保健所における母子保健活動のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800698A
報告書区分
総括
研究課題名
保健所における母子保健活動のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
宮里 和子(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福島富士子(国立公衆衛生院)
  • 藤内修二(大分県佐伯保健所)
  • 尾崎米厚(国立公衆衛生院)
  • 杉本聖子(福岡県保健福祉部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健法の施行に伴い、身近な保健サービスの提供主体が市町村へと移行し、その目玉が母子保健であった。今後は市町村が中心となって地域住民のニーズを把握しながら効果的で効率的な母子保健活動を展開していくことが望まれている。一方で、母子保健活動は従来の保健所の重要な活動分野であり、特に保健婦等の看護職種の業務量の中で占める割合が大変高い業務であった。地域保健法によると保健所の役割は一定程度示されてはいるが母子保健において保健所がとるべき具体的役割は不明確で、現場では最もとまどっている状態の分野である。本研究は全国の保健所において平成9年度からどのような母子保健活動が実際に展開されているのかを調査し、その実態から母子保健活動を体系的に分類する、またその中で、先駆的な活動を行っている保健所の事例について分析することにより、今後の保健所の機能と役割について母子保健を通して検討することを目的とする。
研究方法
1.全国の保健所にたいする最も力を入れている母子保健活動に関する郵送調査
全国の保健所における母子保健活動の現状を把握し、先駆的な事業を抽出するために、母子保健活動で力を入れている活動についての郵送調査を実施した。全国658保健所に調査を依頼し、219保健所(回収率33%)から回答があった。回答内容を、事業対象者の年齢、特徴的な対象者であるかどうか、対象としている疾患、事業の実施方法の特徴、連携機関、保健所の機能分類についてカテゴリー別に分類し、先駆的な事業を抽出する資料とした。
2.先駆的な母子保健活動の促進要因、実施までのプロセスに関する聞き取り調査
班会議での検討により先駆的な活動を抽出した。それらの事例担当者に事例検討のための班会議に出席してもらい、共同で事例分析を実施した。事例の特徴、事例が実現できたプロセスを分析することにより事例がうまくいった普遍的要因を抽出した。さらにその事例によく現れている保健所の機能も抽出した。また、その結果をワークシートに整理した。
3.これからの保健所の母子保健活動の展望についての意見に関するグループインタビュー
これからの保健所における母子保健活動のありかたを現状活動の中にある先駆的事例から導くのではなく、専門家が今後どのような活動をしたいと思っているのかという話し合いから導き出すために、国立公衆衛生院平成10年度専攻課程看護コースの学生(主に都道府県からの派遣保健婦)を中心にグループインタビューを行った。グループインタビューの方法は、KJ法に準じたものであった。すなわち、15人程度のグループで各自がこれから実施したい保健所での母子保健活動を自由に発想してもらいカードに書き、分類しながら貼り付けていくというものである。最後に整理されたものを議論して修正し、既にそのような事業が実践されておればその事業についての情報も報告してもらった。
4.福岡県の1保健所管内における保健所と市町村に対する、保健所の役割に関する訪問調査
福岡県粕屋保健所と管内8市町村に対する母子保健事業における保健所の役割についての調査を実施した。調査方法は郵送調査と、聞き取り調査であった。調査内容は厚生省が提言している保健所の役割についてのそれぞれが考える優先度と市町村が考える保健所に期待する役割と保健所が自己認識している役割であった。
結果と考察
1.全国の保健所にたいする最も力を入れている母子保健活動に関する郵送調査
回答のあった219保健所のうち「特に力を入れている事業はない」と回答したのは28%にのぼった。事業内容で分類すると、低出生体重児への支援、多胎児への支援、地域療育事業、虐待防止、生活習慣病予防、事故予防、小児慢性特定疾患児と家族への支援、摂食障害、学校における性教育、エイズ教育、薬物教育、育児支援、不登校対策、外国人母子への支援などであった。なかでも精神保健関係、療育事業関係、思春期保健関係の事業が多かった。事業の実施方法保健所の機能で分類すると健康相談、健康教育・教室、自主グループ育成、会議・組織作り、研修などが多かった。保健所の機能で分類すると専門技術的業務が最も多く、次いで市町村への支援、研修が多く、その他体制の整備、情報提供、調査研究などが続いた。
2.先駆的な母子保健活動の促進要因、実施までのプロセスに関する聞き取り調査
上記のの郵送調査で明らかになった事業のうち、先駆的な事業を班会議で議論して抽出した。その際、地域、事例の内容分類カテゴリーなどを勘案して抽出した。抽出した保健所のうち班会議に出席できる8事例を会議に呼び班員と一緒に事例のプロセス分析を実施した。検討事項は、ニーズの把握方法、事業開始のきっかけ、コンセンサスづくり、実施の特徴、市町村との関係、市民参加、評価、保健所の機能分類であった。抽出された促進要因は、関係機関の連携組織がつくられ機能している、事業予算を確保する工夫がなされている、住民参加や自主グループの育成する方向性を持っている、スタッフの研修、市町村との意志疎通があり市町村単独ではできないことを支援できる関係がある、職場の上司の説得を行うなどであった。
3.今後の保健所の母子保健活動の展望についての意見に関するグループインタビュー
障害者が普通に暮らせる環境をつくる、子育て支援、更年期・不妊症・障害婦人等への支援、小児周産期の救急医療体制の整備、夫婦の性・暴力への対応、危機管理、基盤整備(人材交流、調査研究機能、モデル事業開発機能)などについてのアイデアが提出された。
4.福岡県の1保健所管内における保健所と市町村に対する、それぞれの役割に関する訪問調査
保健所、市町村とも専門的機能を第1位に、次に体制の整備、情報収集、調査研究、広域的業務、市町村への援助研修をあげた。つまり、県型保健所と市町村が同じ方向性で保健所の役割を指向していることが確認された。しかし、各市町村では考え方に違いがあり、地方分権を推進していく上で、県型保健所は市町村との役割分担について包括的な対応だけでなく、地域特性に基づいた役割が要求されることが示唆された。 
結論
現在、保健所が実施している母子保健事業から先駆的な事業を抽出し、事業の実施プロセスを分析することにより重要な普遍的推進要因を抽出した。また、保健婦へのグループインタビューにより今後の母子保健活動に加えるべき要素も付け加えられた。保健所機能の方向性と市町村の期待との整合性も確認し、今後の保健所における母子保健活動のあり方の方向性が提案できたと考える。

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