文献情報
文献番号
201816008A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症リスクに対する聴覚認知検査の妥当性の検証
課題番号
H30-認知症-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
土井 剛彦(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部 健康増進研究室)
研究分担者(所属機関)
- 島田 裕之(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター)
- 李 相侖(イ サンユン)(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部 長寿コホート研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,354,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症の危険因子は、短い教育歴、高血圧、糖尿病、うつ、低活動など幅広く、なかでも修正可能な要因に着目することが重要であるとされ、難聴もその一つであると認識された (Livingston G,et al. Lancet 2017)。そのため、聴覚にかかる評価を認知症のリスク評価として実施すべきであると考えられる。しかし、加齢に伴い聴力は低下し、75歳以上の40〜66%、85歳以上では80%以上が難聴と推定された報告がある (Yueh B, et al. JAMA 2003)。そのため、多くの高齢者の聴力は低下しており、その中で認知症のリスク評価を行うためには、従来の純音聴力検査だけでは不十分であると考えられる。一方で、認知症のリスク評価として実施するためには、評価そのものに認知的負荷をある程度かけられた認知的要求度の高いものが望ましいと考えられる。これらのことを考慮し、本研究は認知症のリスク評価を行うために聴覚に着目し、聴覚認知検査の開発を行い、妥当性の検討ならびにデータベースの構築を目的とした。
研究方法
対象は65歳以上の高齢者とした。聴覚に関する測定項目は、純音聴力検査(1000Hz、4000Hzにて左右3回ずつ)および2種類の聴覚認知検査とした。聴覚認知検査は、2種類実施し、同一カテゴリー(主カテゴリー)の単語の中に異なるカテゴリー(干渉カテゴリー)の単語が出てきた場合に、画面のボタンを押して反応する課題を用いた(検査1)。さらに、検査2として、検査1と同様の課題を行いつつ、干渉カテゴリーとして出てきた単語の個数を回答する課題を追加した。検査1、2それぞれにおいて、主カテゴリーを主カテゴリーであると正答した率(正解の正答率)、および干渉カテゴリーを干渉カテゴリーであると正答した率(不正解の正答率)を算出した。さらに、スコア化については異なる重みづけにて2種類作成した(スコア1:0~50点、スコア2:0~65点)。その他の本調査の測定項目として、認知機能はタブレット型PCを用いた評価ツールであるNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて評価した。NCGG-FATを用いて評価した認知機能検査において、認知機能の低下の有無により聴覚認知検査の結果を比較した。聴覚認知検査のスコアによる認知機能低下に対するカットオフ値を得るために、Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線から曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)と感度、特異度を算出し、カットオフ値を求めた。
結果と考察
本研究は、開発した聴覚認知検査のデータベース作成並びに妥当性の検討として認知機能との比較検討を行った。本年度は、2,107名の評価を実施し、計画通りに遂行できた。聴覚認知検査の検査結果においては、加齢に伴いスコアの低下が認められ、検査1の不正解の正答率を除き(p=0.064)、認知機能低下と関連性が認められた(p<0.05)。
認知機能低下の有無に対し、不正解の正答率はいずれも有意な差がみられ(p<0.001)、複数項目で認知機能低下を有する者の方がより低値を示した(p<0.001)。本検査の構成要素の中でも、干渉カテゴリーを正しく抽出することができるか、ということが認知機能低下に対する予測能をより有していると考えられる。ただし、想定よりも正答率が高かったため、検査内容の難易度の設定として、より認知的要求度の高い設定が必要であると考えられる。また、作成したスコアと認知機能の相関関係については、スコア1 、スコア2 ともにすべての認知機能検査と有意な関連性を示した(p<0.001)。カットオフ値については横断的に解析をした認知機能低下との関連性をもとに算出したが、あくまで横断的な関係性の検討にとどまった。そのため、次年度に計画している縦断データの測定により認知機能低下に対するカットオフ値を改めて検討する必要があると考えられる。
認知機能低下の有無に対し、不正解の正答率はいずれも有意な差がみられ(p<0.001)、複数項目で認知機能低下を有する者の方がより低値を示した(p<0.001)。本検査の構成要素の中でも、干渉カテゴリーを正しく抽出することができるか、ということが認知機能低下に対する予測能をより有していると考えられる。ただし、想定よりも正答率が高かったため、検査内容の難易度の設定として、より認知的要求度の高い設定が必要であると考えられる。また、作成したスコアと認知機能の相関関係については、スコア1 、スコア2 ともにすべての認知機能検査と有意な関連性を示した(p<0.001)。カットオフ値については横断的に解析をした認知機能低下との関連性をもとに算出したが、あくまで横断的な関係性の検討にとどまった。そのため、次年度に計画している縦断データの測定により認知機能低下に対するカットオフ値を改めて検討する必要があると考えられる。
結論
本研究において開発した聴覚認知検査は、加齢ならびに認知機能低下において、検査から得たスコアが低値であることと関連性がみられた。本検査が認知症の早期発見のためのスクリーニングツールとして有用である可能性が示唆された。今後は、継続してデータベースの構築を進め、横断的検討ならびに縦断的検討の両側面からスコア化を含めた検査内容の精査が求められると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2020-02-13
更新日
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