文献情報
文献番号
201816007A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の人やその家族の視点を重視した認知症高齢者にやさしい薬物療法のための研究
課題番号
H30-認知症-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
- 楽木 宏実(大阪大学 医学系研究科)
- 神崎 恒一(杏林大学 医学部)
- 鈴木 裕介(名古屋大学 医学部)
- 溝神 文博(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 病院薬剤部)
- 水上 勝義(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)
- 浜田 将太(一般社団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
- 小島 太郎(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
- 大野 能之(東京大学 医学部附属病院 薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,905,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症者における薬物療法の実態と取り組みの成果を調査解析し、認知症者と家族の視点も踏まえた適正な薬物療法へのステップを検討すべく、入院診療を行った認知症者と地域在住の認知症者の実態調査を行った。
研究方法
初年度は以下の研究を行った。
研究1.レセプトデータの解析を行うにあたり、株式会社データホライゾン(本社 広島県広島市)の協力のもと、広島県呉市(担当:福祉保健課健康政策グループ)の許可のもと、同市在住の認知症者の処方実態を調査することとした。
研究2.医療を提供するさまざまな現場における認知症者の薬物療法の実態と薬剤調整の現状について調査を行った。具体的には、老年内科入院病床や認知症疾患医療センター、介護老人保健施設、保険薬局の4つとした。老年内科の入院患者の認知症者のデータベースを作成し、後ろ向き調査にて認知症を有する入院患者における薬剤数や薬剤の内容、退院時点での薬剤の変化について検討を行った。
研究1.レセプトデータの解析を行うにあたり、株式会社データホライゾン(本社 広島県広島市)の協力のもと、広島県呉市(担当:福祉保健課健康政策グループ)の許可のもと、同市在住の認知症者の処方実態を調査することとした。
研究2.医療を提供するさまざまな現場における認知症者の薬物療法の実態と薬剤調整の現状について調査を行った。具体的には、老年内科入院病床や認知症疾患医療センター、介護老人保健施設、保険薬局の4つとした。老年内科の入院患者の認知症者のデータベースを作成し、後ろ向き調査にて認知症を有する入院患者における薬剤数や薬剤の内容、退院時点での薬剤の変化について検討を行った。
結果と考察
研究1.広島県呉市および株式会社データホライゾンと当学によりどのような目的で調査を行い、どのような項目についてデータが提供可能かについて検討を行った。2015年4月~2020年8月に65歳以上で国民健康保険または後期高齢者医療制度の被保険者で医療受給に伴いレセプトデータが得られたもの、あるいは得られる見込みのあるものを対象とし、患者属性のほか、所属保険者(国民健康保険または後期高齢者)、薬剤種類数、受診医療機関数、調剤薬局数、院内処方の有無、主要疾患の有無、さらには介護保険データから要介護状態区分、認定状況の変動、介護保険請求額、介護保険利用者負担額、公費請求額、障害高齢者の日常生活自立度、認知症高齢者の日常生活自立度などを調査することとなった。本内容を踏まえ、共同研究契約書を作成し、平成31年2月に3者で契約を結び、上記のデータ収集を行っていくこととなった。
研究2.老年内科および老健について以下の検討結果が得られている。
まず老年内科だが、2017年4月から2018年3月に入院された認知症患者82名の入院時薬剤数(種類)は平均5.4±3.6剤、退院時薬剤数(種類)は4.6±3.2剤であり、退院時には平均で0.8剤減少していた(t検定:p<0.005)。高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編)に記載されているPotentially inappropriate medication(以下PIM)、すなわち特に慎重な投与を要する薬剤の種類は入院時1.4種類、退院時1.1種類であり、退院時には有意に減少していた(p=0.014)。主なPIMの種類は、ベンジアゼピン系・非ベンジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、緩下薬であり、抗血栓薬、利尿薬、糖尿病薬など定期的に見直しが必要な薬剤も10%以上の患者で認められた。Anticholinergic Risk Scaleで1点以上の患者はわずかであり入院時9名、退院時4名であり、そもそも抗コリン作用を有する薬剤の処方が少ないことが明らかとなった。
