百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資する疫学手法の確立のための研究

文献情報

文献番号
201818014A
報告書区分
総括
研究課題名
百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資する疫学手法の確立のための研究
課題番号
H29-新興行政-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 元(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 大塚 菜緒(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
2,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染症対策を計画、実施、評価するにあたり、サーベイランスのデータは根幹をなす。従ってサーベイランスの質は感染症対策の効果に直結する。そして質の高い(より正確な)サーベイランスの実施には正確な患者情報の把握と検査診断法が不可欠である。本研究は、代表的な呼吸器感染症である百日咳とインフルエンザを題材に、患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策推進に資する疫学手法の確立を目的としている。
百日咳は全数把握疾患へと変更になった。この変更は2016年に百日咳核酸検出/LAMP法や新規血清診断法として,IgAとIgM抗体を指標とする百日咳抗体測定キット(ノバグノスト百日咳/IgA,ノバグノスト百日咳/IgM)が健康保険適用となったことが大きい。しかし、本キットの性能および抗体価の分布は明らかにされていない。検査キットの精度を評価しながら、質の高いサーベイランスの実施を目的としている。
インフルエンザはすでに定点報告と病原体サーベイランスが実施されているが、本研究班においては海外における病原体サーベイランスを中心としたインフルエンザサーベイランスの考え方を参考にしつつ、国内のインフルエンザの患者情報・病原体情報を一体視したサーベイランスシステムの評価を行い、さらに、サーベイランスを通したインフルエンザの疾病負荷やワクチンの有用性を中心に疫学的な知見の提出を行うことを目的としている。
研究方法
感染研・血清銀行より国内健常人血清460検体を入手し、抗体価の測定を行った。また、抗体価の年齢群別解析を加え、現行診断基準値を用いた解釈の評価を行った。
百日咳の全数サーベイランスは今年度初めて実施された。昨年度の調査結果を踏まえ、届出ガイドラインを作成し、一定の基準の下で国内百日咳の疫学をまとめた。またDPTの追加接種の適切な時期における効果や安全性について就学前のDPT追加接種の必要性があると考え、DPTワクチンを4回接種歴のある約100名の就学前の児童に対し、DPT追加接種を行い抗体価の上昇、並びに接種後の副反応の発生状況について調査を開始した。
今年度はインフルエンザサーベイランスの強化を基盤としてワクチンの有効性を安定的に分析するために、流行状態をどのように定義するかの知見を提出するためウイルスの曝露が比較的一定と考えられる離島において、地域における公開されている疫学・病原体等の情報を収集すると共に、インフルエンザ迅速検査に関する情報収集を継続している(実施中)。
結果と考察
抗百日咳菌IgAは加齢とともに抗体価が上昇し,抗IgMは抗体価が減少する傾向があることを示した。年齢群別では,抗IgAは46-50歳,抗IgMは11-15歳で平均抗体価が最も高く,それぞれ17.6%及び39.5%が百日咳陽性もしくは判定保留とされることが判明した。
百日咳全数サーベイランスの結果より、①6か月未満、②5~15歳を中心とした学童、③30代後半から40代にかけての成人の3つのグループにピークがあることが判明した。特に①については多くがワクチン未接種な6か月未満児が多く、その感染源として一番多いのが兄弟であること、②については80%近くが定期接種で求められているDPTワクチンの4回接種を接種していたことが判明した。
インフルエンザについては、接種回数を考慮しないワクチン効果は、OR 0.64(95%CI: 0.49-0.84)、VEは35.7%、生後6カ月から5歳の年齢群においては、OR 0.46(95%CI: 0.28-0.75)、VEは54.1%と暫定的に算出された。上記の結果はいずれも暫定である。
結論
百日咳サーベイランスの精度向上を目指すにあたり、現行診断基準値を用いての抗百日咳菌IgA及びIgMを指標とした診断には注意を促す必要がある。現状の全数サーベイランスの結果からは、就学前の児童に対するDPTワクチン追加接種が百日咳の重症例予防に必須であり、その効果と安全性について検討する必要性があることが判明した。
インフルエンザに関しては、本研究の目標である、ワクチン有効性を検出するに必要な流行レベルの分析には至っておらず、情報収集の補完とさらなる分析が重要である。インフルエンザワクチンの有効性を安定的に分析するための、地域における必要な流行状態の定義に関する知見が得られることが期待され、迅速で安定的なインフルエンザワクチンの有効性が例年報告されることとなる。


公開日・更新日

公開日
2023-02-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-02-10
更新日
2023-08-07

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201818014Z