重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-クロザピン使用指針研究

文献情報

文献番号
201817031A
報告書区分
総括
研究課題名
重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-クロザピン使用指針研究
課題番号
H29-精神-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
木田 直也(独立行政法人 国立病院機構琉球病院 医局)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(独立行政法人 国立病院機構榊原病院 医局 )
  • 大鶴 卓(独立行政法人 国立病院機構琉球病院 医局 )
  • 宮田 量治(地方独立行政法人 山梨県立北病院 医局 )
  • 矢田 勇慈(地方独立行政法人 岡山県精神科医療センター 医局)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,307,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者が入院生活から地域生活に円滑に移行できるようにするために、治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザピン(CLZ)の地域連携体制に関する実態把握を行い、その指針を提示することを目的とする。
研究方法
 本研究は、重度慢性包括的支援に関連する4つの研究班(統括調整研究班、薬物療法研究班、心理社会的治療/方策研究班、チームによる地域体制研究班)と連携して行う。
 好事例病院については下記の4つの方法で選択した。
①厚生労働省の難治性精神疾患地域連携体制整備事業のモデル事業に選ばれた地域が6か所あり(千葉県・三重県・大阪府・兵庫県・岡山県・沖縄県)、それぞれの地域で拠点病院と協力病院が存在する。これらの病院は好事例病院である。
②CLZ症例数の多い病院(150例以上)から好事例病院を選択する。
③統括調整班で実施する一次調査の結果から好事例病院を選択する。
④厚生労働省ナショナルデータベース(NDB)でCLZ処方率の高い好事例二次医療圏に属する拠点病院から好事例病院を選択する。
 これらの好事例病院に対してヒアリング調査を行った。また、全国のCPMS(Clozaril Patient Monitoring Service)登録されている医療機関(平成30年6月時点で441施設)に対して、CLZ治療に関連したアンケート調査を行った。アンケートの内容は、CLZ治療を行った累計患者数、CLZ治療をする上での障壁などである。
結果と考察
 好事例病院では、CLZクリニカルパス、CLZ委員会、CLZ血中濃度測定体制などの院内体制も整備されているところが多かった。好事例地域では拠点病院や協力病院の役割があり、多施設での連携会議が定期的に開催され、血液内科(腫瘍内科・感染症内科)・糖尿病内科などの身体科との良好なネットワークなどの仕組みが整備されていた4,5,6,7)。また医師・看護師・ケースワーカー・臨床心理士・薬剤師などの多職種が連携したチーム治療が行われていた。好事例病院からの情報発信により、各地域でのCPMS登録の医療機関や患者数が増え、精神科病院間の良好な地域連携や精神科病院と総合病院身体科との良好な地域連携の仕組みも存在していた。
 全国のCPMS登録されている医療機関に対して行ったアンケート調査については、222施設からの有効回答が得られた。施設毎のCLZ治療の累計患者数は、0人が17施設(7.7%)であり、1人~9人のあったのは107施設(48.2%)と多く、10~19人は19%(42施設)となった。つまり施設毎の累計患者数は9人以下が半数を超え、19人以下で75%を超えた。100人以上であったのはわずかに5施設(2.3%)と少なかった。CPMS登録の施設であっても、多くの施設ではCLZ治療がそれほど行われていない現状がわかった。CLZ治療の障壁については、血液検査が頻回であること、無顆粒球症などの副作用が心配であるなどを挙げている施設が多かった。  
 国内外の調査から治療抵抗性統合失調症へのCLZの治療効果は高いことは明らかであり、厚生労働省では精神病床における入院需要および地域移行に伴う基盤整備量の目標値設定を行い、2025年までに治療抵抗性統合失調症治療薬の処方率を治療抵抗性統合失調症患者の25%~30%に普及させることを目指して検討する、としている。2019年4月時点でのCPMSの延べ登録患者数は8399人であり、治療抵抗性統合失調症患者全体の4%程度に留まっている。2019年1月時点での各都道府県別の人口10万人あたりのCPMS登録患者数を見ると、登録患者数が最も少ない埼玉県と最も多い宮崎県の比は19.6倍となり、都道府県で大きな格差があることがわかった(図2)。宮崎県、沖縄県、岡山県ではそれぞれ登録患者数が200人を超える拠点病院があり、地域でのCLZ治療を牽引していた。国際的にみても国内でのCLZ使用頻度は非常に低いことがわかっている。
