重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究- 薬物療法研究班

文献情報

文献番号
201817030A
報告書区分
総括
研究課題名
重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究- 薬物療法研究班
課題番号
H29-精神-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 量治((独立地方行政法人山梨県立病院機構)山梨県立北病院 精神科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院 精神科)
  • 武田 俊彦(慈圭病院 精神科)
  • 内田 裕之(慶應義塾大学医学部精神・神経科)
  • 三澤 史斉(山梨県立北病院 精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は「重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-統括・調整研究班(H29-精神-一般-003)」(研究代表者:安西信雄)と連携し、包括的な薬物療法に関する実態調査を実施し、「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイドに組み込まれるべき好事例病院の薬物療法/方策の特徴を明らかにし、平成30年度まで指針としてまとめ提示することである。指針提示においては、新たな長期在院(NLS)患者の予備軍である入院3ヶ月以上1年未満の入院例への薬物療法/方策についても念頭に置いて作成するものとした。
研究方法
①横断的処方調査(施設調査含む)、②縦断的処方調査、③薬剤選択と専門的治療に対する態度に関する医師アンケート、④薬物療法の記録と院内システムに関する調査(Fidelity調査)の4つのパートからなる調査票バッテリー(最終版)を用いて、統括調整班の安西が平成30年2月に実施した1次アンケート調査に期限内に回答した46病院へ調査を依頼したところ、24病院から協力が得られたため、入院統合失調症例(所定の抽出条件により抽出された対象者)及び精神科医(専攻医を除く)を対象とする包括的な実態調査を実施した。
 得られたデータは、対象施設を「好事例病院の選択基準」により好事例病院/その他病院の2群に分けて解析し、好事例病院に特徴的な薬物療法の内容を組み入れた「薬物療法ガイド」を作成した。また、このガイドの位置づけについて既存の薬物療法ガイドラインと比較し内容の適正性について検討した。
結果と考察
 平成31年1月までに24施設分のデータ(横断的処方調査:統合失調症1785例(内服薬症例)、198例(持効性注射製剤症例)、縦断的処方調査:重度慢性195例)、医師アンケート179名、施設調査24施設)が得られ、この結果を分析したところ、好事例病院の方が、内服薬処方については、CP(chlorpromazine)換算投与量、単剤比率、3剤以上併用比率からみて、処方はよく整理されておりシンプルなこと、クロザピン使用率(11.4%)が高いこと(p=0.000)が確認された。また、重度慢性統合失調症例の入院後1年間の処方の検討では、1年後、主剤CP換算投与量(606.6mg → 720.0mg)、総投与量(805.0mg → 927.6mg)と増加した(p=0.002, p=0.017)が、主剤比率(主剤CP換算量/抗精神病薬総投与量)、併用数、単剤処方比率、3剤以上処方比率は変化しておらず、多剤化していないことが確認された。また、好事例病院の担当医は、切り替えや処方単純化(入院時から3ヶ月時)に取り組む一方、同僚や上司への相談や多職種カンファレンス、ガイドラインに基づく治療方針の再検討はあまり行なっていないこと、薬剤選択については、MARTA薬剤の活用に積極的なこと、過去の多剤併用有効例に対し、単剤投与した第一選択薬が無効の場合、第二選択薬を切り替えでなく併用投与する等、改善に力点をシフトする柔軟な対応を行っていることなどが確認された。
 この結果を組み入れた薬物療法ガイド原案を作成し、分担研究者による査読、安西班会議での検討をへて最終版を作成した。内容は「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイド(平成31年3月発行)の2章「各領域で推奨されるミニマム・エッセンス」の2-1.「薬物療法」に収載された通りである。
 本薬物療法ガイドは、既存のガイドラインとの比較により、多剤併用に比較的柔軟なこと(なるべく行わない)、クロザピン導入時期がやや遅い面もみられたが、既存の標準的な薬物治療ガイドラインと大きな齟齬がないことが確認された。
結論
 「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイド(平成31年3月発行)に組み込まれた本薬物療法ガイドは、好事例病院の実践をまとめられたものであり、日本の精神科医療が努力すれば到達しうる良質な精神科医療が紹介されており、精神科病院入院中の重度慢性症例の精神症状改善や地域移行の一助となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2019-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-09-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201817030B
報告書区分
総合
研究課題名
重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究- 薬物療法研究班
課題番号
H29-精神-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 量治((独立地方行政法人山梨県立病院機構)山梨県立北病院 精神科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院 精神科)
  • 武田 俊彦(慈圭病院 精神科)
  • 内田 裕之(慶應義塾大学医学部精神・神経科)
  • 三澤 史斉(山梨県立北病院 精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は「重度かつ慢性の精神障害者に対する包括的支援に関する政策研究-統括・調整研究班(H29-精神-一般-003)」(研究代表者:安西信雄)と連携し、包括的な薬物療法に関する実態調査を実施し、「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイドに組み込まれるべき好事例病院の薬物療法/方策の特徴を明らかにし、平成30年度まで指針としてまとめ提示することである。指針提示においては、新たな長期在院(NLS)患者の予備軍である入院3ヶ月以上1年未満の入院例への薬物療法/方策についても念頭に置いて作成するものとした。
