人生の最終段階における医療のあり方に関する調査の手法開発及び分析に関する研究

文献情報

文献番号
201821002A
報告書区分
総括
研究課題名
人生の最終段階における医療のあり方に関する調査の手法開発及び分析に関する研究
課題番号
H28-医療-一般-013
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部 智一(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
  • 柏木 聖代(東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科看護ケア技術開発学)
  • 堀田 聰子(慶應義塾大学 大学院健康マネジメント研究科)
  • 浜野 淳(筑波大学 医学医療系)
  • Mayers Thomas(メイヤーズ トーマス)(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、平成29年12月に厚生労働省が実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」に向け、調査に盛り込むべき概念整理及び計測方法(質問項目等)を開発し、当該調査の実施にかかる提言を行うこと、及び本調査のデータを活用した追加的な分析により、今後の人生の最終段階における医療等のあり方の検討に資するデータを得ることを目的とした。
研究方法
最終年度となる平成30年度では、「人生の最終段階における医療に関する意識調査」実施後データ分析を通して、あらたに1-(3)人生の最終段階の医療処置における国民の希望と医療者が最善と考える処置との差-一般国民と医療・介護従事者に対する意識調査の解析より-、および1-(4)人生の最終段階における話し合いの実施、代理意思決定者の確認および話し合いの内容の文書による他職種との共有-その実態と関連する要因:医療・介護従事者に対する意識調査の解析より-を実施した。また、平成29年度に分析を開始した研究も1-(1)人生の最終段階に希望する医療や療養に関して家族等との話し合いに関連する要因-一般国民に対する意識調査の解析より-、1-(2)人生の最終段階に希望する医療・療養の場所に関連する要因 想定される疾病別分析-一般国民に対する意識調査の解析より-および、1-(5)病院における療養場所等の希望の聴取および引き継ぎ状況と人生の最終段階に対する支援体制との関連-施設長に対する意識調査の解析より-としてさらなる分析を行うと共に、考察を深めた。初年度から継続して行っている研究2-(1)全国の市町村における人生の最終段階における医療のあり方に関する媒体作成の実態は、最終的な分析を終え、まとめるに至った。
結果と考察
1-(1)では全解析対象者において、人生の最終段階に希望する医療や療養に関して家族等と話し合うことは、年齢を重ねることや過去5年以内の病院での介護経験があること等と正の関連が認められた。これにより、特に病院勤務の医療介護従事者は、病院での経験は、患者の介護を担う家族にも話し合いのきっかけとなる可能性を念頭においた診療が必要である。一方、男性は負の関連が認められた。65歳以上の解析対象者では、かかりつけ医がいることは、話し合いと正の関連が示されており、かかりつけ医を対象とした人生の最終段階に関する研修アプローチの充実が効果的と考えられた。1-(2)では希望する療養場所として最多であったのは、想定疾病が「末期がん」の場合は自宅、「慢性の重い心臓病」では医療機関、「認知症」では介護施設とそれぞれ異なった。医療・療養場所を検討する話し合いの際は、より具体的な疾患の設定が望まれる。1-(3)では国民が希望する医療処置と、医師、看護師および介護職員が最善と考える医療処置は必ずしも一致しないという結果を得た。医療介護従事者はそれを理解した上で積極的に本人の意向や価値観を尋ね、重要視することが望ましい。1-(4)では、医師・看護師・介護職員において話し合いをしていることと関連が認められたのは、研修受講があることと、看取り患者数が多いことであった。医療介護従事者に対して、看取りが近い患者と人生の最終段階に関する話し合いを効果的に実施するための教育研修プログラムの開発・普及・有用性の検討および制度的な支援が必要であると考えられる。1-(5)では、次の連携先へ患者の医療情報のみならず、療養希望まで引き継いでいる病院は、患者支援の専門職員がいる、話し合い内容をミーティングで共有する、病気診断時から話し合いをすることとの関連が認められた。これは、病院という施設単位で、患者の意向に沿った医療やケアを提供するための、より積極的な支援体制を検討する必要性を後押しするものと考えられる。2-(1)からは、「財政力指数」が高い自治体ほど、有意に普及啓発の取り組みが行なわれていたことが示された。今後、住民に対して人生の最終段階の医療に関する普及啓発を進めるためには、国全体としての普及啓発の取り組みや、国による市町村への財政的支援が必要と考える。この際1-(1)の調査で話し合いが進んでいないことが示唆された若い人や男性に、人生の最終段階に関する話し合いの重要性が伝わるような取り組みや工夫を意識的に取り入れていくことは、普及啓発に効果的と考えられる。なお、話し合った内容を文章とし、個々人と家族や医療介護従事者等とが共有する取り組みの検討については今後の課題である。
結論
平成28年・29年度に実施した研究・調査とあわせて、人生の最終段階における医療に対する多側面の実態を明らかにすることができた。また、国民がより質の高い人生の最終段階の医療を受けるための具体的な提言を示し、今後取り組むべき課題の示唆につながった。

