文献情報
文献番号
201821061A
報告書区分
総括
研究課題名
医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈についての研究
課題番号
H30-医療-指定-022
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(上智大学 法学部国際関係法学科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医師法(昭和23年法律第201号)第19条において「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」(いわゆる応召義務)と規定されているところ、この応召義務については、医師の働き方改革に関する検討会の中間的な論点整理において、「医師法(昭和23 年法律第201 号)第19 条に定める応召義務については、社会情勢、働き方、テクノロジーが変化してきている中で、今後の在り方をどのように考えるか、個人ではなく組織としての対応をどう整理するかといった観点から、諸外国の例も踏まえ、検討してはどうか。」と指摘されており、医師の働き方改革の観点、また外国人観光客の増大による医療需要の変化等の等から、考え方の整理が求められている。
こうした社会情勢等の変化を踏まえ、現在の医療提供体制や患者の医療ニーズに即し、応召義務の解釈や診療拒否に関する民事訴訟事件等について一定の整理を行うこと等を通じ、我が国における医師や医療機関への診療の求めに対する対応のあり方に関する検討に資することが本研究の目的である。
こうした社会情勢等の変化を踏まえ、現在の医療提供体制や患者の医療ニーズに即し、応召義務の解釈や診療拒否に関する民事訴訟事件等について一定の整理を行うこと等を通じ、我が国における医師や医療機関への診療の求めに対する対応のあり方に関する検討に資することが本研究の目的である。
研究方法
応召義務について、当該義務が定められた経緯や従来の行政解釈を整理することで、応召義務の目的・趣旨等を改めて整理するとともに、それに関連して診療拒否に関する民事訴訟事件も整理する。
さらに、諸外国においても類似の義務が存在するかについて文献調査等を実施し、我が国の応召義務の特殊性について、評価を行う。
これらの調査結果を元に、現在の医療提供体制や患者の医療ニーズに則し、応召義務を始め診療の求めへの適切な対応の在り方について検証を行う。評価・検証結果を踏まえ、応召義務を始め我が国における医師や医療機関への診療の求めに対する対応の在り方を整理したものを、研究成果として報告を行う。
さらに、諸外国においても類似の義務が存在するかについて文献調査等を実施し、我が国の応召義務の特殊性について、評価を行う。
これらの調査結果を元に、現在の医療提供体制や患者の医療ニーズに則し、応召義務を始め診療の求めへの適切な対応の在り方について検証を行う。評価・検証結果を踏まえ、応召義務を始め我が国における医師や医療機関への診療の求めに対する対応の在り方を整理したものを、研究成果として報告を行う。
結果と考察
医師法第19条に規定する応召義務については、古くは明治時代から同趣旨の規定が罰則付きで設けられていたが、医療の公共性、医師による医業の業務独占、生命・身体の救護という医師の職業倫理などを背景に、戦後、医師法において訓示的規定として置かれたものである。なお、応召義務の名称・呼称については、戦前からの規定ぶりなども踏まえ改めて検討すべきと考えられた。
他方で、応召義務は、実態として個々の医師の「診療の求めがあれば診療拒否をしてはならない」という職業倫理・規範として機能し、社会的要請や国民の期待を受け止めてきた。こうした背景もあり、応召義務はその存在が純粋な法的効果以上に医師個人や医療界にとって大きな意味を持ち、医師の過重労働につながってきた側面があるが、医師には応召義務があるからといって、当然のことながら際限のない長時間労働を求めていると解することは当時の立法趣旨に照らしても正当ではないと解される。
こうしたことを踏まえ、医師の働き方改革との関係において、地域の医療提供体制を確保しつつ、他方で医師法上の応召義務に関する規定の存在により医師個人に過剰な労働を強いることのないような整理を、個別ケースごとに改めて体系的に示すことが必要と考えられた。
他方で、応召義務は、実態として個々の医師の「診療の求めがあれば診療拒否をしてはならない」という職業倫理・規範として機能し、社会的要請や国民の期待を受け止めてきた。こうした背景もあり、応召義務はその存在が純粋な法的効果以上に医師個人や医療界にとって大きな意味を持ち、医師の過重労働につながってきた側面があるが、医師には応召義務があるからといって、当然のことながら際限のない長時間労働を求めていると解することは当時の立法趣旨に照らしても正当ではないと解される。
こうしたことを踏まえ、医師の働き方改革との関係において、地域の医療提供体制を確保しつつ、他方で医師法上の応召義務に関する規定の存在により医師個人に過剰な労働を強いることのないような整理を、個別ケースごとに改めて体系的に示すことが必要と考えられた。
結論
応召義務について、戦前から戦後に至るまでの規定の変遷やこれまでの行政解釈、関連する民事訴訟のほか、諸外国の状況、今日的意義など、幅広い事項について検討を加えた。
応召義務の解釈については、過去に出された行政解釈のみでは現代の医療提供体制に十分に対応したものとはいえず、医師の働き方への影響といった観点も抜け落ちている。また、応召義務は医師個人が国に対して負担する公法上の義務であるという点で、組織として医療機関が患者からの診療の求めにどう対応するかが問題となる今日において、応召義務の解釈のみを検討することの限界も明らかとなった。
本研究においては、医療提供体制の変化や医師の働き方といった観点も踏まえ、現代において医療機関や医師が診療しないことがどういった場合に正当化されるか、新たな解釈を示すことを試みた。
応召義務の解釈については、過去に出された行政解釈のみでは現代の医療提供体制に十分に対応したものとはいえず、医師の働き方への影響といった観点も抜け落ちている。また、応召義務は医師個人が国に対して負担する公法上の義務であるという点で、組織として医療機関が患者からの診療の求めにどう対応するかが問題となる今日において、応召義務の解釈のみを検討することの限界も明らかとなった。
本研究においては、医療提供体制の変化や医師の働き方といった観点も踏まえ、現代において医療機関や医師が診療しないことがどういった場合に正当化されるか、新たな解釈を示すことを試みた。
公開日・更新日
公開日
2019-06-27
更新日
2019-08-08