 地域でのCLZ治療の均てん化を図り、CLZ治療を普及させるためには、共通の指標が必要である。好事例病院への調査と全国のCPMS登録の医療機関へのアンケート調査の結果から、経験症例数により、CPMS登録の医療機関の成熟レベルを0~4bまでの6段階に分け、それぞれのレベルで達成すべき課題を表1に挙げた。CPMS登録の医療機関は、まず症例数20例(図1より、上位25%の施設が該当)、成熟度としてはレベル3を目標とするのが適当であると考えられた。
結論
 これらの調査結果をもとにCLZ療法の実践ガイドをまとめた。この実践ガイドが全国の医療機関で活用され、CLZ治療が普及すれば、多くの長期入院患者の地域移行と社会復帰に繋がると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201817031B
報告書区分
総合
研究課題名
重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-クロザピン使用指針研究
課題番号
H29-精神-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
木田 直也(独立行政法人 国立病院機構琉球病院 医局)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(独立行政法人 国立病院機構榊原病院 医局 )
  • 大鶴 卓(独立行政法人 国立病院機構琉球病院 医局 )
  • 宮田 量治(地方独立行政法人 山梨県立北病院 医局)
  • 矢田 勇慈(地方独立行政法人 岡山県精神科医療センター 医局)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、精神障害者が入院生活から地域生活に円滑に移行できるようにするために、治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザピン(CLZ)の地域連携体制に関する実態把握を行い、その指針を提示することを目的とする。
研究方法
 本研究は、重度慢性包括的支援に関連する4つの研究班(統括調整研究班、薬物療法研究班、心理社会的治療/方策研究班、チームによる地域体制研究班)と連携して行う。
 好事例病院については下記の4つの方法で選択した。
①厚生労働省の難治性精神疾患地域連携体制整備事業のモデル事業に選ばれた地域が6か所あり(千葉県・三重県・大阪府・兵庫県・岡山県・沖縄県)、それぞれの地域で拠点病院と協力病院が存在する。これらの病院は好事例病院である。
②CLZ症例数の多い病院(150例以上)から好事例病院を選択する。
③統括調整班で実施する一次調査の結果から好事例病院を選択する。
④厚生労働省ナショナルデータベース(NDB)でCLZ処方率の高い好事例二次医療圏に属する拠点病院から好事例病院を選択する。
これらの好事例病院に対してヒアリング調査を行った。また、全国のCPMS(Clozaril Patient Monitoring Service)登録されている医療機関(平成30年6月時点で441施設)2)に対して、CLZ治療に関連したアンケート調査を行った。アンケートの内容は、CLZ治療を行った累計患者数、CLZ治療をする上での障壁などである。
結果と考察
 好事例病院では、CLZクリニカルパス、CLZ委員会、CLZ血中濃度測定体制などの院内体制も整備されているところが多かった。好事例地域では拠点病院や協力病院の役割があり、多施設での連携会議が定期的に開催され、血液内科(腫瘍内科・感染症内科)・糖尿病内科などの身体科との良好なネットワークなどの仕組みが整備されていた4,5,6,7)。また医師・看護師・ケースワーカー・臨床心理士・薬剤師などの多職種が連携したチーム治療が行われていた。好事例病院からの情報発信により、各地域でのCPMS登録の医療機関や患者数が増え、精神科病院間の良好な地域連携や精神科病院と総合病院身体科との良好な地域連携の仕組みも存在していた。
 全国のCPMS登録の医療機関に対して行ったアンケート調査については、222施設からの有効回答が得られた。施設毎のCLZ治療の累計患者数は、0人が17施設(7.7%)であり、1人~9人のあったのは107施設(48.2%)と多く、10~19人は19%(42施設)となった。つまり施設毎の累計患者数は9人以下が半数を超え、19人以下で75%を超えた。100人以上であったのはわずかに5施設(2.3%)と少なかった。CPMS登録の施設であっても、多くの施設ではCLZ治療がそれほど行われていない現状がわかった。CLZ治療の障壁については、血液検査が頻回であること、無顆粒球症などの副作用が心配であるなどを挙げている施設が多かった。  
