刑の一部執行猶予制度下における薬物依存者の地域支援に関する政策研究

文献情報

文献番号
201817023A
報告書区分
総括
研究課題名
刑の一部執行猶予制度下における薬物依存者の地域支援に関する政策研究
課題番号
H28-精神-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 白川 教人(横浜市こころの健康相談センター)
  • 和田 清(埼玉県立精神医療センター 依存症治療研究部)
  • 近藤 あゆみ(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
22,258,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、刑の一部執行猶予制度施行後の薬物依存症者の地域支援体制を整備・拡充に貢献するために、薬物依存症からの回復に関する基礎的データの収集、および「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」の課題を明らかにすることである。
研究方法
最終年度にあたる今年度は、保護観察対象者および民間支援団体利用者のコホート調査の結果を解析し、精神保健福祉センターにおける薬物依存症者支援の実態や地域連携の好事例を明らかにし、自治体生活保護担当者への研修や更生保護施設職員との意見交換会を行った。
結果と考察
保護観察対象者のコホート研究では、11の精神保健福祉センターから計209名の保護観察対象者について最長1年半後までの追跡が行われた。1年後調査では、保護観察期間中に地域の社会資源にアクセスしていない者が多く、仕事を優先する生活のなかで保護観察終了とともに再乱用防止プログラムから遠ざかる一群と、保護観察終了とともに無職のまま社会内で孤立する一群の存在が明らかにされた。同時に、精神保健福祉センターのかかわりが保護観察と地域支援のシームレスなつなぎに貢献する可能性が示唆された。一方、民間回復支援団体利用者のコホート調査では、24ヶ月時点での断薬率は62.9%と、その非常に優れた回復効果が明らかにされた。そして断薬の阻害要因としては入所期間1年未満、未就労状態、併存障害の存在が、そして促進要因としては、生活保護受給中、自助グループ参加、メンバー同士の良好な関係性が同定された。
 全国の生活保護担当ケースワーカー向け薬物依存症対応基礎研修を開催したところ、研修実施後には受講者の評価尺度上の薬物依存症に対する苦手意識が有意に低減し、知識や相談対応スキルが有意に高まることが確認された。また、全国69箇所の精神保健福祉センターのなかで、SMARPPなどの回復プログラムを実施している施設は40箇所(57.9%)にまで広がっていた。地域連携に関するインタビュー調査からは、「機関から機関へケースをつなぐ」連携よりも「ケースを協働して支援する」連携が良好な連携体制構築の鍵となり、それには、関係機関職員同士が日常的に交流し、顔と顔がつながる仕組みづくりが必要であることが示唆された。更生保護施設職員の聴き取り調査からは、SMARPPなどのブログラムを実施するなかで回復支援への手応えを感じる一方で、地域の社会資源との連携や研修機会に不足を感じている実態が明らかにされた。
結論
3年間の研究期間を通じて、保護観察対象者と民間支援団体利用者のコホート調査の実施体制を構築された。また、各種調査を通じて、地域保健機関および自治体関係者、医療機関、保護観察所、民間支援団体、更生保護施設などの連携の実態、支援の課題を明らかにした。以上の研究知見を踏まえ、研究班活動の知見を踏まえ、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」の課題、ならびに追記・補強すべき事項を整理し、提言としてまとめた。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201817023B
報告書区分
総合
研究課題名
刑の一部執行猶予制度下における薬物依存者の地域支援に関する政策研究
課題番号
H28-精神-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 白川 教人(横浜市こころの健康相談センター)
  • 和田 清(埼玉県立精神医療センター 依存症治療研究部)
  • 近藤 あゆみ(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、刑の一部執行猶予制度施行後の薬物依存症者の地域支援体制を整備・拡充に貢献するために、薬物依存症支援に関する基礎的データの収集、および法務省・厚労省が公表した「地域連携ガイドライン」の課題を明らかにすることである。
研究方法
本研究では、自治体(精神保健福祉センター、保健所、保健センター等)、保護観察所、更生保護施設、民間支援団体などをカバーする6つ分担研究班の体制によって研究を行った。研究班初年度は、保護観察所および民間支援団体における薬物依存症者コホート調査システムを開発するとともに、精神保健福祉センターと更生保護施設に対する調査を行った。2年度は、保護観察所と民間支援団体における薬物依存症者コホート調査を実施するとともに、引き続き精神保健福祉センターおよび更生保護施設での調査を続けた。最終年度は、保護観察対象者と民間支援団体利用者のコホート調査の結果を解析し、精神保健福祉センターにおける地域連携の課題と好事例を明らかにし、自治体生活保護担当者への研修や更生保護施設職員との意見交換会を行った。
結果と考察
初年度、保護観察対象者および民間支援団体利用者を対象としたコホート研究の準備が整い、前者においては2017年3月より調査を開始し、後者においては調査開始時点の横断的情報収集を終了した。また、精神保健福祉センターでの調査から、精神保健福祉センターにおける薬物依存症に対する回復プログラムの実施・準備状況が明らかになり、また、地域連携の実態と課題が明らかになった。さらに更生保護施設に対するアンケート調査からは、更生保護施設における薬物依存症支援の実態と課題が明らかにされた。
