地方衛生研究所の機能強化に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800696A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所の機能強化に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森良一(福岡県保健環境研究所)
  • 鈴木重任(東京都立衛生研究所)
  • 五明田李(島根県衛生公害研究所)
  • 荻野武雄(広島市衛生研究所)
  • 長谷川修司(千葉市環境保健研究所)
  • 宮島嘉道(秋田県衛生科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
都道府県又は指定都市等における科学的かつ技術的中核である地方衛生研究所(以下地研と略)がもつ4つの機能;調査研究、試験検査、研修指導、公衆衛生情報等の収集・解析・提供に、保健所への科学的支援、対人保健分野の調査研究の強化を加え、6つの研究分野毎に、地研の機能強化に資する具体的な研究課題を設定した。これらの研究の総合的な展開及びその成果の共有により、地研間の連携の絆がより強まり、“Evidence"の中核的機関として地研の機能強化を具体的且つ着実に推進することを目的とした。
研究方法
各分担課題毎に、分担研究者及び全国6支部長の推薦による研究班員からなる研究チ-ムを編成し(39研究所;46人)、各班毎に調査研究活動を展開した。全国調査の実施、問題点の把握、解決方策の検討、システムの構築やその評価、試験検査や健康調査によるアプロ-チ等を行った。研究班会議は、平成10年9月7日(第1回;研究計画;15人参加)、平成11年2月16日(第2回;研究のまとめ;13人)、各分担研究班相互の連絡調整、総括的討議のために「研究班全体会議」を開催した(平成11年1月14日;51人)。
結果と考察
1.地研の知的、人的、物的資産の有効活用による調査研究機能の強化:①平成元年~9年のファイルをCD-ROMに編集し、Access版地研業績集を作成・配布した。②地研業績集Formatに厚生科学DBの項目を取り込み、研究成果の社会還元策を検討した。③対人保健分野の調査研究には、検討協議会の活用、地研の企画調整機能の強化が重要である。2.科学的根拠及び情報を提供する地研の試験検査機能の強化に関する研究:①地研間で試験検査デ-タを有効利用するため、統一的なFormatを作成すべきである。②健康危機管理対策では、役割分担と情報連絡網、事例集の整備が有効な方策と考えられた。③高度検査体制の強化では、ケミカルハザ-ド防止策及び安全管理規定をまとめた。感染症や化学汚染物質の検査は、可能なものの連携に基づく施策作成がより有効である。④GLPでは、精度管理の試料配付及びデ-タの収集からデ-タ集を作成すると共に精度管理の目標値を考察した。3.地研の連携による相互研修システムの確立とその評価に関する研究:各種モデル研修は、それぞれ評価も高く、実現可能である。①相互研修、②国立試験研究機関からの派遣研修、③伝達研修、④ビデオ研修、⑤支部ブロック単位の研修、4.地研の情報提供を効果的に行うためのネットワ-クの構築に関する研究:①情報提供は7割以上、所内LANの整備・計画は8割近くの地研にのぼり、利用内容は掲示板、メ-ル、スケジュ-ル、DBなど広範囲であった。②WWWブラウザを利用したDB検索システム、電話回線ダイアルアップによるインタ-ネット接続システムの検討を行い、それぞれ有用性が認められた。③地研でも国際的なコーディングシステムの取り入れが必要である。⑤地研でのインターネット導入は全体の85%になっているが、情報管理体制は必ずしも十分ではない状況であった。5.地研の保健所行政への科学的支援システムの構築:①試験検査は、中核的な保健所や地研へ収集する傾向を認めた。②Cryptosporidium 集団発生時には、現地での疫学調査の強化、日常からの地研と保健所・本庁主管部、医療機関との逐次連絡と健康危機管理情報の共有化の推進、危機管理マニュアル等の緊急システムの導入、専門技術の収集と集積・普及、水道事業内部の日常監視の強化等が提言された。③O157集団発生初期の発生規模予測は比例モデルが最善の方法と考えられる。④分析項目を限定すれば、98.6%