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201821002B
報告書区分
総合
研究課題名
人生の最終段階における医療のあり方に関する調査の手法開発及び分析に関する研究
課題番号
H28-医療-一般-013
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部 智一(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
  • 柏木 聖代(東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科看護ケア技術開発学)
  • 堀田 聰子(慶應義塾大学 大学院健康マネジメント研究科)
  • 浜野 淳(筑波大学 医学医療系)
  • Mayers Thomas(メイヤーズ トーマス)(国立大学法人筑波大学 医学医療系 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成29年12月厚生労働省実施の「人生の最終段階における医療に関する意識調査」に向けて、実施前に調査に盛り込むべき概念整理及び計測方法(質問項目等)を開発し、当該調査の実施にかかる提言を行うこと、及び実施後は本調査のデータを活用した追加的な分析により、今後の人生の最終段階における医療等のあり方の検討に資するデータを得ることを目的とした。
研究方法
3年間の研究として、まず「人生の最終段階における医療に関する意識調査」調査票作成にむけた研究を実施し、そこから得られた考察を反映させた調査票案を作成し、厚生労働省へ提示した。同省内での検討の末、平成29年12月に調査実施となった。実施後、調査データを用いた研究や、その研究内容・結果の理解を深めることに寄与した救急調査や自治体調査および学会調査を、多面的に検討・考察し、国民がより質の高い人生の最終段階の医療を受けるための具体的な提言を示し、今後への課題を示唆するに至った。
結果と考察
まず、医療介護従事者が、臨床現場で一般国民と人生の最終段階の医療に関して話し合いをする際に必要なことは以下である。一般国民対象調査で、希望する医療やケアを話し合うことと、病院での介護経験があることが関連したことより、病院勤務の医療介護従事者は、病院での経験は、患者の介護を担う家族にも話し合いのきっかけとなる可能性を念頭においた診療が必要である。そして、希望する療養先は個人の年齢や性別、過去の死別経験、そして想定疾患により異なるという結果から、これらを考慮して話し合うことが望まれる。また、人生の最終段階の医療に関する国民の意向は、医療介護従事者が考える最善と必ずしも一致せず、終末期医療の実行に関しても、患者側と医療従事者側、医療従事者間それぞれの認識に差があり、その問題点も乖離していたことから、医療介護従事者はこれらを理解した上で、積極的に本人の意向を尋ね、尊重しつつ医療従事者間での情報共有が望ましい。さらに、このような際、想定疾患により意向が異なる前述の結果も踏まえると、各学会によるガイドラインがあると共通認識を得やすいが、調査結果から、ガイドライン設定があるのは3学会のみで今後の課題である。
次に、医療介護従事者全体へのアプローチも重要である。人生の最終段階に関する話し合いを持つことは、それに関連する研修の受講と、看取りの機会があることに有意に関連した結果より、医療介護従事者対象の人生の最終段階の意思決定支援に関する研修を促進し、かつ効果的な研修の開発・普及・有用性の検討および制度的な支援も必要である。この際、特に高齢者における話し合いにかかりつけ医は重要であることが明らかになったことから、かかりつけ医を対象とした研修アプローチは効果的と考えられる。
さらに、住民への普及啓発も重要であるが、自治体調査は財政的に逼迫している市町村ほど、終末期医療の決定プロセスに関する普及啓発への取り組みが行えていないという結果を示し、国全体としての普及啓発の取り組みや、国による市町村への財政的支援が必要であると考える。その際、人生の最終段階の話し合いが進んでいないことが示唆された若い人や男性に対し、その重要性が伝わる取り組みを意識的に取り入れることが効果的と考えられる。
また、今回の意識調査ではアドバンスケアプランニング(ACP)という表記が「話し合いの結果が記述され、定期的に見直され、ケアに関わる人々の間で共有されることが望ましい」等の定義をもって初めて医療介護従事者対象の質問紙票に記載された。これにより、病院や介護保険施設ではACPの実践が未だ少ない現状が明らかとなり、救急調査結果と同様であった。こうした中、転院などの引継ぎに際し、一度把握したACP内容を次機関に伝えることが重要であるが、転院情報に患者の意向をも含めている病院は、日々のカンファランスや職員マネージメントなど、日頃から患者の意向に沿う医療やケア提供のためのシステムが整っているという施設特性があることが示唆された。施設単位でのシステム整備やマネージメントを支援することも重要である。
 なお、話し合った内容を文章とし、個々人と家族や医療介護従事者等とが共有する取り組みの検討は、今回の調査には含まれず今後への課題である。
結論
本研究を通して、「人生の最終段階における医療に関する意識調査」に向け、調査に盛り込むべき概念整理及び計測方法(質問項目等)を提案し、当該調査の実施にかかる提言を行うことができた。また、同調査後のデータを活用した分析を行うことで、人生の最終段階における医療に対する多側面の実態を明らかにするのみならず、国民がより質の高い人生の最終段階の医療を受けるための具体的な政策提言をまとめるに至った。これにより、本研究目的を実現することができた。

