小児における感染症対策に係る地域ネットワークの標準モデルを検証し全国に普及するための研究

文献情報

文献番号
201818009A
報告書区分
総括
研究課題名
小児における感染症対策に係る地域ネットワークの標準モデルを検証し全国に普及するための研究
課題番号
H29-新興行政-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
宮入 烈(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 生体防御系内科部 感染症科 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 堀越 裕歩(東京都立小児総合医療センター・感染症科)
  • 笠井 正志(兵庫県立こども病院・感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,293,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、小児における薬剤耐性菌対策のために、地域において感染対策と抗菌薬適正使用を推進するためのモデルを構築する事である。主として外来における経口抗菌薬の適正使用を推進するための方策を検討する。
研究方法
(1)小児の抗菌薬の処方データをレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の調剤レセプトから年齢等の属性データを抽出し人口補正を行った。抗菌薬は、WHOの定めた医薬品分類であるATC分類のJ01に該当する項目から内服抗菌薬を抽出し、17種類に分類した。抗菌薬の使用密度は抗菌薬処方日数(Days of therapy:DOT)を用いて算出した。統計学的解析には評価項目における標準的な傾向検定を行った。
(2)医療機関毎に抗菌薬の使用量を調査しフィードバックして適正使用の材料にしてもらう 「monitoring and feed back」の手法を導入した。府中地域で医師会、薬剤師会、保健所の協力を得てチームを形成した。調剤薬局からデータ抽出を行い、研究員がデータの統合と解析を行い、協力医療機関に3か月ごとにフィードバックを開始した。
(3)兵庫地域への教育啓発活動を開始し、神戸こども初期急病センター、姫路市休日夜間急病センターでの処方動向把握、介入にむけてのチームを結成し、抗菌薬処方内容調査を行なった。更に、処方行動変容を目的にニュースレター形式でのフィードバック、施設の実情に即したマニュアルを用いた。
結果と考察
(1)本邦の小児抗菌薬処方実態:我々は2013-2016年におけるレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて小児の抗菌薬使用量調査を行い、使用された抗菌薬の種類、処方された年代、疾患名、処方医の標榜科を検討した。使用量は第3世代セフェム、マクロライド、ペニシリン系抗菌薬、キノロン系抗菌薬の順に多く、年齢別では、就学前の1-5歳未満、特に1歳台に多くかった。また、疾患名では、小児の内服抗菌薬使用の80%を気道感染症が占めていた。今回の調査では気道感染症に対する抗菌薬処方率は約30%であった。標榜科別では、耳鼻科での抗菌薬処方は、小児科と比較して同等かそれ以上であった。上記検討によりターゲットとすべき、年代、抗菌薬の種類、疾患名、標榜科が明らかとなった。
(2)府中市医師会の21のクリニック、20の調剤薬局が参加した。2017年1月から2018年12月までの期間で、医療機関の患者データおよび薬局からのデータが収集できたクリニックは9クリニック/薬局であった。2017年と2018年の比較では小児科、内科とも減少していたが、統計学的な有意差はなかった(p=0.10 [小児科], p=0.10 [内科])。小児科では、ペニシリン・アモキシシリンの占める割合が高く、内科では、3世代セフェム、マクロライドが多く、ペニシリン系が少なかった。2017年と2018年の比較では、小児科では、3世代セフェムが減少し、第1世代セフェムが増加するなど適正化が進んだ。
(3)小児における抗菌薬適正使用を地域で推進するためのモデル作りー神戸こども急病センターにおいては介入前の採用薬は5種類で、処方率は全体で9%だった。処方された抗菌薬の50%が第3世代セフェム系薬であった。経口第3世代セフェム系薬の処方の中で不必要処方は65%であった。介入後の経口第3世代セフェム系薬の処方の中で不必要処方は50%まで低下し受診患者あたりの抗菌薬処方率は4.9%まで低下した。姫路市休日・夜間急病センターにおいては、介入前の採用抗菌薬は同一系統のものを含め合計13種類存在し、15歳以下の患者の13%に経口抗菌薬が処方されていた。抗菌薬処方率は年度毎に低下傾向を認め、2017年度は受診者の10%に経口抗菌薬が処方されていた。年度・患者年齢によらず第3世代セフェム系薬の処方が多く、急性気道感染症の17%に抗菌薬処方があった。介入後は全体の抗菌薬処方率は介入準備期以降は8%まで低下した。特に小児科医師の抗菌薬処方率は介入前10%から介入後4%まで低下した。抗菌薬種別ではペニシリン系薬のDOTsが上昇し、第3世代セフェム系薬が減少した。病名別では急性気道感染症・急性中耳炎・溶連菌感染症ともに経口第3世代セフェム系薬のDOTsは減少した。
結論
小児における抗菌薬適正使用の主要なターゲットは、気道感染症であり、その推進のためには現場の医師と薬剤師を中心としたモニタリングとフィードバックが有用と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201818009Z