保健所の調査企画部門充実のための研修のあり方、体制整備に関する研究

文献情報

文献番号
199800704A
報告書区分
総括
研究課題名
保健所の調査企画部門充実のための研修のあり方、体制整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
平田 輝昭(福岡県久留米保健所長)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健所の新たに期待される機能としての情報処理機能を充実させるため従来の教養的な研修と異なる「ある程度の情報処理能力を有する保健所職員を対象とし、研修内容を各職場で伝達してもらうと共に職場のリーダーとして活動してもらう。」ためのリーダー養成型の研修を試行的に実施、より効果的な保健情報処理の研修のあり方や体制整備について評価検討することを目的とした。
研究方法
試行研修の研修内容は①基礎統計学実習(情報の分析・評価)②データベース活用実習(情報の管理)③パソコンネットワーク実習(情報の伝達・共有化)、研修対象者は、各保健所より企画指導係を中心とした2名で①原則として、企画指導係長②統計処理やコンピュータ利用についてある程度の知識・経験を別紙の前年度研修内容に興味を覚える者で初心者でない者。研修頻度等は平成10年11月から平成11年2月まで、毎月2回(原則第2、4水曜日)、計8回。講師は、保健環境研究所、保健所職員、県衛生統計係職員等からなるワーキンググループのメンバー、外部講師(九州大学教授)。研修場所は保健環境研究所講堂。研究グループは、研究会が福岡県保健所長会、ワーキンググループは保健所職員の医師、保健婦、薬剤師、事務職保健環境研究所の統計・情報処理専門職員、県庁衛生統計担当者、大学衛生助教で構成。研究の評価方法は、研修前の対象者のパソコンの知識、利用状況、保健統計の基礎知識、情報管理の状況等統計・情報処理のレベルを確認するためアンケート調査、各研修終了後の福岡県地域保健コミュニケーションシステムを利用した電子メールでの研修内容に対する理解度、感想調査。また、全ての研修終了後、再度研修に対する評価のアンケート調査。及び保健所での受講生より聞き取り調査。
結果と考察
試行研修の研修生は保健所から各2名、支所から各1名の計31名。医師、保健婦、薬剤師、放射線技師、事務職と職種もまちまちであった。所属は、保健所企画指導係が主であったが、保健課や環境課からの参加もあった。研修の出席率は82%と前年の出席率に比べやや低下していた。この原因は、当初より予想していたところであったが、業務の多忙な企画指導係長を研修生に半ば強制的に加えたこと、月に2回のハイペースで実施したことで事業との調整がつかない職員が増えたことなどが考えられる。研修前に行ったパソコン等のレベル調査で、前年より受講生のレベルの均一化は進んだ。毎月2回定期的に研修を実施したことにより、受講者の処理能力(特にパソコンネットワーク操作)が飛躍的に向上した。最終研修後に取ったアンケート調査の結果では、表計算ソフトの活用が研修前に比較し多くなったか?の質問で「かなり多くなった」「やや多くなった」の回答が、また、研修外で電子メールの利用?で「使用した」の回答が、約半数の受講生でみられ、実践に役立っている部分がすぐにみられた。一方、衛生統計データを活用しているか?や統計処理・分析を行っているか?では1/4の受講生が「やや多くなった」と答えているに過ぎず、日常業務に取り入れることの難しさを痛感した。受講生には機会あるごとに各保健所での伝達研修が責務としてある事を伝え実施することを促した。研修後の伝達講習では半数の参加者が地域保健コミュニケーションシステムやパソコン操作の所内研修所内研修を実施または計画している状況となった。昨年は、2,3の保健所で行われたに過ぎなかったことに比べれば大きく改善した。しかし、相変わらず、伝達研修が実施されてない保健所もあった。その理由としては、「所内にパソコンが少なく研修できる環境にない。」「受講生が他職員に教えるレベルにまで達していない。」等前年と同様の理由が聴かれた。