研究方法
 ①横断的処方調査(施設調査含む)、②縦断的処方調査、③薬剤選択と専門的治療に対する態度に関する医師アンケート、④薬物療法の記録と院内システムに関する調査(Fidelity調査)の4つのパートからなる調査票バッテリー(最終版)を用いて、統括調整班の安西が平成30年2月に実施した1次アンケート調査に期限内に回答した46病院へ調査を依頼したところ、24病院から協力が得られたため、入院統合失調症例(所定の抽出条件により抽出された対象者)及び精神科医(専攻医を除く)を対象とする包括的な実態調査を実施した。
 得られたデータは、対象施設を「好事例病院の選択基準」により好事例病院/その他病院の2群に分けて解析し、好事例病院に特徴的な薬物療法の内容を組み入れた「薬物療法ガイド」を作成した。また、このガイドの位置づけについて既存の薬物療法ガイドラインと比較し内容の適正性について検討した。
結果と考察
 平成31年1月までに24施設分のデータ(横断的処方調査:統合失調症1785例(内服薬症例)、198例(持効性注射製剤症例)、縦断的処方調査:重度慢性195例)、医師アンケート179名、施設調査24施設)が得られ、この結果を分析したところ、好事例病院の方が、内服薬処方については、CP(chlorpromazine)換算投与量、単剤比率、3剤以上併用比率からみて、処方はよく整理されておりシンプルなこと、クロザピン使用率(11.4%)が高いこと(p=0.000)が確認された。また、重度慢性統合失調症例の入院後1年間の処方の検討では、1年後、主剤CP換算投与量(606.6mg → 720.0mg)、総投与量(805.0mg → 927.6mg)と増加した(p=0.002, p=0.017)が、主剤比率(主剤CP換算量/抗精神病薬総投与量)、併用数、単剤処方比率、3剤以上処方比率は変化しておらず、多剤化していないことが確認された。また、好事例病院の担当医は、切り替えや処方単純化(入院時から3ヶ月時)に取り組む一方、同僚や上司への相談や多職種カンファレンス、ガイドラインに基づく治療方針の再検討はあまり行なっていないこと、薬剤選択については、MARTA薬剤の活用に積極的なこと、過去の多剤併用有効例に対し、単剤投与した第一選択薬が無効の場合、第二選択薬を切り替えでなく併用投与する等、改善に力点をシフトする柔軟な対応を行っていることなどが確認された。
 この結果を組み入れた薬物療法ガイド原案を作成し、分担研究者による査読、安西班会議での検討をへて最終版を作成した。内容は「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイド(平成31年3月発行)の2章「各領域で推奨されるミニマム・エッセンス」の2-1.「薬物療法」に収載された通りである。
 本薬物療法ガイドは、既存のガイドラインとの比較により、多剤併用に比較的柔軟なこと(なるべく行わない)、クロザピン導入時期がやや遅い面もみられたが、既存の標準的な薬物治療ガイドラインと大きな齟齬がないことが確認された。
結論
 「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイド(平成31年3月発行)に組み込まれた本薬物療法ガイドは、好事例病院の実践をまとめられたものであり、日本の精神科医療が努力すれば到達しうる良質な精神科医療が紹介されており、精神科病院入院中の重度慢性症例の精神症状改善や地域移行の一助となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2019-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-09-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201817030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、「重度かつ慢性」患者の地域移行をめざした包括支援実践ガイドをまとめるための基礎となるデータを得るために実施されたものである。協力の得られた24病院に対して包括的な薬物実態調査を行い、安西により定義された「好事例病院の選択基準」により回答施設を2群に分けて比較検討したため、現に好ましい医療が実施されている好事例病院の治療内容がその他病院との比較により明らかになった点が学術的に特にすぐれていると言える。
臨床的観点からの成果
好事例病院ではその他病院よりもクロザピン使用頻度が高いこと、LAI使用に積極的なこと、入院長期化によっても多剤化が生じていないことを確認できた。また、第二世代薬10剤のうち、頻用されている内服薬が順位づけでき、多剤併用については、医師が過去の処方内容を踏まえて病状改善を優先する柔軟な対応を行っていること、第一世代薬LAIの使用頻度が依然として高いことなど、重度慢性例に対する実施可能な医療を提示できたことが臨床的にすぐれていると言える。
ガイドライン等の開発
薬物療法実態調査の結果を踏まえて、薬物療法ガイド案を作成し、分担研究者の査読、及び、「重度かつ慢性」にかかわる5班の協議をへて最終版を作成し、「重度かつ慢性」患者への包括支援実践ガイドに「薬物療法」の章を掲載した。薬物療法ガイドは、重度慢性の統合失調症例への薬物療法の指針にくわえて、薬物療法を安定的に実施するための院内体制にも言及している。重度慢性例の地域移行にかかわるスタッフには、ここに提示された内容を自験例の治療方針立案の際、参照していただきたい。
その他行政的観点からの成果
本ガイドにより「重度かつ慢性」基準に該当する症例に対し、bio-psycho-socialな観点から包括的治療支援が行われることの意義が明確に提示されている上、重度慢性症の最大疾患グループをなす統合失調症の薬物療法について、クロザピン活用の意義等、詳細な実態調査結果とともに今後特に注目すべき薬物治療内容が提示できた。好事例病院の医療内容をモデルとし、精神科薬物療法の均てん化をすすめ、精神科薬物療法におけるクロザピン使用率の地域格差などの隠れた問題についても改善が図れるものと期待される。
その他のインパクト
3月に5班共同の成果報告会を実施した。今後、本ガイドの普及をはかるため、日本精神・神経学会のポスター発表をはじめ、論文、一般住民用の冊子(岐阜県事業)、インターネット公開等の広報活動も行っている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
H31年6月に発表
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2020-06-09
更新日
2024-03-18

収支報告書

文献番号
201817030Z