地域保健活動の類型化と展開方法の適用に関する研究

文献情報

文献番号
199800695A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健活動の類型化と展開方法の適用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岩永 俊博(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 山根洋右(島根医科大学)
  • 兵井伸行(国立公衆衛生院)
  • 鳩野洋子(国立公衆衛生院)
  • 尾崎米厚(国立公衆衛生院)
  • 市野浩司(熊本県八代保健所)
  • 橋本栄里子(慶應義塾大学SFC研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年我が国でも、公衆衛生活動の展開方法として、さまざまな方法論が提示されており、それぞれの方法の地域活動への適応事例が学会などでも報告されている。これらの方法には、それぞれなりの特徴や有効な適応場面、あるいは限界などがあるはずであるが、それらが整理されていない。そのため、各保健所、市町村現場では、これらの方法を有効に活用できない現状がある。そこで、本研究では、地域での保健活動の展開方法として用いられているそれらの方法について、保健所、市町村で行われる保健事業への適応という視点から整理し、状況に応じた展開方法の選択の基準を明らかにするとともに、適応時の課題を整理、提示することを目的とした。
研究方法
研究の手順は、以下の3段階を取った。① 公衆衛生院活動の方法論の特徴を比較検討するための座標軸として、 世界的潮流の中で、今後視野にいれるべき戦略戦術の課題、コンセプトを、ヘルスプロモーションの動向に関する国際的な文献の検討に加え、分担研究者のこれまでのフィールドワークの分析により検討した。② 疫学分析、プロジェクト・サイクル・マネージメントやプリシード・プロシード・モデル、地域づくり型保健活動、ソーシャル・マーケティングの各方法について、保健事業への適応という観点から、それぞれの特徴と保健活動展開への適応の可能性について、方法論に関する文献の検討および過去の適応例の分析に加え、分担責任者らのこれまでのフィールドワークの分析により検討、整理した。③保健所、市町村での保健活動開始や計画作成など、展開方法を選択する機会に関して、調査員が保健所、市町村などに出向き、保健婦や地域保健担当者に対して聞き取り、実態を調査して方法の適応の視点から類型化を試みた。
結果と考察
①本研究で抽出された公衆衛生活動の方法論についての特徴の比較検討のための座標軸としての課題、コンセプトは、コミュニティの把握と理解、実証的根拠と優先順位の決定への貢献、リスク及び緊急時への対応、コミュニティ参加、多様な分野との協働、エンパワーメント、システムの構築と仕組みづくり、参加型行動研究と科学的根拠に基づく政策形成、コミュニティ活動の評価とさらなる発展などであった。
②疫学的手法、PRECEDE-PROCEED Model、プロジェクト・サイクル・マネージメント、地域づくり型保健活動、ソーシャルマーケティングの各方法について、それぞれの考え方や方法についての特徴を、相互に比較しながら検討することが出来た。
③疫学的手法は、さまざまな分野で活用される方法であり、PRECEDE-PROCEED Model、プロジェクト・サイクル・マネージメント、地域づくり型保健活動においても、情報を収集したり活動評価の段階では疫学的手法が使われるが、基本的にはリスクアセスメントやリスクマネジメントにおいて有効な方法と考えられた。
④ソーシャル・マーケティングは、その出発が消費者ニーズの把握から、生産者-消費者の関係性へと発展した方法であり、保健活動における消費者、サービスの受け手の価値観や要望を把握し、その変化に応じたサービス内容や供給体制を整備するためには重要な考え方と思われる。しかしマーケッティング手法により把握された住民の価値観や要望が、真のニーズを反映するものにするためには、具体的な地域保健活動の中で方法論の精査、開発を試みる必要がある。
⑤プロジェクト・サイクル・マネージメントでは、プロジェクトとしての課題を明確にし、問題分析や目的分析を通して、課題の位置づけを明らかにし、課題解決のための仕組みづくりや方法の選択などが参画型で行われる。つまり、課題が明確な場合には有効性が高まる考えられる。
⑥PRECEDE-PROCEED Model や地域づくり型保健活動は、課題の有無はこれらの検討の出発とは関係なく、むしろ、検討の過程で解決すべき課題が見いだされてくる場合があり、これらの展開目的は課題発見ではない。実現すべき状況を目標として、それを整えるための要因を設定し、その要因を満たしていくことで、目標の実現を図るという考え方である。
⑦PRECEDE-PROCEED Model では、既存資料や調査から、優先順位が決定され、そのために目標間の因果関係や頻度,改善可能性が検討される。その意味では科学的根拠が重視され、相対比較がなされるため、このモデルの適応される地域の広さは、統計的意味が検討可能な広さが求められる。
⑧地域づくり型保健活動では、事前調査は事後調査との比較のためとして位置づけられ、事前調査の統計的検討はそれほど重視されない。また、参加者やコミュニティーのエンパワーメントが目的の一つとされ、話し合いのプロセスが重視されるため、顔の見えるコミュニティでの適応が有効である。
⑨各方法の特徴は概観できたが、基本軸となる概念が具体性に欠けたことと、各方法論の実践的検討が出来ていないことなどがあり、特に適応時に課題と成るであろう点についての特徴を具体的に示すことが困難であった。
⑩保健所や市町村での保健活動において、日常的に遭遇する問題について、それらを発生型、探索型、設定型のように問題構造の視点からパターン化して捉えることにより、問題解決のための類型化が可能であることが明らかになった。つまり、日常的に問題と感じていることを問題構造の視点で類型化することにより、問題解決のための方法の選択がより容易になることが示唆された。
⑪現場で、このような方法論を採用して保健活動を進めるためには、職場での合意形成や研修体制の整備、行政の体質としての経験主義からの脱皮や長いスパンでみることに対する上司や財政当局などの理解が重要であると思われた。
結論
今回の研究で、近年地域保健活動で用いられるようになった各方法論について、その考え方や方法についての特徴を、相互に比較しながら検討することが出来た。
この結果は、保健所や市町村において、保健活動を展開しようとするときに、「このような場合はどの方法を選択すればいいか」という、方法の選択場面において参考にすることが出来る。しかし、今年度明らかになった特徴だけでは、実践的な検討が次年度に予定されていることもあり、適応時に課題となるであろう点についての特徴を具体的に示すことができていないため、次年度からの課題である。
保健所や市町村での保健活動において、日常的に遭遇する問題について、問題解決のための類型化が可能であることが明らかになった。それに従って方法論を選択できることが示唆された。この結果についても初年度であり、次年度以降、さらに実証的に検討することによって、類型化の指標を提示することを目指したい。            

公開日・更新日

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