次に認知症を有する老健入所者対象者を検討すべく、介護保険意見書において認知症自立度がⅠ以上(Mを含む)の者を対象とした。属性としては、女性が75%、85歳以上が60%、認知症自立度はランクI、II及びIII以上(Mを含む)がそれぞれ12%、41%及び47%、障害高齢者の日常生活自立度はランクJ/A(寝たきりでない)及びB/C(寝たきり)がそれぞれ33%及び67%であった。認知症自立度がIII以上であることと寝たきりであることとの間に有意な関連がみられた(P<0.01、カイ二乗検定)。平均薬剤種類数は、入所時において、認知症自立度がII以下で6.2種類、III以上で5.6種類、入所2ヵ月時においてはそれぞれ5.7種類及び5.0種類であり、認知機能による有意な差がみられた(P<0.01、ウェルチのt検定)。抗認知症薬の処方は入所時19%から入所2ヵ月時13%であり、有意に減少した(P<0.01、マクネマー検定)。睡眠薬は25%から22%、抗不安薬は12%から11%と程度は小さいが減少がみられた(いずれもP<0.01)。一方、抗精神病薬は13%から14%と変化がみられなかった(P=0.46)。
今回検討を行った老年内科入院病床および老健においては、いずれも入院・入所中に薬剤の見直しが行われたことが示唆され、薬剤の減少が認められた。老年内科では睡眠薬のみならず生活習慣病治療薬なども見直しの対象となっていた一方、老健では抗認知症薬の減少と抗精神病薬の継続という現状を確認することができた。
研究2.老年内科および老健について以下の検討結果が得られている。
まず老年内科だが、2017年4月から2018年3月に入院された認知症患者82名の入院時薬剤数(種類)は平均5.4±3.6剤、退院時薬剤数(種類)は4.6±3.2剤であり、退院時には平均で0.8剤減少していた(t検定:p<0.005)。高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編)に記載されているPotentially inappropriate medication(以下PIM)、すなわち特に慎重な投与を要する薬剤の種類は入院時1.4種類、退院時1.1種類であり、退院時には有意に減少していた(p=0.014)。主なPIMの種類は、ベンジアゼピン系・非ベンジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、緩下薬であり、抗血栓薬、利尿薬、糖尿病薬など定期的に見直しが必要な薬剤も10%以上の患者で認められた。Anticholinergic Risk Scaleで1点以上の患者はわずかであり入院時9名、退院時4名であり、そもそも抗コリン作用を有する薬剤の処方が少ないことが明らかとなった。
次に認知症を有する老健入所者対象者を検討すべく、介護保険意見書において認知症自立度がⅠ以上(Mを含む)の者を対象とした。属性としては、女性が75%、85歳以上が60%、認知症自立度はランクI、II及びIII以上(Mを含む)がそれぞれ12%、41%及び47%、障害高齢者の日常生活自立度はランクJ/A(寝たきりでない)及びB/C(寝たきり)がそれぞれ33%及び67%であった。認知症自立度がIII以上であることと寝たきりであることとの間に有意な関連がみられた(P<0.01、カイ二乗検定)。平均薬剤種類数は、入所時において、認知症自立度がII以下で6.2種類、III以上で5.6種類、入所2ヵ月時においてはそれぞれ5.7種類及び5.0種類であり、認知機能による有意な差がみられた(P<0.01、ウェルチのt検定)。抗認知症薬の処方は入所時19%から入所2ヵ月時13%であり、有意に減少した(P<0.01、マクネマー検定)。睡眠薬は25%から22%、抗不安薬は12%から11%と程度は小さいが減少がみられた(いずれもP<0.01)。一方、抗精神病薬は13%から14%と変化がみられなかった(P=0.46)。
今回検討を行った老年内科入院病床および老健においては、いずれも入院・入所中に薬剤の見直しが行われたことが示唆され、薬剤の減少が認められた。老年内科では睡眠薬のみならず生活習慣病治療薬なども見直しの対象となっていた一方、老健では抗認知症薬の減少と抗精神病薬の継続という現状を確認することができた。
結論
認知症者は入院・入所中に薬剤の見直しが行われ、減薬を検討されることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2020-02-13
更新日
-