芳香族アミンの膀胱に対する傷害性および発がん性における構造特性の影響

文献情報

文献番号
201822023A
報告書区分
総括
研究課題名
芳香族アミンの膀胱に対する傷害性および発がん性における構造特性の影響
課題番号
H30-労働-一般-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
芳香族アミンは染料・顔料の製造原料として汎用されるが、発がん性への懸念から各国で規制が進められている。我々は先行研究として、互いに類似した構造を持つ5種の芳香族アミンをラットに28日間経口投与し、膀胱粘膜における細胞・遺伝子動態への影響を検索した。その結果、膀胱発がん性が報告されているオルト-トルイジンおよびオルト-アニシジンの2種のみが、DNA損傷マーカーであるγ-H2AXの増加を誘導し、膀胱粘膜にDNA損傷を引き起こすことが示唆された。また遺伝子発現解析では、両物質はともに細胞周期・DNA損傷・分化関連遺伝子を特徴的に変動させることが明らかとなり、短期間の投与によって膀胱への傷害性および発がん性を検出し得る可能性が示された。投与物質はいずれも芳香族アミンとして基本的な構造を有することから、芳香族アミン全般のリスク評価における基礎データとして活用し得ると考えられる。本研究では、オルト-トルイジンと類似構造を有する複数の芳香族アミンをラットに投与し、膀胱における細胞・遺伝子動態に及ぼす影響を、γ-H2AXをはじめとするDNA損傷・分化関連因子等の発現解析を通じて明らかにし、当該解析手法による包括的評価への応用について検討することを目的とする。
研究方法
6週齢の雄F344ラットに、オルト-トルイジンに類似した構造を持つ芳香族アミン5種:1% 4-クロロ-オルト-トルイジン(4-CT)、0.5% 5-クロロ-オルト-トルイジン(5-CT)、0.5%オルト-アミノアゾトルエン(AAT)、1% 2-アミノベンジルアルコール(ABA)、1%オルト-アセトトルイジン(o-AT)を4週間混餌投与した。投与開始後2日、1週、2週および4週時点で解剖し、膀胱を採材した。ホルマリン固定パラフィン包埋標本を作製し、膀胱粘膜の病理組織学的検索および免疫組織化学的手法によるγ-H2AX形成・Ki67発現解析を実施した。膀胱粘膜上皮におけるγ-H2AX・Ki67陽性細胞をカウントし、陽性率を対照群と比較した。
結果と考察
本研究で検討した5種の芳香族アミンのうち、5-CT投与群の膀胱には、明らかな病理学的所見およびγ-H2AX形成/Ki67発現の変化は認められなかった。一方、残る4物質(4-CT, AAT, ABA, o-AT)は4週間の混餌投与により、過形成等の膀胱病変およびγ-H2AX/Ki67陽性細胞の増加を誘導することが明らかになった。病理組織学的検索により、4-CTおよびo-ATはラット膀胱に対して、粘膜内出血等の急性傷害から慢性炎症およびび漫性過形成に至る、一連の病理学的変化を誘発することが明らかとなり、これはオルト-トルイジンによる膀胱病変の形成過程に類似していた。また、AATおよびABAは粘膜の単純過形成を引き起こしたものの壊死や重度の炎症は伴わず、オルト-アニシジンによる病態と類似することが示された。免疫染色によって、4-CT, AAT, ABA, o-ATはいずれもγ-H2AX形成/Ki67発現の増加を誘導し、膀胱粘膜に対してDNA損傷/細胞増殖を誘導することが示唆された。陽性細胞率はいずれも1-2週目に最大となり、4週目にかけてやや減少するパターンを示した。4-CTおよびo-ATについては、病理所見の変化に対応している可能性が考えられた。
結論
本研究の結果から、検索した5種の芳香族アミンのうち、4-CT, AAT, ABA, o-ATの4物質はラット膀胱に対して膀胱傷害性を示すことが明らかとなり、膀胱発がん性を示す可能性が示唆された。一方で、膀胱粘膜傷害機序は4-CT/o-ATおよびAAT/ABAの2グループで互いに異なることが示された。今後、これら4物質を投与した膀胱粘膜における遺伝子発現動態の解析を実施する予定である。

公開日・更新日

公開日
2019-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201822023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,000,000円
(2)補助金確定額
4,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,782,608円
人件費・謝金 0円
旅費 142,128円
その他 75,264円
間接経費 0円
合計 4,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2020-02-20
更新日
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