文献情報
文献番号
201819007A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ動向解析に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
羽柴 知恵子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科、エイズ治療開発センター)
研究分担者(所属機関)
- 金子 典代(公立大学法人名古屋市立大学 看護学部)
- 椎野 禎一郎(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
- 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染・免疫研究部・感染症研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年HIV新規感染者数は減少傾向を示すことがあるものの、AIDSで診断される、いわゆる「いきなりAIDS」の患者の割合は変わらない。依然としてHIV検査の普及啓発活動が届いていない層が存在していることが考えられる。本研究では今までターゲットとされていなかった普及啓発の対象を明らかにし、その手法を提言することを目的としている。
研究方法
本年度は2018年5月に行われた名古屋市無料HIV検査会の受検者を対象にアンケート調査を行い、検査会の受検結果と紐づけさせて回答の集計を行った。データの解析にはSPSS-ver19.0およびSTATA ver15.0を使用し、統計学的有意水準は5%を採用した。
また伝播クラスタ解析は2013年から16年に名古屋医療センターおよび当院に薬剤耐性検査を依頼した東海地方の医療機関に退院した新規HIV感染者を対象として行った。WEB上で国内の伝播クラスタ(TC)を検索できるシステム”SPHNCS”を使用し、新規患者同士で近縁な伝播ネットワークを形成するものがないかどうか調べた。
また伝播クラスタ解析は2013年から16年に名古屋医療センターおよび当院に薬剤耐性検査を依頼した東海地方の医療機関に退院した新規HIV感染者を対象として行った。WEB上で国内の伝播クラスタ(TC)を検索できるシステム”SPHNCS”を使用し、新規患者同士で近縁な伝播ネットワークを形成するものがないかどうか調べた。
結果と考察
研究結果
受検者層および検査経験の有無
648人の受検者のうち東海地域に居住するゲイバイセクシャル男性499人に限定し基本属性を集計し、生涯の検査経験の有無別に性行動や属性についての解析を行った。一番最近に受けたHIV検査は過去1年以内と回答したものが49%であった。障害の検査経験別にみると検査経験の有無と年齢、学歴、身分、過去6か月のハッテン場利用、過去6か月の男性との性交渉経験、友達やセックスフレンド、その場限りの相手との性交渉時のコンドーム使用に関連が認められた。年齢が若い方が高いものと比べて、また中学高校卒業の者の方がその他の学歴より、公務員・会社員の方が障害の検査経験を有する割合が低かった。
既往認識と検査結果の乖離
検査結果およびアンケート結果共にあり、HIV陽性者(10人)を除く637人を解析対象とした。梅毒の既感染を表すTP抗体の陽性者は107人(16.8%)でB型肝炎の既感染を表すHBc抗体の陽性者は105人(16.5%)であった。TP抗体陽性者107人のうち37人(34.6%)が梅毒を既往歴として回答せず、20人(18.7%)が性感染症の既往なしと回答した。HBc抗体については105人の陽性者のうち62人(59%)がB型肝炎を既往歴として回答せず、23人(21.9%)が性感染症の既往なしと回答していた。検査歴があっても梅毒・B型肝炎共に実際の抗体陽性率より低かった(梅毒 13.6% vs. 18.9%, B型肝炎 7.2% vs.17.7%: それぞれ自己申告率 vs. 抗体陽性率)。
伝播クラスタ
2013年~16年の新規患者でPol領域
(HXB2:2253-3260)の配列が得られたものは
