医薬品適正使用のための情報提供のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800689A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品適正使用のための情報提供のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 幹夫(千葉大学薬学部名誉教授)
研究分担者(所属機関)
  • 望月眞弓(千葉大学大学院薬学研究科助教授)
  • 折井孝男(東京大学医学部付属病院症例計画推進室)
  • 駒田富佐夫(城西大学薬学部助教授)
  • 林昌洋(虎ノ門病院薬剤部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の変化は医療の進歩に大きく貢献してきた。しかし一方では、近年のより明確で先鋭的な薬理作用をもつ医薬品の増加により、医薬品の適正な使い方が総体的に難しくなり、安全対策などの課題は複雑化し解決がより困難になってきている。これらの諸困難を克服し、医療の場で安全で有効な医薬品の使用を確保していくためには、厚生省、製薬企業から医療関係者さらには患者に至るまでの医薬品情報の在り方が適切でなければならない。膨大な時間と労力をかけて創出された医薬品情報ではあるが、それらが真に情報提供の対象者にとって必要なものとなっているか、また理解される内容あるいは形態になっているか、適切な時期に提供されているかについてはいまだに未解決な部分が多い。
そこで、本研究においては医薬品の適正使用を確保するために必要な医薬品情報の内容および提供方法の在り方について研究した。
研究方法
①医薬品情報の伝達及び提供のインターネット化(医薬品情報提供システム)に関する研究:大学、病院、製薬企業、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、卸販売業からの有識者によって構成される研究班を設置し検討した。医療従事者を対象に提供すべき医薬品情報および提供形態に関する平成9年度の研究結果をもとに、班会議において医薬品情報の内容項目、およびデータベースの電子化書式、情報利用者への注意事項、各情報の責任者、情報管理者等に関して追加検討した。さらに、提案された電子化書式に基づいて作成したデータベースを用いてインターネット上で試験的に運用し、その実行可能性についても検討した。②病院内におけるにおける医薬品情報収集・伝達・提供に関する研究:厚生省医薬品適正使用推進モデル事業(平成7年度?9年度)に参加した医療機関9施設に対して、モデル事業完了後の院内医薬品情報提供体制の変化についてアンケート調査を実施した。この結果を踏まえて平成7年度?9年度の9施設からの報告について解析した。③患者に対する医薬品情報提供のあり方に関する研究:本研究は、調剤および薬剤情報提供時に必要な患者情報の種類と入手方法に関する研究と患者向け医療用語に関する研究の2つの課題に分けて実施した。③-1. 調剤および薬剤情報提供時に必要な患者情報の種類と入手方法に関する研究:病院薬剤師および保険薬局薬剤師に対するアンケート調査により検討した。③-2. 患者向け医療用語に関する研究:副作用用語の患者向け翻訳データについて日本薬剤師研修センターと連絡をとり検討した。さらに、重大な副作用の初期症状と、その他の副作用との用語の重複に関して、非ステロイド性解熱鎮痛消炎薬を対象に検討した。
結果と考察
①医薬品情報の伝達及び提供のインターネット化に関する研究(医薬品情報提供システム)に関する研究:対医療機関向けのコンピュータネットワークを利用した医薬品情報提供(医薬品情報提供システム)において提供する情報は、当面、「医療用医薬品添付文書情報」、「厚生省から出された安全性情報(医薬品等安全性情報、使用上の注意の改訂情報等)」、「製薬企業から出された安全性情報(緊急安全性情報)」、「副作用が疑われる症例報告に関する情報」とした。各情報の作成は、「添付文書情報」および「製薬企業から出された安全性情報」は製薬企業が、「厚生省から出された安全性情報」および「副作用が疑われる症例報告」に関する情報は厚生省がそれぞれ担当し、ホームページ管理は医薬品機構が行うこととした。また、これらの情報は医療従事者向けに作成されているが、その内容は医療従事者のみならず一般人も閲覧可能であるため、利用者に対する注意事項の内容にはそれを考慮した記述が必要であるとされた。
