法を確立した。検査精度の評価手法等は現場に取り入れることは将来的に必要となるため、実施に向けた検討や調整が必要である。
調理従事者からの二次汚染防止に関する研究ではウイルスの除去、不活化が現場で最も必要な課題であることから、現場に還元できる課題として手洗いや加熱調理、消毒剤の評価法などを検討した。今後消毒剤のウイルス不活化評価法についてはガイドラインの策定を行う。

公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201823006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)食中毒事件発生時の原因食品特定につながるパンソルビントラップ法およびリアルタイムPCR法の改良を実施した。ヒトノロウイルスと同様に胃腸炎の原因となるヒトサポウイルスの一般細胞を用いた培養系の開発をおこなった。
(2)ノロウイルス以外のサポウイルスやA型肝炎ウイルス等への対応、2017年ごろから主流となっているノロウイルスGII.17検出へ対応した。ヒトサポウイルスのin vitro培養系の確立(Takagiら,PNAS, 2020)へつながった。
臨床的観点からの成果
(1)食中毒事件で検出されるノロウイルス等の遺伝子型解析を実施した。下水中や河川の二枚貝、市販カキ等についてノロウイルス遺伝子検索を実施した。
(2)2017年の刻みのり関連食中毒など令和4年度までに複数の事件において原因食品を特定した。下水等から臨床例を反映した遺伝子型が検出されること、2012年GII.4_Sydneyの出現以降、GII.17が新たな流行株となっていることを示した。現在の流行遺伝子型の把握につながっている。
ガイドライン等の開発
ノロウイルス対策を盛り込んだ「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改訂が行われた(平成29年6月16日)。
その他行政的観点からの成果
食品取り扱い者におけるノロウイルス不顕性感染者の把握、ノロウイルスのヒト・環境中動態の把握など、食品安全委員会委託研究課題(1908)の実施へつながった。
食品取り扱い現場に導入可能なHAACCPを見据えたノロウイルス対策(不活化、洗浄法など)の具体的なデータ提示に向けた厚労研究(22KA1001)の実施へとつながった。
その他のインパクト
・ノロウイルスリスクプロファイル(食安委)更新(2018.11)に反映された。
・カキのノロウイルスに係る平常時の水準調査委員会(農水省,R1-現在)において調査法・検査法へ反映された。
・食品衛生検査指針(日本食品衛生協会2018年改訂)のウイルス検査法へ反映。
・市場へ出荷されるブタ関連食肉のE型肝炎ウイルス汚染実態を報告し(2019年微生物学会雑誌、2021年AIMS Microbiology)日本赤十字社の献血スクリーニング結果と共に、食品由来E型肝炎ウイルスと献血安全性について報告予定。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
大量調理施設衛生管理マニュアル1件、食品衛生検査指針1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iritani N, Yamamoto S, Abe N, et al
GII.17 norovirus infections in outbreaks of acute nonbacterial gastroenteritis in Osaka City, Japan during two decades
Journal of Medical Virology , 12 , 2101-2107  (2019)
doi: 10.1002/jmv.25560
原著論文2
上間匡、永田文宏、朝倉宏、他
カキの糞便汚染指標ウイルスとしてのPepper mild mottle virusの評価
獣医疫学雑誌 , 22 (2) , 102-107  (2018)
https://doi.org/10.2743/jve.22.102
原著論文3
佐々木美江、小泉光、生島詩織、他
宮城県における野生動物、ブタおよび流入下水におけるE型肝炎ウイルスの浸淫状況.
日本食品微生物学会雑誌 , 36 (4) , 159-164  (2019)
https://doi.org/10.5803/jsfm.36.159

公開日・更新日

公開日
2023-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201823006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,000,000円
(2)補助金確定額
11,998,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,069,965円
人件費・謝金 483,600円
旅費 1,029,921円
その他 415,070円
間接経費 0円
合計 11,998,556円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
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