機器整備は順次なされてきているが、それにもまして薬務、食品、医療監視、結核サーベイランス、犬登録などデータベース化が進められ、入力作業のためパソコンが使用される頻度が増えたため、自主研修や統計分析での利用が後回しにされる傾向にあった。初年度と同様、電子メールでアンケートの宿題(感想、要望等)をやりとりする方法を用いた研修内容の充実等に努めたが、やはり一部で機器の異常が生じてうまくやりとりができなかった。また、福岡県庁で開発されつつあるオンライン統計情報システム(人口動態ソフト)を活用して、実際に自分の管内のデータ処理を進める予定で計画を立てたが、これも開発が遅れ利用できなかった。 初年度はアンケート未回答者には、「機器異常」・「操作不慣れ」など原因を確かめる意味もあって電話、FAXを用い数回にわたり催促を行ったが、今回は、いっさい催促は行わず受講生の自主性にまかせ、変化を観察した。 その結果として、初年度、毎回7割から8割の回答率であったものが3から4割に落ち込んだ。受講生にとって研修関連の作業が日常の業務に比し優先順位の低いものであることは否めず、機器の優先順位とも相まってこのような結果になったものと思われる。
受講生のみならず、周囲や管理的立場の職員への意識付けを行うためにも、当面は電子メール以外の従来型の通信方法を並行して活用することが必要と考えられた。受講者と保健環境研究所の間では、前年度の受講生より研究所へ統計分析での質問が少しずつではあるがなされるようになり、研修の副次効果があらわれるようになった。研究会、ワーキンググループ会議の検討では、対象者の限定について「人事異動を考えると職制と違った特定のリーダー養成は問題があるのではないか。」「衛生統計を利用する可能性の強い特定の職種に限定する方が効率がよいとか。」「トップアップよりもポトムアップを大切にすべきではないか」等の意見が昨年同様に議論されているが、2年目に入り研究の基本はリーダー養成であることについては共通認識となった。研修テーマの設定については情報収集や処理について初年度同様議論が繰り返されたが、共通のコンセンサスを得るまでには至らなっかった。しかし、研修で何を行うかについては①各講義の中に最低でも理解してもらいたいポイントを数カ所前もって決める。 ②現場ですぐに活用できる例示を必ず加える。③教科書的な講義はできる限り避ける、という視点が導入された。初年度、具体的内容として、保健所業務にストレートに反映するものが少なかったことを反省し、本年度は具体的例示をかなり付け加えることを確認し研修を進めた。受講生からの希望として、さらに現場即応型のそれぞれの保健所のデータを例示とすることがあがっているが、これについては人口動態システムが稼働すれば容易に対応できるのではないかと考えられた。基礎的な理解を得るために行われている統計の基礎講座について、理解が困難という者が多かったことについても検討が行われた。総括すると、初年度に比較し実施サイドも余裕ができが、より充実した研修へ一歩前進させることができたように思われるが、受講生の自主性を引き出し、学習意欲を高め、研修内容を現場で生かしてもらうためにはなお改良が必要である。研修の有用性については、ある程度の長期的視点で見ていく必要性があると思うが、研修の進め方については、前年度同様の重要なポイントが明らかにされた。すなわち①双方向通信による研修内容の充実②受講生のレベルを均一化の重要性③保健所職員や地方衛生研究所④保健所の具体的業務と結びついた研修内容の重要性⑤保健所内の幹部職員の認識の必要性。
結論
研修会の実施の結果、所内伝達研修は各保健所定着しつつある。さらにいくつかの保健所で、共同してデータ処理を行おうとする動きも出てきている。研修そのものの成果とはいえないまでも研修が大いに影響しているものと考えられる。これまでの「やりっぱなし研修」を一歩脱却し、組織的に還元できる研修になりつつある。さらに、研修方法等の改善をはかることで、調査企画部門充実の一助とできる組織的な研修が可能であると考えられる。

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