重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-心理社会的治療/方策研究班

文献情報

文献番号
201817034A
報告書区分
総括
研究課題名
重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-心理社会的治療/方策研究班
課題番号
H29-精神-一般-008
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 和彦(地方独立行政法人大阪病院機構大阪府立精神医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 池淵 恵美(帝京大学 医学部精神神経科学講座)
  • 渡邊 治夫(さわ病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 平成25年~27年に行われた「精神障害者の重度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究」により、「重度かつ慢性」の基準が明らかにされたが、その基準に合致する患者に対する有効な治療・支援を明らかにすることは課題として残った。
 本研究は、その課題の中で特に重度かつ慢性の患者の退院支援・地域移行のための包括的支援アプローチに組込まれるべき心理社会的治療/方策を明らかにするべく、平成30年度には、全国の好事例病院を対象に詳細なアンケート調査を実施し、重度かつ慢性患者の包括的支援の中に組込まれるべき心理社会的治療/方策は何かを検討した。
研究方法
 今回使用したアンケートは、「重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究」を構成する5つの研究班(統括・調整班/薬物療法班/クロザピン治療班/心理社会的治療班/地域ケア班)が合同で実施した第一次アンケート調査の内容を元に作成されたものである。
 調査対象は、A:新規入院患者の1年後までの退院率が全国中央値89.3%以上、B:在院患者中の1年を超える患者の占める率が全国中央値61.4%以下、C:すでに1年を超えて在院している患者の1年後までの居宅系退院率が高い(参考値8.4%以上)、のA~Cの基準のうち、Aを満たし、かつB・Cのいずれか、又は両方を満たす医療機関を、好事例病院と定義し、回答を依頼した。
結果と考察
 好事例病院の基準に合致した全国20医療機関にアンケートを送り、全ての病院から回答を得た。
その結果、多くの好事例病院では、医師に限らず、精神保健福祉士や看護師、作業療法士など、多職種が本人の退院の意向確認や意欲喚起に関わっており、退院に向けたスタートを切る時点からチームで関与している実態が明らかになった。また、退院に向けた治療・支援を病院レベルの会議で支える仕組みを持つ病院も多かった。
 好事例病院で実施されている心理社会的治療は、決して特別なものではなく、医師による定期的な精神療法や作業療法などの基本的な治療プログラムが中心であったが、その遂行はやはり多職種によって行われていた。また、退院後の家族の負担を軽減する目的で、心理教育を実施したり、家族用のクライシスプランを策定している病院も多かった。
 さらに退院後の支援体制として大部分の病院で休日夜間の救急診療が可能であった。地域の関係機関との連携について、好事例病院ではケア会議の際などに、病院と関係機関の間をそれぞれのスタッフが行き来しながら「顔の見える関係」を構築している姿勢が垣間見えた。
結論
 重度かつ慢性患者の地域移行を実現するために、患者本人に多職種が関わっていることと、そのスタッフ達を病院全体でサポートする体制の存在が重要であると考えられた。また基本的な心理社会的治療を継続しつつ、関係機関と顔の見える関係を構築していくことの重要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201817034B
報告書区分
総合
研究課題名
重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-心理社会的治療/方策研究班
課題番号
H29-精神-一般-008
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 和彦(地方独立行政法人大阪病院機構大阪府立精神医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 池淵 恵美(帝京大学 医学部精神神経科学講座)
  • 澤 温(さわ病院)
  • 井上 新平(さわ病院)
  • 渡邊 治夫(さわ病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究班では、重度かつ慢性の患者の地域移行、地域定着を促進するための包括的支援アプローチについて、特に心理社会的治療/方策に焦点を当てた調査研究を実施した。
 最終的に、有効性が高く、かつ全国の精神科医療現場で実施可能な心理社会的治療/方策を明らかにし、薬物療法などの他の治療・支援方法と合わせて、重度かつ慢性患者への包括的支援実践ガイドを完成させることを目指した。
研究方法
