職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査体制の研究

文献情報

文献番号
201819011A
報告書区分
総括
研究課題名
職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査体制の研究
課題番号
H29-エイズ-一般-008
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科、エイズ治療開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 秀人(国立保健医療科学院 統括研究官)
  • 生島  嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
  • 伊藤 公人(社会医療法人宏潤会大同病院 血液化学療法内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、HIV陽性者は良好な生命予後が期待できることから検査提供機会の拡大が重要である。 アメリカでは1992年CDC主導でBusiness Responds to AIDS (BRTA)によって提供される様々なプログラムを通じ、企業が啓発やスティグマの解消に加えて、職場における検査、予防及び治療サービス提供を行う試みが開始された。我が国では法律により医師による健康診断(健診)が義務付けられ様々な任意検査機会も提供されているが、企業でのエイズ検診は、「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン(以下ガイドライン)」により原則実施すべきでないとされている。
本研究では、BRTAの概念を我が国にも紹介導入し、職域健診の機会に希望者対し梅毒とエイズ(以下エイズ等)の検査機会の提供を試みる。
研究方法
ガイドラインを遵守して実施する。雇用保障、プライバシー管理、健康支援を約束する企業を対象とする。研究参加企業の従業員に対しエイズ等の検査機会を提供する。企業及び受検者の検査にかかわる費用負担はない。検査の実施方法は協議して参加企業に最適化する。受検者へのアンケート調査を行い、梅毒・エイズ検査の職域健診における検査機会提供の有用性と実施への課題を検討する。
結果と考察
【協力企業の選定】
健診センターではHIVのような特殊な疾病にはかかわらないのが常識で、業務繁多でもあることから健診受託先企業の紹介は得られなかった。直接企業に働きがけをしたが、雇用保障、プライバシー管理、健康支援の3条件を約束できず、HIVのような特殊な疾病にはかかわらないのが常識であるとして、ほとんどの企業では総務部門での検討段階で協力困難とされた。協力企業を得るのは困難を極めたが、不二ラテックス株式会社、S社、GSKグラクソ・スミスクライン株式会社の三社が、従業員の健康リテラシーの向上や従業員の健康維持支援に対する企業姿勢の表明につながるとして参加を検討することとなった。
【検診実施計画と方法】
企業担当者と協議を行い、通常の健診とは別の枠組みで検査機会の提供を行い、かつ、郵送検査キットを使用する方針とした。郵送検査キット実施業者の選定は「HIV検査受検勧奨に関する研究」班から知見を得て行なった。ぷれいす東京の協力により、郵送検査キットによる検査実施後の受検者への支援体制を強化した。
上記経過を経て、平成30年度は、愛知県の事業を当研究班が受託し、不二ラテックス株式会社及びGSKグラクソ・スミスクライン株式会社それぞれの従業員に対しエイズ等検査機会を提供することとなった。
【実施過程】
 不二ラテックス株式会社マーケティング課等の担当者と研究班担当者で2週間に1度程度の頻度で打ち合わせを実施し、検査実施方法の検討、検査実施までの工程表の作成、啓発プログラムの最適化を行い、全従業員に検査機会を提供することになった。本社及び3工場の全従業員に対し講習会実施時に検査キットを配布した(397個)。 受検者数は106人(同意95人、非同意1人、同意書なし10人)、返品数110個となった(回収数216個)。同意のとれた95人を調査対象者としたHIV・梅毒検査質問紙調査の結果は、「検査しやすかったから」男性90.0% 女性92.0%「プライバシーが保たれているから」男性90.0% 女性90.0%、「職場の環境が整っているから」男性88.6% 女性91.7%、「心当たりがある、または心当たりがないから」男性77.1% 女性75.0%、「検査経験に基づいて」男性57.1% 女性62.5%、「早期発見・早期治療が大切だから」男性95.7% 女性95.8%であった。不二ラテックス株式会社における検査実施後、今回の検査機会提供によって従業員が何らかの不利益を被ったという報告は2019年2月末時点でない。
 GSKグラクソ・スミスクライン株式会社では、2019年3月から検査機会の提供が開始された。
 不二ラテックス株式会社及びGSKグラクソ・スミスクライン株式会社における本研究の取り組みの内容や作成した資材は、https://brta.jp/ で公開している。
結論
職域での検査機会提供により、生涯のエイズ等の受検率の向上と“陰性”履歴の蓄積、当事者意識向上による受検促進効果、HIVと共に生きる人々のHIV感染自認率の向上、企業及び従業員の疾病知識の向上及び健康情報のリテラシー向上が期待される。今後、保健所との連携等の可否を検討し、事業への進展の可否を判断する。
 ガイドラインは、現在もなお差別偏見の強い我が国においてその存在は重要であるが、一方でエイズ問題に向き合わないでいることの理由に使われている側面がある。エイズを社会的にも死の病でないようにするため、現在の科学的な知見に即しガイドラインの改定や運用改善が必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201819011Z