医療用具の適正使用に関する研究

文献情報

文献番号
199800685A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具の適正使用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 道夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 澤充(日本大学)
  • 酒井順哉(名城大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療用具は動物実験や小規模の臨床試験等によって評価承認されているが全ての不具合を予測する事は難しい。また、市販時に意図されたものとは異なった使用法によって、本来の機能が十分発揮されず不具合が起こることが少なくない。不具合情報の整備、使用法の改善等、医療用具の適正使用を目的として研究を行う。 眼内レンズ(IOL)は白内障術後の視力矯正として年間50万の挿入が行われ、コンタクトレンズ(CL)は年間100万枚が使用され、視機能の維持、向上に重要な役割を果たしている。しかし、製品の質を含む不適切な使用は、失明を含む重篤な視力障害を生じるが、その実態及び適正使用に関する検討は十分になされていない。本研究においては様々な素材のIOLについて、手術後摘出されたIOLの組織学的検討を行った。またCLについては関連する眼障害の臨床、及びレンズとレンズケアの使用説明書の記載方法についての検討を行った。 医療用具が臨床現場で適正かつ安全に利用されるためには、用具の動作原理、操作方法、禁忌事項が分かり易く明確に記述された添付文書が不可欠である。今回、添付文書の体裁・表現方法とともに記載項目についてガイドラインを策定することを試みた。策定によって、製造/輸入販売業者が添付文書を作成する際の記述方法、項目が明確となるだけでなく、添付文書が基準を満足しているかどうかを認可申請時に評価することもでき、医療用具の安全性情報の強化を図ることが期待できる。 医療用具の市販後の安全性確保に関する企業の情報管理体制については、トラッキング制度が特定医療用具に義務づけられているものの、十分な追跡記録がなされているとは言い難い。トラッキング制度の充実を図り、医薬品でのGPMSPに準じた情報管理体制構築のための研究が必要である。データの管理状況の調査・解析によって、「医薬品等安全性情報報告制度」の持つ問題点の分析、及び活用方策について提案する。トラッキングの基本的な要素である埋植・摘出時に記録すべき事項に関する国際基準案の作成を目指すことと、欧米の医療用具不具合情報報告制度の実情を調査すると共に、国内の不具合情報に関するデータベースを試作することも研究の視野に入れる。
研究方法
IOLの組織適合性に関する検討では、眼内レンズ学会会員を中心に摘出IOLの提供を依頼し、材質による細胞反応の差異の検討と、白内障手術後の水晶体嚢での細胞反応による細胞外マトリックス沈着の検討を主要課題とし、1)免疫組織化学を中心とした付着細胞の細胞生物学的検討、2)付着細胞数と材質の関係、3)付着細胞数と挿入期間又は背景疾患の関係、4)水晶体嚢での水晶体上皮細胞を中心とした結合組織代謝の解析、の各項目について免疫組織学的検討を行った。 CLの適正使用に関する検討では、CLによる眼障害の実態調査(装用形態とレンズケア、眼科救急外来受診者におけるCL関連症例の実態、眼障害の臨床)、及び適正使用に関する今後の施策について検討を行った。調査は日本大学医学部附属病院板橋病院における救急外来患者を対象にした。また、日本コンタクトレンズ協会の協力を得て、CL説明書の検討を行った。 医療用具の添付文書記載要領ガイドラインを策定するにあたって、用具の製造/輸入販売業者が加入する各協会等における取扱説明書等の自主基準について資料提供を求めた。さらに、説明書の作成の実態とともに、ガイドラインを作ることに対する意識を調査した。これらの調査から、病院ユーザー、製造/輸入販売業者などからなる研究班を組織し用具別の基本的ガイドラインをまとめた。 不具合情報等の適正管理に関して、インプラント用具における情報管理の分析を試みた。特
に、医療用具毎に管理されている項目とそのデータ桁数を明確にするとともに、これらの情報を公的機関に公開できるか否かについて調べた。また、国際標準化機構における埋植・摘出時に記録すべき事項の作成に関わった。英国の不具合情報実態について調査すると共に、米国FDAがインターネットのWebページで公開している不具合情報データを元にデータベースを構築した。厚生省が集積している国内の企業、医療機関からの不具合報告に関するデータベースを試作すると共に、ネットワーク検索の方法について検討した。
結果と考察