 平成29年~30年度の2年間で、重度かつ慢性患者の退院支援、地域移行に有効な心理社会的治療・方策を明らかにすべく、①訪問インタビュー調査、②好事例病院を対象としたアンケート調査、③国内・海外の先行研究文献調査、の3つ調査研究を実施した。
 インタビュー実施医療機関は、平成25年~27年に行われた「精神障害者の重度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究」の際に実施されたアンケート調査で、入院1年以上の患者の年間退院率が病床数の5%以上であった病院、およびアドバイザリーグループから重度かつ慢性患者に対する優れた取り組みを行っている医療機関として推薦うけた病院から18病院を訪問した。アンケート調査は、新規入院患者の1年後までの退院率や、在院患者中の1年を超える患者の占める率などのいくつかの項目から好事例病院の条件を定義し、それに合致した病院に回答を求めた。先行研究調査は、和文論文は医学中央雑誌を利用し、「長期入院」「退院困難」「退院支援」などの検索用語を用いて検索、英文論文は”deinstitutionalization”、”severe (and persistent) mental illness ”、“treatment resistant psychosis”を検索用語として論文を抽出した。
結果と考察
 インタビュー調査、アンケート調査、そして先行研究の文献調査の3つのアプローチによる調査結果を概観したところ、①基本的な心理社会的治療の定期的な実施、②治療アドヒアランスの改善と支援者との対人関係の維持に向けた介入、③多職種チームによる多方面からの支援、④医師のリーダーシップと担当スタッフの役割の明確化、⑤家族との関係保持と家族の不安・負担の軽減、⑥緊急時の即時の対応と救急診療体制の構築、⑦病院と地域関係機関との双方向の交流と診療支援情報の共有化、の7つのポイントが重度かつ慢性患者を対象とした心理社会的治療・方策として重要であると考えられた。
結論
 重度かつ慢性患者の退院支援・地域移行は、薬物療法等の何か単一の治療のみで成し遂げられるものではなく、心理社会的治療・方策も併せて必要であることは言うまでもない。本研究班の調査で明らかになった心理社会的治療の実践ポイントは、決して特別な事柄ではなく、普段から多くの臨床現場のスタッフが常に大切だと感じている内容である。重度かつ慢性患者の退院支援・地域移行を実現させるためには、これら一見当たり前と思われる治療や支援を、病院全体で丁寧、かつ継続的に取り組めるよう、診療体制を整備していくことが重要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201817034C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 本研究は、平成25~27年に行われた「精神障害者の重度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究」により「重度かつ慢性」の基準を明らかにした際に残された課題であった、その患者に対する有効な治療・支援に関するものである。
 研究では、退院支援・地域移行に資する包括的支援アプローチに組込まれるべき心理社会的治療/方策を、わが国の実情に合わせて調査・検討したが、このよう全国的な調査は先駆的な試みであり、意義のあるものであると考えられる。
臨床的観点からの成果
 現在も重度かつ慢性に該当する重度の統合失調症患者に対する有効な治療のエビデンスは少なく、修正型電気けいれん療法(m-ECT)やクロザピンによる薬物療法程度に限られる。本研究は特に心理社会的治療に焦点をあて、ベストプラクティスを明らかにしており、他の精神科医療機関で導入しやすい治療・支援方法を見い出せるという点で大きなメリットがある。
ガイドライン等の開発
 本研究班を含む「重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究」を構成する5つの研究班(統括・調整班/薬物療法班/クロザピン治療班/心理社会的治療班/地域ケア班)の協働により「重度かつ慢性患者への包括的支援ガイドブック」を完成させた。この中で、心理社会的治療に関するミニマムエッセンスを記載した。
その他行政的観点からの成果
 本研究は全国の好事例精神科医療機関を対象に行った調査で得られたデータを元にしているが、重度かつ慢性の精神障がいをもつ人の退院支援や地域移行については、様々な地域の社会資源との双方向的な連携が重要であることが明らかになった。本研究によりまとめられた「重度かつ慢性患者への包括的支援ガイドブック」は、病院のみならず関係機関に適宜配布し、現在も精神医療に関わる若手専門職の教育に用いている。
その他のインパクト
 平成31年3月10日に、本研究班を含む「重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究」を構成する5つの研究班(統括・調整班/薬物療法班/クロザピン治療班/心理社会的治療班/地域ケア班)合同で研究成果報告会を開催した。(令和4年度はシンポジウム等の開催はなかった。)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
2024-03-18

収支報告書

文献番号
201817034Z