2年度は保護観察対象者および民間支援団体利用者を対象とした2つのコホート研究の進捗管理を行った。前者では、対象候補者の同意率は14.3%と低いものの、調査実施地域で精神保健福祉センターと保護観察所の連携が進んでいることが確認された。また、後者では、6ヶ月後と1年後のフォローアップ調査が実施され、高い断薬率と、薬物依存症からの回復におけるダルクの大きな貢献が確認された。民間回復支援団体への聞き取り調査からは、「顔と顔とでつながる」連携体制が構築されている地域が存在することが判明したが、他方で、ダルク代表者との意見交換会からは、ダルクの支援方針と保護観察や生活保護運用規則との齟齬が、ダルク側の負担を増大させている可能性も明らかになった。また、最近1年のうちに、本人向けの再乱用防止プログラムを実施する精神保健福祉センターが著しく増加したが、自治体生活保護担当者への研修不足により、当事者への対応に自信が持てない状況にあることも判明した。
最終年度、保護観察対象者のコホート研究では、11の精神保健福祉センターから計209名の保護観察対象者について最長1年半後までの追跡が行われた。1年後調査では、保護観察期間中に地域の社会資源にアクセスしていない者が多く、仕事を優先する生活のなかで保護観察終了とともに再乱用防止プログラムから遠ざかる一群と、保護観察終了とともに無職のまま社会内で孤立する一群の存在が確認された。同時に、精神保健福祉センターのかかわりが保護観察と地域支援のシームレスなつなぎに貢献する可能性が示唆された。一方、民間回復支援団体利用者のコホート調査では、24ヶ月時点での断薬率は62.9%と優れた回復効果が明らかにされるとともに、断薬阻害要因として入所期間1年未満、未就労状態、併存障害の存在が、そして促進要因として生活保護受給、自助グループ参加、メンバー同士の良好な関係性が同定された。
 全国の生活保護担当ケースワーカー向け研修を開催したところ、研修実施後には受講者の評価尺度上の薬物依存症に対する苦手意識が低減し、知識や相談対応スキルが高まった。また、全国69箇所の精神保健福祉センターのなかで、SMARPPなどの回復プログラムを実施している施設は40箇所(57.9%)にまで広がっていた。地域連携に関するインタビュー調査からは、「ケースを協働して支援する」連携が重要であり、それには、関係機関職員同士が日常的に直接に交流する仕組みづくりが必要であることが示唆された。更生保護施設職員への調査からは、SMARPPなどのブログラムを実施するなかで回復支援への手応えを感じる一方で、地域連携や研修機会の不足を感じている実態が明らかにされた。
結論
3年間の研究期間を通じて、保護観察対象者と民間支援団体利用者のコホート調査の実施体制を構築された。また、各種調査を通じて、地域関係機関相互の連携の実態、支援の課題を明らかにした。以上の研究知見を踏まえ、研究班活動の知見を踏まえ、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」の課題、ならびに追記・補強すべき事項を整理し、低減した。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201817023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国には薬物依存症者に関する中長期的なコホート研究が存在せず、その意味で保護観察対象者、ならびにダルク利用者のコホート研究の学術的意義は高い。特に、前者の場合、「全部執行猶予」「仮釈放」「一部執行猶予」のいずれの保護観察対象者を追跡するので、保護観察制度の制度評価を行うことも可能である。
臨床的観点からの成果
3年間の研究活動により、本研究班は、地域において関連機関が連携しての薬物依存症者支援に資する包括的支援指針の開発、薬物依存症者の転帰調査システムの開発、ならびに、地域における薬物依存症者支援の好事例データベースの開発という目的を遂行することができた。
ガイドライン等の開発
3年間の研究期間を通じて、保護観察所および民間支援団体における薬物依存症者コホート調査の実施体制を構築した。さらに、各種調査を通じて、地域保健機関および自治体関係者、医療機関、保護観察所、民間支援団体、更生保護施設などの連携の実態、支援の課題を明らかにした。以上の研究知見を踏まえ、研究班活動の知見を踏まえ、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」の課題、ならびに追記・補強すべき事項を整理し、提言としてまとめた。
その他行政的観点からの成果
2016年末に再犯防止推進計画が閣議決定され、刑事司法機関と地域の社会資源と連携した薬物依存症者支援システムの構築は、わが国喫緊の課題である。本研究班は保護観察所、精神保健福祉センター、民間リハビリ施設、更生保護施設といった多機関による支援システムの構築ならびに多機関による合意形成を踏まえた支援指針を開発したという点でその行政的意義は高い。特に保護観察対象者のコホート研究は保護観察から地域の社会資源へのつなぎを促進する支援システム構築の端緒となるべきもので、将来の事業化が期待されるものである。
その他のインパクト
保護観察対象者のコホート研究は、2017年5月の治療的司法研究会の公開シンポジウム、ならびに2019年5月の刑法学会シンポジウムや発表され、法曹関係者からの注目を集めた。また、ダルク利用者コホート研究の成果は、ASK(アルコール問題を考える市民の会)の機関誌「Be!」(2019年5月号)にて取り上げられ、特集時が組まれた。