回収された摘出IOL 83個、またはIOL挿入を受けていたアイバンクアイ 10眼を検索対象とした。その結果水晶体上皮細胞、及び一部マクロファージ系細胞は、ともに細胞外マトリックスを産生するが、摘出IOL表面の細胞において細胞外マトリックス合成に影響を与えるトランスフォーミング成長因子群、塩基性線維芽細胞成長因子の産生が確認できた。細胞の相互反応の解明や、IOL の材質の違いによる細胞・組織の反応の差異など研究課題として残されている。材質に関してはPMMA以外の摘出IOLのさらなる集積が必要である。一方、同一材質でも、摘出までの期間、基礎疾患や手術方法、手術侵襲の大小、形状の差異により生体反応が左右される可能性がある。 CL関連眼障害症例は救急外来患者数の約7%を占めていることが判明した。これらの多くの症例では CLの適正使用が守られておらず、その原因には適正使用についての知識、情報の欠如などが根底にあると考えられた。また、23社からCL説明書の提供を受け、各説明書について記載内容、記載法についての検討を行った。CLによる眼障害の改善については、医療機関の整備と、説明書を含む患者教育、情報の提供方法について検討する必要性がある。 医療用具の取扱説明書等の記載要領自主基準の調査結果から、主に機器製造を中心する協会等にはガイドラインが存在したが、材料・器材などを中心とする協会等には存在しない傾向が強いことが分かった。説明書の作成組織及び管理体制には企業間で大きな相違があり、記載内容については、作成目的をPL対策とする企業が約7割あった。ガイドラインを標準化することに関しては約7割の企業が望ましいと回答した。用具を3分類にわけ、記載項目として必須であるものだけを抽出し、添付文書記載要領ガイドライン(暫定案)として策定した。 アンケートによるインプラント用具業者の有効回答数は57社(55.9%)であった。その結果、用具の包装に表示されるロット番号等は、英数字、数字のみ、バーコードで表示される傾向にあるが、用具自体には英数字又は数字のみで表示される傾向にあり、シリアル番号に関しては様々な理由で表示されない場合が多い。また、用具の商品属性情報、ロット番号等の情報検索についてはやや脆弱である。公的機関への情報開示の意識は、商品情報及び病院関連情報については高いが、患者情報及び埋植情報については様々であった。また、各管理項目の使用桁数は各企業によって様々であることが分かった。以上の調査から、現在の不具合発生原因の捕らえ方に関する提言とともに、トラッキングの基礎データをインプラントデータシステムに構築するための基本的考え方を提案した。国際基準案での用具の供給者が記録保持すべき項目としては、用具の流通鎖の一つ前の供給者・供給先のidentity、用具名、シリアル番号、などの4項目が挙げられている。また、医療機関に対しては、医療機関名と所在地、埋植・摘出が行われた場所・日付、患者・用具の供給者のidentity、用具名、シリアル番号などの9項目が列挙された。米国FDAの不具合情報は93-96年の4年間で約36万件に登り、英国でも不具合情報のデータベースが充実していた。国内の不具合報告に関する試作データベースには平成年度の800件以上のデータを入力し、Webブラウザで検索可能な方法を検討した。不具合報告収集に関しては厚生省が電子化を目指して検討中であり、本研究の結果が非常に役立つと考えられる。
結論
本研究により埋植したIOLに対する細胞反応を明らかにすることができた。IOLの生体適合性
の評価には材質との関係についてシリコーン及びソフトアクリル製IOLについての検討が今後の研究課題として残された。CLによる眼障害はほとんどが不適正使用によるものであることが判明した。ユーザーの立場にたった不適正使用の是正が今後の検討課題である。 添付文書のガイドラインは、用具分類別に最小限記載すべき項目をまとめたもので、各企業において参考資料となることを期待したい。さらに詳細分類における具体的なガイドラインを完成させて行きたい。 インプラント用具の製造/輸入販売業者に対して安全情報管理の実態と情報開示の意識を調査した。不具合情報を広く集積することが重要であり、情報提供が円滑に行われるようなシステムを考えてゆく必要がある。今後、医師等へのアンケートによって報告制度への周知を図ると共に問題点を明らかにすると共に、トラッキング制度充実、及び企業における情報管理体制のあり方についての提言等を作成し、関係業界等への普及・定着を図りたい。また、埋植・摘出時に記録すべき事項に関する国際基準案の作成に貢献した。欧米の不具合情報の実情を調査すると共に、国内の不具合情報に関するデータベースを試作した。 本研究によって医療用具の適正使用に関する問題点が明らかになったが、引き続き実効のある方策を求めて研究を続けてゆく必要がある。

公開日・更新日

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