、363名であった。そのうち、サブタイプBに感染した者は327名であった。これらの感染者由来のHIV塩基配列と採血日・年齢・性別・想定感染経路をSPHNCSに順次投入し、TCの同定と入力データの登録を行ったところ、258/327検体は、いずれかのTCに所属していた。そのうち36検体は新規同定のTCに、222検体は既知のTCに所属していた。50名の患者は、MSMを主な感染経路とするTC003に所属していた。TC003の201本の塩基配列と、近縁の57本の外国由来リファレンスについて時間系統樹解析を行った結果、数年の間に20名以上の東海地方の初診患者に伝播を広げた微小クラスタの存在が判明した。そこに所属する感染者は、殆どが30歳未満の男性であり、MSMが多かった。
考察
伝播クラスタ解析から若年MSMのネットワークにHIV-1が急速に広がっていることが示唆され、実際に名古屋市検査会のアンケート結果より若年層は検査経験が少ないことが判明した。また検査を受けていても性感染症の既往認識が低いことも示唆された。以上の結果より、今までの検査ターゲット層に加えて、今回明らかとなった若年MSMをどのように検査に呼び込み、なにを従来の啓発内容に加えて啓発するか具体的に提案することが望まれる。
受検者層および検査経験の有無
648人の受検者のうち東海地域に居住するゲイバイセクシャル男性499人に限定し基本属性を集計し、生涯の検査経験の有無別に性行動や属性についての解析を行った。一番最近に受けたHIV検査は過去1年以内と回答したものが49%であった。障害の検査経験別にみると検査経験の有無と年齢、学歴、身分、過去6か月のハッテン場利用、過去6か月の男性との性交渉経験、友達やセックスフレンド、その場限りの相手との性交渉時のコンドーム使用に関連が認められた。年齢が若い方が高いものと比べて、また中学高校卒業の者の方がその他の学歴より、公務員・会社員の方が障害の検査経験を有する割合が低かった。
既往認識と検査結果の乖離
検査結果およびアンケート結果共にあり、HIV陽性者(10人)を除く637人を解析対象とした。梅毒の既感染を表すTP抗体の陽性者は107人(16.8%)でB型肝炎の既感染を表すHBc抗体の陽性者は105人(16.5%)であった。TP抗体陽性者107人のうち37人(34.6%)が梅毒を既往歴として回答せず、20人(18.7%)が性感染症の既往なしと回答した。HBc抗体については105人の陽性者のうち62人(59%)がB型肝炎を既往歴として回答せず、23人(21.9%)が性感染症の既往なしと回答していた。検査歴があっても梅毒・B型肝炎共に実際の抗体陽性率より低かった(梅毒 13.6% vs. 18.9%, B型肝炎 7.2% vs.17.7%: それぞれ自己申告率 vs. 抗体陽性率)。
伝播クラスタ
2013年~16年の新規患者でPol領域
(HXB2:2253-3260)の配列が得られたものは
、363名であった。そのうち、サブタイプBに感染した者は327名であった。これらの感染者由来のHIV塩基配列と採血日・年齢・性別・想定感染経路をSPHNCSに順次投入し、TCの同定と入力データの登録を行ったところ、258/327検体は、いずれかのTCに所属していた。そのうち36検体は新規同定のTCに、222検体は既知のTCに所属していた。50名の患者は、MSMを主な感染経路とするTC003に所属していた。TC003の201本の塩基配列と、近縁の57本の外国由来リファレンスについて時間系統樹解析を行った結果、数年の間に20名以上の東海地方の初診患者に伝播を広げた微小クラスタの存在が判明した。そこに所属する感染者は、殆どが30歳未満の男性であり、MSMが多かった。
考察
伝播クラスタ解析から若年MSMのネットワークにHIV-1が急速に広がっていることが示唆され、実際に名古屋市検査会のアンケート結果より若年層は検査経験が少ないことが判明した。また検査を受けていても性感染症の既往認識が低いことも示唆された。以上の結果より、今までの検査ターゲット層に加えて、今回明らかとなった若年MSMをどのように検査に呼び込み、なにを従来の啓発内容に加えて啓発するか具体的に提案することが望まれる。
結論
本研究より若年MSMを対象に検査経験および性感染症の認識を上げるような啓発活動を行う必要性があることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2019-05-22
更新日
-