文献情報
文献番号
201819013A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ予防指針に基づく対策の推進のための研究
課題番号
H30-エイズ-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター 松下プロジェクト研究室)
研究分担者(所属機関)
- 椎野 禎一郎(国立感染症研究所感染症疫学センター)
- 塚田 訓久(国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター)
- 塩野 徳史(大阪青山大学健康科学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、平成30年1月18日付で改定されたエイズ予防指針に基づき、陽性者を取り巻く課題に対する各種施策の効果を経年的に評価するとともに、一元的に進捗状況を把握し、課題抽出を行うことで、一貫したエイズ対策を推進するところにある。平成30年度は、エイズ予防指針に基づく課題の一覧表を作成し、これまでの研究、事業、HIV感染症に関するガイドラインとの関連性を整理するとともに、HIV感染者・エイズ患者を取り巻く課題に関わる様々な専門家(医療従事者、基礎研究者、NGO団体関係者等)で構成される研究班体制を構築し、各種課題を解決するための方策の議論を開始する。
研究方法
第32回日本エイズ学会学術集会でシンポジウムを企画し、予防指針に関わる多くの専門家や当事者を集めて、背景と課題について議論を深めた。関連する厚労省研究班の班会議に出席し、各地域の予防啓発活動に関する情報収集を行うとともに改訂された予防指針への意見を収集した。先行的な資料が乏しかった性産業従事者について、アンケート調査をおこなった。ブロック拠点病院やHIVに関わる臨床の専門家を対象に調査をおこなった。関連する国際学会に出席し、海外におけるPrEPの状況などを調査した。
結果と考察
エイズ予防指針に基づく課題を基礎・臨床・社会の各分担研究者を通じて、研究協力者と各分野の視点で整理し、課題解決のための方策についての意見交換を開始した。今回の改定のポイントとして1)効果的な普及啓発、2)発生動向調査の強化、3)保健所等・医療機関での検査拡大、4)予後改善に伴う新たな課題に対応するための医療の提供の4点があげられ、HIV感染の「早期診断・早期治療開始」を目標にした取り組みが求められている。基礎系からのアプローチとして、エイズ予防指針に基づく課題を評価するための「課題チェックシート」を作成し、重要なキーワードを抽出した。平成20年度以降の厚生労働省科学研究事業およびAMED研究開発事業の376課題を対象に、テキストマイニングの手法で解析したところ、エイズ予防指針に沿った研究の報告書に特徴的な2種類の文章パターンを発見した。これらの情報を応用して「エイズ予防指針に基づく課題の一覧表」を作成し、課題克服に向けた施策の提案へとステップアップしていく事が可能である。臨床分野の課題には、専門医療機関のレベルでは既に解決の道筋が見えているものも多い。「早期診断」「地域での包括的な医療体制の確保」「長期療養・在宅療養支援体制の整備」には、非専門家の参加が不十分と考えられた。新規感染拡大の阻止に最も重要な「早期治療」を実現するためには、身体障害者手帳の認定基準の改定など国が主体となって制度面の問題点を解決する必要がある。社会系の研究協力者からは、エイズ予防指針がより実行力を高めるためには、以下のようなモニタリングが必要であると指摘された。HIV感染症に対しては、一般住民の理解度や知識について、HIV陽性者においては就労の課題(企業の人事担当者・経営者の意識調査、差別事例の収集)等、医療においては、地域の医療機関との連携状況、患者受け入れ状況の継続的把握、かかりつけ医の有無調査、診療拒否事例の収集、医療従事者の意識調査等である。また予防啓発活動については、複数の個別施策層にまたがるハイリスク層が存在し、性感染症の拡大(梅毒・A型肝炎)が拡大している現状を背景に、コミュニティにおける新たな予防(PEP・PrEP)への関心や知識、予防行動を継続的にモニタリングしていく必要性が指摘された。先行的な量的資料が少ない性産業従事者に関して、アンケート調査をおこない、HIV感染症に関して効果的な普及啓発が届いていない実態が明らかとなった。
結論
改訂されたエイズ予防指針において、追加・強調された施策のキーワードを用いて過去の研究報告書をマイニングしたところ、エイズ予防指針に沿った研究の報告書に特徴的な2種類の文章パターンを発見した。これらの情報を応用して「エイズ予防指針に基づく課題の一覧表」を作成し、課題克服に向けた施策の提案へとステップアップしていく事が可能である。一方、予防指針に沿った施策の実現のため、行政・医療(拠点病院)・コミュニティの協働は必要不可欠だが、感染予防や抗ウイルス療法の進歩に対応した取り組みに集中するなどの新たな提案が必要と考えられた。予防指針の目標達成に重要な「早期治療」を実現するためには、国が主体となった制度面の問題点の解決も必須である。
公開日・更新日
公開日
2019-05-27
更新日
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