なお、添付文書情報の電子化書式は平成9年度の研究で提案されたSGML/DTD ver1.3からver1.9へと改訂したが、平成11年3月に行った試験的運用の結果から部分的な改訂が必要と判断されたため、さらにversion2.0に改訂し医薬品情報提供システムの実施に移行することとした。
②病院内におけるにおける医薬品情報収集・伝達・提供に関する研究:厚生省医薬品適正使用推進モデル事業(平成7年度?9年度)に参加した医療機関9施設に対して、モデル事業完了後の院内医薬品情報提供体制の変化に関するアンケート調査を実施した。その結果、薬剤管理指導業務(医療従事者に対する医薬品情報提供および入院患者に対する薬剤情報提供等)の保険請求件数と医薬品情報室へのコンピュータの設置または医薬品情報データベースの利用との間に関連性があることが認められた。薬剤管理指導業務の充実には医薬品情報業務へのコンピュータの導入などによる効率化と情報データベースの構築などによる医薬品情報の充実が必要であると考えられた。
③-1.調剤および薬剤情報提供時に必要な患者情報の種類と入手方法に関する研究:薬局等において薬剤師が薬剤情報提供を行う際に必要とされる患者情報とその入手状況についてのアンケートに関して予備調査を実施した。対象とした30施設(病院23、保険調剤薬局7)のうち28施設(93%)で薬剤情報提供が実施されていた。80%以上が提供しているとした情報は、商品名、薬効、用法用量であった。提供方法は印刷物+口頭が50%であり、残りは印刷物と口頭が半々であった。情報提供に際して必要と考えている患者情報は、年令、投薬歴、副作用歴、アレルギー歴、疾患名、併用薬などで、いずれの項目も70%以上の施設が必要と回答していた。これらの患者情報は主として患者からのインタビューによって取得されていた。薬剤情報提供で問題を生じた例では、抗癌薬、適応外使用、患者の理解度などに起因しているものが多かった。これらについては、日本における病名告知の問題などの影響もあると考え、次年度では米国薬剤師に対するアンケートも合せて実施することとした。
③-2. 患者向け医療用語に関する研究:副作用用語の患者向け翻訳データに関して日本薬剤師研修センターと連絡をとった結果、「医師・歯科医師・薬剤師のための服薬指導情報集」において記載されている副作用用語の患者向け解説については現在データベース化を検討中であり、その結果を待ってから検討を加える方が適切であるという結論に達した。一方、重大な副作用の初期症状とその他の副作用の症状との重複について、非ステロイド性解熱鎮痛消炎薬14薬剤を例に検討した結果、悪心・嘔吐、食欲不振、胃腸障害、浮腫、倦怠感、発疹、痒みなどに重複が多い傾向にあった。これらの症状は重大な副作用として患者に伝えても実際には重大な副作用の初期症状ではないこともあり、患者に不安を与えたり、自己モニタリング時に誤解を生じさせる可能性も否定できないことが示唆された。
結論
医薬品情報提供システムは、情報の発信者である製薬企業および厚生省によって作成された電子化情報を医薬品機構のホームページを通じて提供する形で運用可能であると考えられた。医療従事者向けに作成された情報を一般人が閲覧する際には専門用語の翻訳が必要となるが、このためには市販データベースが活用できる可能性がある。ただし、副作用用語については患者が自覚可能な症状に関して各種副作用間で重複があり、配慮が必要と考えられた。院内の医薬品情報提供体制に関して薬剤管理指導業務を例にとって解析すると、本業務の充実には医薬品情報室でのコンピュータの活用が効果がある可能性があり、医薬品情報提供システム等の運用は薬剤管理指導業務に対して良い影響をもたらすであろうと推定された。患者に対する薬剤情報提供時には投薬歴、副作用歴、アレルギー歴、疾患名などが必要であるが、これらの情報に関して薬剤師は、主として患者とのインタビューで得ていることが判明した。

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