文献情報
文献番号
201822008A
報告書区分
総括
研究課題名
経済情勢等が労働災害発生動向に及ぼす影響等に関する研究:多変量時系列解析による数理モデルの開発と検証
課題番号
H28-労働-一般-008
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
松田 文子(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 研究部)
研究分担者(所属機関)
- 榎原 毅(名古屋市立大学 大学院 医学研究科)
- 酒井一博(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 研究部 )
- 池上 徹(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 研究部 )
- 余村朋樹(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 研究部 )
- 石井まこと(大分大学 経済学部 経済学科)
- 庄司直人(朝日大学 保健医療学部 健康スポーツ科学科)
- 湯淺晶子(日本赤十字看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
労働災害(労災)は長期的には減少しているが、小売・飲食業や保健衛生業などの第三次産業では増加傾向にある。第12次労働災害防止計画と、それに続く第13次労働災害防止計画においても、重点業種別の対策が提唱されているが、労働を取り巻く諸環境の要因(経済情勢、産業構造の変化、就業形態、自然・気象条件、産業技術革新等)が及ぼす影響について科学的根拠に基づく解析はほとんど行われておらず、行政政策評価に資する知見が切望されている。
そこで、本研究ではマクロ経済学・金融工学等で応用されている多変量時系列解析手法(Kariya, 1993)を用いて、経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響を明らかにすることが最終目的である。
そこで、本研究ではマクロ経済学・金融工学等で応用されている多変量時系列解析手法(Kariya, 1993)を用いて、経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響を明らかにすることが最終目的である。
研究方法
平成30年度は、前年度までに行ったトライアル解析の結果から状態空間モデルを用いた解析を進め、各指標を独立変数、労働災害死傷件数を従属変数とし、労働災害死傷件数の予測に貢献する可能性の高い指標の絞り込みを行った。続いて、絞り込んだ指標を複数用いた多変量からなる労災予測数理モデルを探索的に構築し適合度の検証を行った。
多変量時系列解析の状態空間モデルは、時系列を年単位、状態・観測誤差を対角行列、対数尤度の計算法を定常カルマンフィルタと拡散De Jongカルマンフィルタに設定された。労災予測数理モデルの検証は、①1973年~1992年、②1993年~2012年、③1973年~2012年の3つの時期を設定し、経済情勢班・労働経済班・労災分析班・気象天災班が各指標の生成を行った224指標(年単位)+45指標(月単位)を予測変数、46労災関連指標をアウトカム変数として解析を行った。解析に際しては、状態空間モデルによる解析および従来型時系列解析の2パターンを採用した。
多変量時系列解析の状態空間モデルは、時系列を年単位、状態・観測誤差を対角行列、対数尤度の計算法を定常カルマンフィルタと拡散De Jongカルマンフィルタに設定された。労災予測数理モデルの検証は、①1973年~1992年、②1993年~2012年、③1973年~2012年の3つの時期を設定し、経済情勢班・労働経済班・労災分析班・気象天災班が各指標の生成を行った224指標(年単位)+45指標(月単位)を予測変数、46労災関連指標をアウトカム変数として解析を行った。解析に際しては、状態空間モデルによる解析および従来型時系列解析の2パターンを採用した。
結果と考察
最終的に分析に用いたのは、各班で収集ならびに精査を行った経済指標、天候指標、消費・医療・教育に関する指標に加え、ジェンダーギャップ指数など社会成熟指標であった。
数理モデルの開発にあたり、当初想定していたよりも、事前調整する要因が多いことが明らかになり、状態空間モデルによる単変量解析の結果を参照しながら慎重に数理モデルに使用する変数が絞り込まれた。単変量の状態空間モデルによる解析結果を踏まえ、説明力の高い指標を中心に、多変量の状態空間モデルによる解析を行い、労働災害死傷件数を予測するために最適な指標の組み合わせを探索的に決定した。
探索的解析の結果、外食産業市場規模推計、国内定期航空会社輸送実績定期便旅客数の2変数の組み合わせを独立変数、年間労働災害死傷件数を従属変数とした予測モデルが、いずれの期間においても高い適合可能性を示した。外食・航空便が増えると労災が減る(負の係数)関係性が認められた。労働時間が減ることで外食の頻度が増えている可能性もあるが、因果関係は不明である。また、尤度の絶対値が大きい40年データを使う方が予測の当てはまりが良いが、基準年が変更になる指標もあることから、どの区間を用いるべきかは慎重な検討が必要である。いずれの発展系のモデルにおいても、解析対象年の区分の違いによらずほぼ同じ決定係数が示されていることから、モデルの安定性はあると考えられる。
数理モデルの開発にあたり、当初想定していたよりも、事前調整する要因が多いことが明らかになり、状態空間モデルによる単変量解析の結果を参照しながら慎重に数理モデルに使用する変数が絞り込まれた。単変量の状態空間モデルによる解析結果を踏まえ、説明力の高い指標を中心に、多変量の状態空間モデルによる解析を行い、労働災害死傷件数を予測するために最適な指標の組み合わせを探索的に決定した。
探索的解析の結果、外食産業市場規模推計、国内定期航空会社輸送実績定期便旅客数の2変数の組み合わせを独立変数、年間労働災害死傷件数を従属変数とした予測モデルが、いずれの期間においても高い適合可能性を示した。外食・航空便が増えると労災が減る(負の係数)関係性が認められた。労働時間が減ることで外食の頻度が増えている可能性もあるが、因果関係は不明である。また、尤度の絶対値が大きい40年データを使う方が予測の当てはまりが良いが、基準年が変更になる指標もあることから、どの区間を用いるべきかは慎重な検討が必要である。いずれの発展系のモデルにおいても、解析対象年の区分の違いによらずほぼ同じ決定係数が示されていることから、モデルの安定性はあると考えられる。
結論
本研究では、各経済指標について、適用する数理モデルとの整合性検証および数理モデルで求められる予測可能性の範囲と限界を整理しながら、労働災害の発生を予測する数理モデルの構築を目指した。1973年から2012年までの40年間の労働災害死傷件数を説明する数理モデルを探索するなかで、今後の予測に必要な手法の一案を示すことができた。
しかしながら労働災害に与える影響の解明を試みたが、代表的な経済指標および各労働要因と死傷災害件数の推移の間には関連性は見出せなかった。現段階では、先に述べた2変数での死傷者数を予測可能ではあるものの、因果関係は不明である。今後、短中期的に労災統計がどのように推移するかは推測可能であり、抜本的な労働災害対策を行うなど介入がなければ労災件数は現状維持となり、これ以上の減少には至らないという予測がなされた。
本研究を通じて、労災情報のデータ化や統計データの公開方法等についての課題も浮き彫りになった。より精度の高い分析をするための基礎データの蓄積や、より信頼性の高い方法でのデータ化や、活用し易い方法での提供が急務であると考える。
しかしながら労働災害に与える影響の解明を試みたが、代表的な経済指標および各労働要因と死傷災害件数の推移の間には関連性は見出せなかった。現段階では、先に述べた2変数での死傷者数を予測可能ではあるものの、因果関係は不明である。今後、短中期的に労災統計がどのように推移するかは推測可能であり、抜本的な労働災害対策を行うなど介入がなければ労災件数は現状維持となり、これ以上の減少には至らないという予測がなされた。
本研究を通じて、労災情報のデータ化や統計データの公開方法等についての課題も浮き彫りになった。より精度の高い分析をするための基礎データの蓄積や、より信頼性の高い方法でのデータ化や、活用し易い方法での提供が急務であると考える。
公開日・更新日
公開日
2019-06-14
更新日
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