発表件数

原著論文(和文)
34件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
161件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
講演2件: 2021年精神神経学会の教育講演「最近の薬物関連精神障害の傾向と対策」、および、2022年成城大学治療的司法研究センター主催学生サポーター懇談会「臨床からみたTJ」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
近藤あゆみ,佐藤嘉孝,松本俊彦
薬物依存症外来治療プログラム「STEM」の有効性評価
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 51 (1) , 26-37  (2016)
原著論文2
谷渕由布子,松本俊彦,今村扶美 他
薬物使用障害患者に対するSMARPPの効果:終了1年後の転帰に影響する要因の検討
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 51 (1) , 38-54  (2016)
原著論文3
近藤あゆみ,栗坪千明,白川雄一郎 他
民間依存症回復支援DARC利用者を対象とした認知行動療法SMARPPの有効性評価
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 51 (6) , 414-424  (2016)
原著論文4
近藤あゆみ,高橋郁絵,森田展彰
薬物依存症者をもつ家族を対象とした心理教育プログラムの理解度と有用性-医療保健機関家族教室と家族会の参加者を対象としたアンケート調査結果から-
日本アルコール関連問題学会雑誌 , 18 (2) , 25-32  (2017)
原著論文5
近藤あゆみ,高橋郁絵,森田展彰
薬物依存症者をもつ家族を対象とした心理教育プログラム-補助教材の理解度と有用性-
日本アルコール関連問題学会雑誌 , 19 (2) , 93-99  (2018)
原著論文6
松本俊彦,高野歩,熊倉陽介 他
保護観察の対象となった薬物依存症者のコホート調査システムの開発:「Voice Bridges Project」
更生保護学研究 ,  (14) , 3-18  (2019)
原著論文7
片山宗紀,白川教人,藤城聡 他
専門家と薬物依存症当事者による協働的な研修が生活保護担当ケースワーカーの薬物依存症の支援態度に与える影響
日本アルコール関連問題学会雑誌 , 21 (2) , 54-59  (2019)
原著論文8
渡邊敦子,森田展彰,受田恵理 他
更生保護施設における薬物事犯者に対する地域支援―恵の一部執行猶予制度導入後の施設の利用実態
法と心理 , 20 (1) , 150-158  (2020)
原著論文9
Risa Yamada, Takuya Shimane, Ayumi Kondo et al
The relationship between severity of drug problems and perceived interdependence of drug use and sexual intercourse among adult males in drug addiction rehabilitation centers in Japan.
Subst Abuse Treat Prev Policy , 16 (1)  (2021)
10.1186/s13011-020-00339-6
原著論文10
新田千枝,井ノ口恵子,他 森田展彰
刑の一部執行猶予制度下における薬物依存症者の地域支援-更生保護施設を中心とした意見交換会-その1-
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 54 (4) , 217-217  (2019)
原著論文11
井ノ口恵子,新田千枝,森田展彰 他
刑の一部執行猶予制度下における薬物依存症者の地域支援-更生保護施設を中心とした意見交換会-その2-
日本アルコール・薬物 医学会雑誌 , 54 (4) , 218-218  (2019)
原著論文12
宇佐美貴士,熊倉陽介,高野歩,金澤由佳,松本俊彦
薬物犯罪による保護観察対象者の1年後転帰に関する検討:保護観察から地域精神保健的支援への架け橋「Voice Bridges Project」
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 57 (3) , 143-157  (2022)

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
2024-03-18

収支報告書

文献番号
201817023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
26,910,000円
(2)補助金確定額
26,798,000円
差引額 [(1)-(2)]
112,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,523,268円
人件費・謝金 9,096,645円
旅費 3,573,767円
その他 7,953,225円
間接経費 4,652,000円
合計 26,798,905円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-12-15
更新日
-