文献情報
文献番号
201819005A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症を合併した血友病患者に対する全国的な医療提供体制に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
野田 龍也(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、HIV感染症を合併した血友病患者が受けている治療の標準的な姿を明らかにするとともに、血液凝固異常症全国調査事業など、通常の調査・支援の網からこぼれ落ちている可能性のある患者に、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)による悉皆調査の光を当て、適切な社会・医療介入へつなげることである。
研究方法
今年度は、厚生労働省より提供されたNDBデータのデータベース化を実施し、1年目に検討した「NDBによる患者定義」に基づき、HIV単独感染者及び血液凝固異常症単独罹患の患者、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者総数や、地域分布や年齢分布を集計した。患者調査等の既存の統計との比較及び研究協力者の知見に基づき、「NDBによる患者定義」及び集計結果の妥当性を検証した。さらに、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者受療内容を集計し、HIV単独感染者及び血液凝固異常症単独罹患と群間の比較を行うことで、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者の現状(患者の年齢分布・地域分布や、治療・併存する疾患、投与薬剤の変遷、悪性腫瘍や肝炎の有病率の差、直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)の処方状況など)を把握した。
結果と考察
血液凝固異常症患者数は、既存全国調査の8053名に対し、NDBは6310名と1700名ほど少なかった。生活保護や治験参加者が含まれないというNDBの一般的な過小推計要因に加え、血液製剤を使用していない比較的軽症の患者が含まれないことが理由と考えられる。また、HIV/AIDS患者数は、当時の横幕班報告書よりも2000名ほど多く推計されている。これは、NDBでは診療所や拠点病院以外の病院が対象となっているためと考えられた。
HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者は、既存調査より100~200名ほど少なく推計されたが、生活保護や治験参加者が含まれないというNDBの一般的な過小推計要因に加え、血液製剤を使用していない比較的軽症の患者が含まれないことが理由と考えられる。
特定のHIV薬の被処方率は、血液凝固異常症患者全体では4.0%であるのに対し、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者では8.9%と高値であった。また、HIV薬と他のHIV薬の処方組み合わせでは、レトロビルとクリキシバンの処方が継続されている例や、バックボーンが重複したビリアードとトリーメクが同一患者に処方されている例が確認された。これらは、標準的な医療の均てん化の観点から検討が必要な状態と考える。
DAAsの処方においては、ソバルディ、ハーボニーともに、血液凝固異常症患者全体と薬害エイズ当事者と思われる患者とで被処方率に大きな差はなく、C型肝炎については両者で受療状況の差は小さいことが示唆された。
従来、全国患者数の調査は、標本抽出された客体へ調査票を送付することにより行われてきた。本研究は、調査票を用いることなく、非特異的に集積されたリアルワールドデータを集計することにより全国患者数を推計しようとする試みである。NDBが従来の調査法と決定的に異なる点は、「日本のほぼ悉皆調査」であることである。NDBには、生活保護の医療扶助を受けている患者、臨床治験中で保険診療を利用していない患者、何らかの理由で保険診療を利用していない少数の患者を除く、わが国のすべての受診者情報が格納されている。また、NDBは、患者報告アウトカム(PRO)ではなく医師の報告に基づくデータであり、診療報酬由来であるため未報告率が著しく低いという利点を有する。
一方、NDBは「この検査を行った。」「この薬剤を処方した。」というプロセス指標は豊富に含まれるが、検査結果や予後といったアウトカム指標の情報に乏しい。疾患定義はアウトカム指標の組み合わせによるため、NDBによりある疾患の患者を集計することは、「プロセス指標を用いてアウトカム指標を再構築する」ことを意味する。HIV/AIDS以外の患者に抗HIV薬を継続的に投与する意義はないため、「抗HIV薬を投与されているということはHIV/AIDSの患者と言えるのではないか。」といった蓋然性で患者を定義づけることとなる。本研究の患者定義は、臨床専門家の意見を集約し、組み立てたものである。
HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者は、既存調査より100~200名ほど少なく推計されたが、生活保護や治験参加者が含まれないというNDBの一般的な過小推計要因に加え、血液製剤を使用していない比較的軽症の患者が含まれないことが理由と考えられる。
特定のHIV薬の被処方率は、血液凝固異常症患者全体では4.0%であるのに対し、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者では8.9%と高値であった。また、HIV薬と他のHIV薬の処方組み合わせでは、レトロビルとクリキシバンの処方が継続されている例や、バックボーンが重複したビリアードとトリーメクが同一患者に処方されている例が確認された。これらは、標準的な医療の均てん化の観点から検討が必要な状態と考える。
DAAsの処方においては、ソバルディ、ハーボニーともに、血液凝固異常症患者全体と薬害エイズ当事者と思われる患者とで被処方率に大きな差はなく、C型肝炎については両者で受療状況の差は小さいことが示唆された。
従来、全国患者数の調査は、標本抽出された客体へ調査票を送付することにより行われてきた。本研究は、調査票を用いることなく、非特異的に集積されたリアルワールドデータを集計することにより全国患者数を推計しようとする試みである。NDBが従来の調査法と決定的に異なる点は、「日本のほぼ悉皆調査」であることである。NDBには、生活保護の医療扶助を受けている患者、臨床治験中で保険診療を利用していない患者、何らかの理由で保険診療を利用していない少数の患者を除く、わが国のすべての受診者情報が格納されている。また、NDBは、患者報告アウトカム(PRO)ではなく医師の報告に基づくデータであり、診療報酬由来であるため未報告率が著しく低いという利点を有する。
一方、NDBは「この検査を行った。」「この薬剤を処方した。」というプロセス指標は豊富に含まれるが、検査結果や予後といったアウトカム指標の情報に乏しい。疾患定義はアウトカム指標の組み合わせによるため、NDBによりある疾患の患者を集計することは、「プロセス指標を用いてアウトカム指標を再構築する」ことを意味する。HIV/AIDS以外の患者に抗HIV薬を継続的に投与する意義はないため、「抗HIV薬を投与されているということはHIV/AIDSの患者と言えるのではないか。」といった蓋然性で患者を定義づけることとなる。本研究の患者定義は、臨床専門家の意見を集約し、組み立てたものである。
結論
レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、HIV感染症を合併した血液凝固異常症患者及び彼らの受療状況について、全国悉皆的な把握を試みた。専門的な観点からも、他の患者調査との比較からも、一定のリアリティを有する数値を得ることができた。今後、集計要件の精緻化や患者定義の較正により、受療状況の正確な把握に努めたい。
公開日・更新日
公開日
2019-05-27
更新日
-