 国内外の調査から治療抵抗性統合失調症へのCLZの治療効果は高いことは明らかであり、厚生労働省では精神病床における入院需要および地域移行に伴う基盤整備量の目標値設定を行い、2025年までに治療抵抗性統合失調症治療薬の処方率を治療抵抗性統合失調症患者の25%~30%に普及させることを目指して検討する、としている。2019年4月時点でのCPMSの延べ登録患者数は8399人であり、治療抵抗性統合失調症患者全体の4%程度に留まっている。
 2019年1月時点での各都道府県別の人口10万人あたりのCPMS登録患者数を見ると、登録患者数が最も少ない埼玉県と最も多い宮崎県の比は19.6倍となり、都道府県で大きな格差があることがわかった(図3)。宮崎県、沖縄県、岡山県ではそれぞれ登録患者数が200人を超える拠点病院があり、地域でのCLZ治療を牽引していた。国際的にみても国内でのCLZ使用頻度は非常に低いことがわかっている。
 地域でのCLZ治療の均てん化を図り、CLZ治療を普及させるためには、共通の指標が必要である。好事例病院への調査と全国のCPMS登録の医療機関へのアンケート調査の結果から、経験症例数により、CPMS登録の医療機関の成熟レベルを0~4bまでの6段階に分け、それぞれのレベルで達成すべき課題を表2に挙げた。CPMS登録の医療機関は、まず症例数20例(図3より、上位25%の施設が該当)、成熟度としてはレベル3を目標とするのが適当であると考えられた。
結論
 これらの調査結果をもとにCLZ療法の実践ガイドをまとめた。この実践ガイドが全国の医療機関で活用され、CLZ治療が普及すれば、多くの長期入院患者の地域移行と社会復帰に繋がると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201817031C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 全国のCPMS登録の医療機関に対して行ったアンケート調査では、222施設からの有効回答が得られた。施設毎のCLZの累計患者数は9人以下が半数を超え、19人以下で75%を超えた。100人以上であったのはわずかに5施設(2.3%)と少なかった。2019年1月時点での各都道府県別の人口10万人あたりのCPMS登録患者数を見ると、登録患者数が最も少ない埼玉県と最も多い宮崎県の比は19.6倍となり、都道府県で大きな格差があることがわかった(図3)。
臨床的観点からの成果
 好事例病院では、CLZクリニカルパス、CLZ委員会、CLZ血中濃度測定体制などの院内体制が整備されているところが多く、多職種が連携したチーム治療が行われていた。好事例地域では拠点病院や協力病院の役割があり、多施設での連携会議が定期的に開催されていた。好事例病院からの情報発信により、各地域でのCPMS登録の医療機関や患者数が増え、精神科病院間の良好な地域連携や精神科病院と総合病院身体科との良好な地域連携の仕組みも存在していた。
ガイドライン等の開発
 地域でのCLZ治療の均てん化を図り、CLZ治療を普及させるためには、共通の指標が必要であり、CLZ使用の実践ガイドをまとめた。その中で好事例病院への調査と全国のCPMS登録の医療機関へのアンケート調査の結果から、経験症例数により、CPMS登録の医療機関の成熟レベルを0~4bまでの6段階に分け、それぞれのレベルで達成すべき課題を表2に挙げた。CPMS登録の医療機関は、まず症例数20例(図3より、上位25%の施設が該当)、成熟度としてはレベル3を目標とするのが適当であると考えられた。
その他行政的観点からの成果
 厚生労働省では精神病床における入院需要および地域移行に伴う基盤整備量の目標値設定を行い、2025年までに治療抵抗性統合失調症治療薬の処方率を治療抵抗性統合失調症患者の25%~30%に普及させることを目指して検討するとしているが、2019年4月時点でのCPMS登録患者数は8399人であり、治療抵抗性統合失調症患者の4%程度に留まっていると考えられる。
その他のインパクト
 2019年3月10日に東京で重度慢性包括的研究に関連する5つの研究班(当班、統括調整研究班、薬物療法研究班、心理社会的治療/方策研究班、チームによる地域体制研究班)が合同で公開シンポジウム(成果報告会)を開催した。第8回日本精神科医学会学術大会(2019年7月5日、札幌市)では「重度かつ慢性患者の退院移行支援」というテーマのシンポジウムでシンポジストとして成果を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201817031Z