の地研で毒物劇物の緊急分析が可能であることが判明した(全国調査)。6.地域における健康・栄養状況等の評価に関する研究:①疾病動向予測システムによれば、肺がん、結腸がん、肝がん、乳がん死亡の今後の推移に注意すべきこと、平均死亡率比による都道府県別分析では、自殺、自動車事故、その他の事故、全結核、虚血性心疾患、肝硬変、食道がん、胃がん、肝がん、白血病等で特徴的な地域分布が見られた。②食事の脂肪酸分析では、来年度の本調査に向けての調査方法や分析方法は概ね確立できた。③看護学生は、エネルギーの多くを脂質に頼り、野菜と穀類の摂取不足が強い。④活性酸素消去作用をMRIで検討し、ベニバナ、食用菊等に比較的強いラジカル消去活性が認められた。⑤血清中ビタミンC濃度の測定方法について検討し、少量の検体で感度よく定量することができた。陰膳中のビタミンC濃度を測定し、一日の摂取量を求めた。⑥秤量法と陰膳法による無機質成分の摂取量比較では、Na、K、Zn、Feの4成分について相関がみられた。⑦踵骨の骨密度測定(超音波骨密度測定装置)では、再現性の高い測定値が短時間で得られた。食事中のCa及びP量の測定結果も再現性及び回収率とも良好で、4訂日本食品標準成分表による計算値とほぼ一致した。⑧陰膳法の主な栄養素摂取結果は、Ca、Fe、Mg、Cuの摂取量不足、K、P、Mnは概ね充足、ビタミンA効力、ビタミンB1は充足、ビタミンB2は不足傾向であった。地方衛生研究所は、感染症の蔓延防止や食品、水、環境、医薬品の安全性を図る等「科学的根拠」や健康に関する情報の提供等、信頼性の高いデ-タを基に、有用な検査情報、研究情報、さらにはそれらを基に地域保健の課題を発掘することを可能とするような公衆衛生情報デ-タベ-スとネットワ-クの構築を図り、疫学的な研究にも積極的に取り組む等“Evidence"機能を強化し、地域の衛生行政や住民のニ-ズに応えていくべきであり、そのためには、地方衛生研究所の機能強化が不可欠となっている。公衆衛生の守備範囲は量、質ともに、拡大しており、地域におけるこれらの課題をひとつの地研のみでカバ-することは殆ど不可能であり、共通の基盤、視点、ほぼ同一の問題意識をもっている地研相互の連携こそ問題解決の重要な鍵となっている。地方衛生研究所全国協議会に加盟の全地研(73研究所、職員3,459人)がこうした認識を持って本研究に参加し、研究課題の解決策や情報システムづくりに取り組んでおり、「参加と連携」が本研究の基本的戦略となっている。本研究の大部分は、「各地研のもつ知的、人的、物的資産の共有、活用を図り、相互の連携を強化するための具体的な方策に関する研究」として集約することができよう。これらの研究活動を計画的・総合的に展開することにより、地研間の連携の絆が一層強まり、地域における調査研究及び試験検査機能をはじめ、公衆衛生研修センタ-、公衆衛生情報センタ-、地方感染症情報センタ-、レファレンスセンタ-、精度管理、さらに広域的な健康危機管理体制等々、名実共に、地域における衛生行政の科学的・技術的中核としての“エビデンス機能"の強化に大いに資するものといえよう。
結論
全国73地研の参加を得て、地研相互の連携を中心に機能強化に資する具体的方策を検討した。①Access版地研業績集(平成元年~9年;CD-ROM)の作成・配布、②GLPによる精度管理、高度検査体制におけるケミカルハザ-ド防止策、③地研の連携による相互研修システムの確立、④インタ-ネットによる情報の共有・有効活用、情報管理、セキュリテイ対策、⑤Cryptospordium集団発生時の地研の保健所への科学的支援策例、地研における毒物劇物の緊急分析体制、健康危機管理情報システム例、⑥疾病動向予測システムによる死亡特性等の分析、「陰膳」等による栄養成分分析法や生体資料中における生化学測定値による栄養状態の評価に関する基礎的研究等、地研の機能強化のための実践的・具体的な成果が得られた。地研は「科学的根拠に基づく」地域保健対策を効果的に推進していくための科学的かつ技術的中核機関として機能することが示されている。設置要綱に明記されたこ
の機能を強化していくためには、地研相互間の緊密な連携・協力体制を整備し、このシステムを活用して各業務を積極的に推進していくことが極めて有効な一方策と思われる。

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