文献情報
文献番号
201819019A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者に対する精神・心理的支援方策および連携体制構築に資する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター エイズ先端医療研究部)
研究分担者(所属機関)
- 大山 泰宏(京都大学 教育学研究科)
- 安尾 利彦(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床心理室)
- 村井 俊哉(京都大学 精神医学)
- 池田 学(大阪大学大学院 情報統合医学精神医学)
- 山田 富秋(松山大学 人文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
9,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究ではHIV陽性者の精神・心理的実態を明らかにし、より効果的な精神・心理的支援を開発し、心理的支援を統合した診療ネットワークモデルの提供を試みる。研究1(大山)HIV 陽性者へのカウセンリングの効果を実証的に示す。また、陽性者の心理的課題を特定し、それにふさわしいカウンセリングの方法や技法を検討する。研究2(安尾)HIV陽性者の行動面の障害を伴う問題、中でも受診中断について、その心理的背景を明らかにする。研究3(村井)HIV感染者の心理的ストレスの背景にあるHIV関連神経認知障害 (HAND) の神経基盤について、MRI画像統計解析により明らかにする。研究4(池田)体制を、大学病院精神科、単科精神科病院、公立精神科病院、精神科診療所の連携により構築する。連携を実現するための精神科医療の専門職向けの教育資材を開発する。研究5(山田)血液製剤由来HIV陽性者にとって有益な心理的支援方法を、心理学、社会学、ピア(当事者)、医療者の様々な視点から検討する。
研究方法
研究1 HIV陽性者に臨床心理士による支持的技法の標準的なカウンセリングを行い、その前後と中間地点で、質問紙や投映法などの複数の心理検査を通して評価する。研究2 大阪医療センターのHIV陽性者168名を対象に、診療録から基本属性、受診中断歴、受診無断キャンセル数等を抽出する。同施設のHIV陽性者で、受診中断等行動面の障害を伴う問題の有無および心理尺度を用いた量的調査を実施し、他の慢性疾患患者での調査結果と比較する。研究3 これまでに実施した疾患群、対照群各約40名のデータを患者群と対象群で脳灰白質体積、白質繊維の障害の比較を行い、脳構造異常と認知機能検査や血液データ等臨床所見(感染状態)との相関等について画像統計解析を行う。研究4 平成30年度は、関係機関の協力を得て大阪府下全精神科医療機関に対しHIV関連精神疾患の診療実績、診療上の留意点、紹介元、紹介先などのアンケート調査を実施した。研究5 薬害被害者とその医療従事者を対象にライフストーリーを中心としたインタビュー調査を行い、いわゆる「薬害エイズ事件」という歴史的・社会的文脈の視点も組み入れて、再整理を行った。
結果と考察
(研究結果)研究1 3事例が終了した。少数であるがカウンセリングで改善例が認められた。 研究2 約20%に受診中断歴があった。年齢、治療歴の有無、無断キャンセル数に有意差を認めた。 研究3 中間解析の結果、白質繊維について対照群と比較して患者群では脳梁や内包前脚等の脳部位で平均拡散能や放射拡散係数が有意に増加し、運動機能や知覚統合と脳梁などの脳部位の平均拡散能との間に負の相関を認めた。 研究4 予備調査票、本調査票の準備が済み、倫理委員会の審査待ちである。 研究5 今年度は、歴史的出来事に沿って患者の語りを整理することで、インプリケーションが得られた。また、ブロック拠点病院のチーム医療について、研究成果をまとめることができた。
(考察)研究1 カウンセリングによる支援が、HIV 陽性者の精神的健康を高め、社会生活への参加を改善することが示唆された。研究2 受診の無断キャンセルが多い陽性者は、受診中断する可能性も高いことが推察された。無断キャンセル後の来院時に無断キャンセルに至った要因を検討し、受診の障壁への介入が重要と考えた。 研究3 HIV患者群の白質神経繊維では、放射拡散係数の増加を認めることから、髄鞘の変性が生じている可能性も考えられた。研究4 連携システムの中核病院での精神科部長の急病により研究が遅れたが、今後、取り戻す予定である。研究5 薬害被害者の心理的支援方法について、これまでのインタビュー内容を歴史的出来事に沿って位置づけると、HIV/エイズが社会的に大きなスティグマとみなされた時期の前後において、患者自身のHIV感染に対する意識も、医療機関の対応も大きく異なっていることがわかった。研究からカウンセリングを日常の医療活動の中に自然に位置づける試みの有用性が示唆された。
(考察)研究1 カウンセリングによる支援が、HIV 陽性者の精神的健康を高め、社会生活への参加を改善することが示唆された。研究2 受診の無断キャンセルが多い陽性者は、受診中断する可能性も高いことが推察された。無断キャンセル後の来院時に無断キャンセルに至った要因を検討し、受診の障壁への介入が重要と考えた。 研究3 HIV患者群の白質神経繊維では、放射拡散係数の増加を認めることから、髄鞘の変性が生じている可能性も考えられた。研究4 連携システムの中核病院での精神科部長の急病により研究が遅れたが、今後、取り戻す予定である。研究5 薬害被害者の心理的支援方法について、これまでのインタビュー内容を歴史的出来事に沿って位置づけると、HIV/エイズが社会的に大きなスティグマとみなされた時期の前後において、患者自身のHIV感染に対する意識も、医療機関の対応も大きく異なっていることがわかった。研究からカウンセリングを日常の医療活動の中に自然に位置づける試みの有用性が示唆された。
結論
研究1 HIV 陽性者への支援の方法としての心理カウンセリングの有用性や、精神的健康や社会参加を改善することが見いだされた。研究2 受診中断予防には、受診無断キャンセル時の介入の必要性が明らかとなった。研究3 解析を継続し、結果をまとめる。研究4 アンケート結果によって、HIV関連精神疾患の診療連携の施設に該当する精神科医療機関に対し、診療拠点となる承諾の必要が示された。研究5 患者と医療従事者を対象にした薬害被害者の心理的支援方法につき、それぞれが置かれた具体的状況に即した効果的支援方法を提示できる礎を提供できた。研究班全体として概ね当初の予定通りに研究を遂行でき、目的を達成できた。
公開日・更新日
公開日
2020-03-11
更新日
-