周産期医療の質の向上に寄与するための、妊産婦及び新生児の管理と診療連携体制

文献情報

文献番号
201821028A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期医療の質の向上に寄与するための、妊産婦及び新生児の管理と診療連携体制
課題番号
H30-医療-一般-014
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
池田 智明(三重大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石渡 勇(石渡産婦人科病院 産婦人科)
  • 中村 友彦(長野県立こども病院 新生児科)
  • 海野 信也(北里大学 医学部産婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
17,689,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の妊産婦死亡の減少を目指すためには、産婦人科医師のみでなく、救急医、麻酔科医、コメディカル等との協働及びそのための実践教育が重要である。あらゆる職種の周産期医療関係者に標準的な母体救命法を普及させること、母体救命システム普及のための講習会の企画・運営を目的として、2015年7月に「日本母体救命システム普及協議会(J-CIMELS)」を設立した。J-CIMELSは、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本麻酔科学会、日本臨床救急医学会、京都産婦人科救急診療研究会、妊産婦死亡検討評価委員会の6団体と共に設立した。
 本研究では、J-CIMELS設立後の日本における妊産婦死亡の推移について調査することを目的とした。
研究方法
毎月開催される「妊産婦死亡症例検討評価小委員会」において報告書案が作成された後、年に4回開催される「妊産婦死亡症例検討評価委員会」を経て、最終的な症例検討評価報告書が作成され、日本産婦人科医会に戻されている。この報告書は報告医療機関と所属の都道府県産婦人科医会に送付され、各施設での事例検討などに活用されている。
 2010年から妊産婦死亡登録事業で集積された妊産婦死亡事例について、2010年には45例、2011年には40例、2012年は61例、2013年は43例、2014年は40例、2015年は50例、2016年44例、2017年43例、2018年6月末までに5例(連絡票の提出は14例)が報告され、合計は371例である。そのうちの338例について事例検討が終了しており、検討が終了した338例を対象とした。
結果と考察
妊産婦死亡者の年齢分布は19歳から45歳までに及び、患者年齢別に比較すると35~39歳が最も多く、次いで30~34歳である。年齢階層別に妊産婦死亡率を求めると、若年ほど妊婦の死亡率が低く、その後は年齢とともに死亡率が上昇することがわかる。妊産婦死亡率は、20代前半に比べ、30代後半で2.8倍、40歳以降で5.1倍上昇する。
経産回数別の妊産婦死亡率を図1-2に示す。特に多産婦において妊産婦死亡率の上昇を認めた。発生月別の死亡数については冬季に多いなど一定の傾向は認めなかった。
妊産婦死亡のうち、妊娠や分娩などの産科的合併症によって死亡したと考えられる直接産科的死亡は55%を占め、妊娠前から存在した疾患又は妊娠中に発症した疾患により死亡した間接産科的死亡は33%であった(図1-3)。事故、犯罪などによる死亡を偶発的死亡としたが1%あった。自殺による死亡も4%あった。不明は情報不足や死因の可能性が多岐に渡り分類不能なものである。
 妊産婦死亡338例における死亡原因として可能性の高い疾患(単一)を集計した。原因で最も多かったのが産科危機的出血で22%を占めていた。次いで、脳出血・脳梗塞が14%、心肺虚脱型(古典的)羊水塞栓症が12%、周産期心筋症などの心疾患と大動脈解離を合わせた心・大血管疾患が10%、肺血栓塞栓症などの肺疾患が8%、感染症(劇症型A群溶連菌感染症など)が9%であった。年次推移でみてみると、2010年に3割近くあった産科危機的出血の割合が、2割を切ってきている。2016年には産科危機的出血は7例に対し、感染症は8例とその順位が逆転した。また、脳出血の割合も減少傾向にある。
結論
 日本における妊産婦死亡原因は、直接産科死亡、特に産科危機的出血による死亡が多かった。産科危機的出血による妊産婦死亡は、2010年では、死亡原因の約30%を占めていたが、徐々に減少し、2015年からは20%を下回る割合で推移している。
 妊産婦死亡登録事業によって集められた事例の詳細は、妊産婦死亡症例検討評価委員によって検討される。検討された妊産婦死亡事例を分析し、改善すべき点を「母体安全への提言」としてまとめ、2019年8月に発刊た。
2015年7月、日本産婦人科医会を中心に J-CIMELSが設立された。同協議会は、救急医、麻酔科医、コメディカル等との協働及びそのための実践教育が重要との認識に基づき、あらゆる職種の周産期医療関係者に標準的な母体救命法を普及させることを目的として、シミュレーション教育として講習会を開催している。2019年3月現在、48都道府県のすべてで講習会が行われ、500回以上のベーシックコースが開催されている。医療安全の観点からは、同じ環境で働く参加者がコミュニケーションを円滑に行い、問題点の抽出と改善の議論が行えるため、システムの変革に有効であり、医療安全の向上につなげることを進めている。

公開日・更新日

公開日
2021-11-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201821028Z