エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究

文献情報

文献番号
201818007A
報告書区分
総括
研究課題名
エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究
課題番号
H28-新興行政-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 八代 将登(岡山大学病院 小児科)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 前木 孝洋(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学 医学部)
  • 吉良 龍太郎 (福岡市立こども病院 小児神経科)
  • 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
  • 安元 佐和(福岡大学 医学部)
  • 鳥巣 浩幸(福岡歯科大学 総合医学講座)
  • 森 墾(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
9,176,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性脳炎・脳症のdisease burdenを明らかにし、原因検索を行う。2015年発症の急性弛緩性脊髄炎AFMの病態解析と2018年発症の急性弛緩性麻痺AFPについて検討する。
研究方法
感染症発生動向調査に基づいて2009~2018年に届出された急性脳炎・脳症、2018年5月以降に届出されたAFPについて解析する。Real-time PCR法による網羅的検査により急性脳炎・脳症の原因病原体を検索する。日本脳炎JE、ダニ媒介脳炎TBEに対する抗体価を測定する。tissue based assay(TBA)による神経細胞表面抗体を検索する。2015年発症AFMのMRI画像、神経生理学的検査により病態解析を行い、麻痺の長期予後調査を実施する。2018年発症AFP症例の緊急全国調査を実施する。免疫グロブリン製剤中の抗エンテロウイルスD68(EVD68)中和抗体価を測定する。
結果と考察
2009年の急性脳炎・脳症報告数は前後年と比較すると多く、2010年以降増加し、最近は年間約700例である。インフルエンザ脳症の報告と同期し冬期に増加した。小児に多く、届出時致命率は成人が高かった。原因病原体は不明を除くと、インフルエンザが最多で、HHV-6,7、HSV、ロタ、エンテロウイルスが続いた。インフルエンザ脳症とロタウイルス脳症の届出時致命率は同程度であった。年齢群により原因病原体が異なった。0-4歳の水痘帯状疱疹ウイルス脳炎は水痘ワクチン定期接種化後に激減した。病原体不明脳炎の約30%から病原体(エンテロ、ライノ、パラインフルエンザ、パレコ、HHV-6、アデノ、メタニューモウイルス)を検出した。JE、TBEは否定的であった。原因病原体同定には、適した時期の臨床検体採取とコメディカルとの連携が重要であった。成人脳炎の12%が神経細胞表面抗体陽性であった。2015年のEVD68流行期に発症した小児AFMは、年齢中央値4歳、男女比は32:22であった。AFM小児例の脊髄病変は長い縦走病変が特徴で、灰白質を中心に白質にも病変を認める例が多かった。両者に病変を認めた症例の四肢筋力低下はより重症であった。脊髄病変の範囲と麻痺の部位には乖離を認め、全脊髄に病変を認めても単麻痺を示す例も稀でなかった。髄内病変は、急性期には両側広範な病変を呈し、徐々に前角に限局した。亜急性期での四肢麻痺の分布は画像所見の分布と一致した。馬尾のガドリニウム造影効果は頻度が高いが、発症後やや遅れて出現する傾向を認めた。Gd造影で馬尾に異常増強効果を認める症例が多かった。脊髄病変と連続する脳幹病変を認めた症例もあった。麻痺出現後3日以降にGd造影を施行すると増強効果が高率に認められた。2015年発症AFPの長期予後調査を行った。末梢神経電気生理検査は脊髄前角病変を反映し、M波異常は回復期の前角への画像病変の局在化、馬尾前根の造影効果と統計学的に有意に関連した。2015年発症AFMは、広範な脊髄病変を認めるが、横断性の脊髄症状に乏しく、四肢の弛緩性麻痺が主症状で、下位運動ニューロン障害が主病態と考えられた。2018年に海外から提案されたAFMの診断基準項目は妥当であった。急性期に進行する軸索型末梢神経障害を呈し、脊髄前角細胞障害の程度が予後を左右すると考え、脊髄前角細胞保護がAFM治療のターゲットと考えられた。麻痺発症72時間以内の早期治療が神経画像へ与える影響は、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法、両者併用は有意に急性期の馬尾前根造影効果の出現と相関し、relative riskはそれぞれ0.428、0.505、0.500であった。ステロイド使用について議論はあるが、馬尾前根の造影減弱が見られ、治療効果の可能性が示唆された。異なる遺伝子型のEV-D68を用いて免疫グロブリン製剤中の中和抗体価を測定し、高力価のEVD68中和抗体を含むことが明らかとなった。2018年5月からAFP全数把握が始まり、10~11月に多発し12月までに139例が報告された。現在、全国調査実施中である。
結論
急性脳炎・脳症・AFPの病原体検索には、検体採取・保管・搬送・関係者との連携が重要である。病原体検索により約30%で原因と推察される病原体遺伝子が見つかった。JEとTBEの紛れ込みは否定的であった。TBAによる神経細胞表面抗体の検索は有用であった。2015年発症AFM症例のMRI画像、神経生理学的検査により、下位運動ニューロン障害が主病態と考えられた。国内免疫グロブリン製剤には高力価のEVD68中和抗体が含まれていた。急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引きを作成し公表した。2018年10-11月にAFP症例の多発を探知し、全国調査を実施した。