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201821002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「人生の最終段階における医療に関する意識調査」に向け、調査に盛り込むべき概念整理及び計測方法(質問項目等)を提案し、当該調査の実施にかかる提言を行うことを実施することができた。「人生の最終段階における医療に関する意識調査」のデータを活用した追加的な分析を行うことで、人生の最終段階における医療に関する多側面の実態を明らかにするのみならず、国民がより質の高い人生の最終段階の医療を受けるための具体的な政策提言をまとめることができた。
臨床的観点からの成果
令和4年度は国際雑誌Healthcareに研究成果を論文発表でき、一般国民を対象とした場合、人生の最終段階に医療やケアを受けたい療養場所は、想定される臨床シナリオによって異なることを示した。臨床現場では、人々の希望をより正確に把握するために、病気やその状態に関する具体的な情報を設定した上で、人生の最終段階に医療やケアを受けたい療養場所についての議論を進めるのがよいと考える。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
国内学会や国際会議等において、研究代表者である田宮菜奈子が本研究の成果に基づき、地域データの意義や地域包括ケアシステムに関する講演を行った。講演に対する国内外からの反響は大きく、新たな共同研究にもつながった。 また、本研究の結果やプロセスを活かし、同研究代表者のもと、令和4年度厚生労働科学特別研究事業「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインの改訂のための研究」を実施することにつながった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
26件
令和2年度には神奈川県大和市で地域のケアマネジャーを対象として、令和3年度には働く女性を対象として講演会を行う際、本研究結果を踏まえてアドバンスケアプランニングの普及に努めた。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mayers T, Kashiwagi S, Mathis B J, Kawabe M, et al.
International review of national level guidelines on end-of-life care: with focus on the witholding and withdrawing of artificial nutrition and hydration.
Geriatrics & Gerontology International , 19 (9) , 847-853  (2019)
10.1111/ggi.13741
原著論文2
Inoue M, Hanari K, Hamano J, Gallagher J, et al.
Current Engagement in Advance Care Planning in Japan and Its Associated Factors.
Gerontology and Geriatric Medicine , 5 , 1-7  (2019)
https://doi.org/10.1177/2333721419892694
原著論文3
Kashiwagi M, Tamiya N.
Awareness-raising activities for community residents about decision-making regarding end-of-life care: A nationwide survey in Japan municipalities.
Geriatrics & Gerontology International , 20 (1) , 72-77  (2020)
10.1111/ggi.13812
原著論文4
Hamano J, Hanari K, Tamiya N.
Attitudes and Other Factors Influencing End-of-Life Discussion by Physicians, Nurses, and Care Staff: A Nationwide Survey in Japan.
American Journal of Hospice and Palliative Medicine , 37 (4) , 258-265  (2020)
https://doi.org/10.1177/1049909119876568
原著論文5
小竹 理奈,羽成 恭子,岩上 将夫,他
介護老人保健施設で看取りを行った遺族における看取りの満足度との関連要因/Factors related to bereaved family's satisfaction with end-of-life care at geriatric health services facility.
日本公衆衛生雑誌 , 67 (6)  (2020)
原著論文6
Hanari K, Sugiyama T, Inoue M, Mayers T, et al.
Caregiving Experience and Other Factors Associated with Having End-of-Life Discussions: A Cross-sectional Study of a General Japanese Population
Journal of Pain and Symptom Management , 61 (3) , 522-530  (2021)
https://doi.org/10.1016/j.jpainsymman.2020.08.010
原著論文7
Hamano J, Hanari K, Tamiya N.
End-of-life care preferences of the general public and recommendations of healthcare providers: a nationwide survey in Japan.
BMC palliative care , 19 (1) , 38-  (2020)
10.1186/s12904-020-00546-9

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
2023-06-19

収支報告書

文献番号
201821002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,470,000円
(2)補助金確定額
2,470,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 361,300円
人件費・謝金 708,735円
旅費 701,444円
その他 128,521円
間接経費 570,000円
合計 2,470,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-