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201818007B
報告書区分
総合
研究課題名
エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究
課題番号
H28-新興行政-一般-007
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 森島 恒雄(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 八代 将登(岡山大学病院 小児科)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 田島 茂(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 前木 孝洋(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学 医学部)
  • 吉良 龍太郎(福岡市立こども病院 小児神経科)
  • 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
  • 安元 佐和(福岡大学 医学部)
  • 鳥巣 浩幸(福岡歯科大学 総合医学講座)
  • 森 墾(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性脳炎(脳症)のdisease burdenを明らかにし、原因検索を行う。急性弛緩性脊髄炎(AFM)の病態解析とエンテロウイルス(EV)との関連、2018年発症の急性弛緩性麻痺(AFP)について検討する。
研究方法
感染症発生動向調査に基づいて届出された急性脳炎・脳症、AFPについて解析する。Real-time PCR法による網羅的検査により急性脳炎・脳症の原因病原体を検索する。日本脳炎(JE)、ダニ媒介脳炎(TBE)に対する抗体価を測定する。tissue based assay(TBA)による神経細胞表面抗体を検索する。AFP症例のMRI画像、神経生理学的検査により病態解析を行い、麻痺の長期予後調査を実施する。EVD68とAFMとの関連について検討し、免疫グロブリン製剤中の抗エンテロウイルスD68(EVD68)中和抗体価を測定する。
結果と考察
①急性脳炎・脳症:近年の急性脳炎(脳症)の報告数は年間約700例で、原因病原体不明が約半数、インフルエンザウイルスが約30%と最多で、年齢群により原因病原体が異なった。届出時点の致命率はインフルエンザ脳症とロタウイルス脳症は同程度で、インフルエンザ脳症は小児に多いが、届出時点の致命率は成人が高かった。水痘ワクチン定期接種化後、0-4歳群でVZVの報告はなくなり、7割以上が60歳以上となった。HSV脳炎の診療ガイドライン、tissue based assay(TBA)による神経細胞表面抗体を検索する方法を開発した。小児の感染症関連神経疾患を詳細に全数把握できるしくみを構築した。病原体不明急性脳炎(脳症)の約30%から原因と考えられる病原体を検出・同定した。JE及びTBEは否定的であった。発症早期の5点セット(血液、髄液、呼吸器由来検体、便、尿)を、凍結融解せず小分けで-70℃以下に凍結保管しておくことが重要で、検体採取・保管には担当医に加えて、コメディカルとの連携が不可欠であった。②AFP/AFM:2015年秋のEVD68流行期に多発したAFP症例について国際誌に発表するとともに「急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き」を作成した。年齢中央値は4歳、男女比は1.5:1、気道感染症先行後に左右非対称の四肢の運動麻痺が出現し、髄液細胞増多を伴った。広範な脊髄病変を認めるが、横断性の脊髄症状に乏しく、四肢の弛緩性麻痺が主症状で、下位運動ニューロン障害が主病態と考えられた。誘発筋電図でのM波異常は、回復期の脊髄前角への画像病変の局在化、馬尾前根の造影効果と統計学的に有意に関連していた。初回検査のM波の振幅と回復期の徒手筋力検査(MMT)には有意な関連を認めた。脊髄炎に加えて進行性の軸索型末梢運動神経障害を合併すると考えられ、脊髄前角細胞保護がAFM治療のターゲットとなると考えられた。2015年に分離されたEV-D68株は、遺伝子型Clade Bに属し、乳のみマウスに特徴的な弛緩性麻痺を誘導し、抗EVD68抗血清により中和された。日本で使用されている免疫グロブリン製剤9種類には、高力価 (1:1024以上)のEVD68中和抗体が含まれていた。脊髄の長い縦走病変が特徴であり、麻痺の分布との間には乖離を認めた。灰白質、白質両者に病変を認めた症例では、四肢の筋力低下はより重症であった。急性期の髄内病変は、両側かつ広範で、T2強調像において境界不明瞭に広がる高信号域を認めた。徐々に前角に限局する病変へ収束し、四肢麻痺の分布は画像所見の分布と一致した。ガドリニウム造影で約80%に馬尾に異常増強効果を認め、発症2日以内では不明瞭で,その後顕在化した。連続する脳幹病変を認めた症例もあった。麻痺発症早期の髄内病変は両側性・広範であったが、発症7日以降では両側性・前角限局または片側性・前角限局であった。馬尾のガドリニウム造影効果の頻度が高いが、発症後やや遅れて出現した。2018年5月から感染症法に基づいてAFPの全数届出制度が始まった。2018年5-12月に139例が報告され、年齢中央値3歳、男女比1.1:1、下気道感染の入院数とAFM症例数との間には明らかな相関を認めなかったが、ICU管理数とAFM症例数との間には有意な相関を認めた年齢群があった。2018年発症AFP症例の全国調査と、2015年発症AFP症例の長期予後調査を行った。
結論
急性脳炎・脳症の国内疫学情報が明らかになりつつある。原因病原体の検索には急性期の検体の採取・保管が重要である。AFPの全数届出制度が始まった。AFMの病態を明らかにするとともにEVD68との関連を検討し、麻痺の予後改善に繋がる治療法・予防法の開発が必要である。

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201818007C

収支報告書

文献番号
201818007Z