文献情報
文献番号
201816006A
報告書区分
総括
研究課題名
若年性認知症の人の生活実態調査と大都市における認知症の有病率及び生活実態調査
課題番号
H29-認知症-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
粟田 主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
研究分担者(所属機関)
- 徳丸 阿耶(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 放射線診断科)
- 稲垣 宏樹(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
- 菊地 和則(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)
- 岡村 毅(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
- 杉山 美香(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
- 枝広 あや子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,457,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本医療研究開発機構(AMED)で実施されている「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」に関する研究を補完するために,1)介護保険情報に基づく若年性認知症の有病率把握,2)認知症疾患医療センターの臨床統計データを用いた若年性認知症発生率の推計を行った.また,大都市の認知症有病率と生活実態を把握するために,東京都板橋区高島平地区に在住する70歳以上高齢者を対象に,3)MMSE-J得点の2年間の縦断的変化の分析による認知機能低下高齢者の発生率と関連要因,4)大規模集合住宅地に設置した地域拠点で実践される認知機能低下高齢者等への日常生活支援,5)大都市に暮らす認知症高齢者が地域生活を継続するための要因,6)生活のしづらさと脳萎縮部位との関連を分析した.
研究方法
1)大阪市,名古屋市,東京都4区(板橋区,豊島区,北区,練馬区)の自治体と連携して介護保険情報を共有し,集計分析を行った.2)厚生労働省認知症施策推進室と連携し認知症疾患医療センター実績データを共有し分析作業を進めた.3)2016年調査に参加した70歳以上高齢者1,321人を対象に,2018年10月~12月にMMSE-Jを含む調査を実施し,2016年調査データをベースラインとする縦断的分析を行った.4)研究フィールド内に設置した地域の拠点で介入対象者に実際に提供した日常生活支援の内容について,拠点スタッフFGDを行い質的分析を行った.5)2017年調査で選定された認知症の介入対象者について追跡調査を行い,6ヶ月間の入院入所の出現頻度と関連要因の分析を行った.6)大都市における認知症の画像疫学的研究では,2016年~2017年に収集したMRI画像データを用いてVBM解析を行った.
結果と考察
1)介護保険第2号被保険者7,334名の要介護・要支援認定者のデータベースを分析したところ,「脳血管疾患」54.3%,「がん(がん末期)」9.2%,「初老期における認知症」7.1%で,「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上」は34.0%であった.2)2017年度に全国の認知症疾患医療センターで若年性認知症の診断を受けた者は1,849人で,アルツハイマー型認知症52.8%,血管性認知症8.3%,前頭側頭型認知症7.7%,物質・医薬品誘発性による認知症7.4%,外傷性脳損傷による認知症7.2%,レビー小体型認知症4.5%であった.2018年の18~64歳人口を母数とする年間発生率は人口10万人対2.61人と推計された.3)2016年調査に参加した1,321名中743名(56.2%)が2018年調査に参加し,新たな認知機能低下(MMSE23点以下)の発生率は6.0%,年齢が高いこと,教育年数が低いことが認知機能低下の発生に関連した.4)地域拠点では,「信頼感の醸成」を基盤にした<心理的サポート><信頼関係の形成>の後に「生命・身体の健康の維持」や「基本的な生活支援」が行われ,「本人の希望の実現」に向けた取組みが可能になることを示した.5)2017度調査で認知機能低下を認めたハイリスク高齢者66名中49名が地域生活を継続し,12名が入院入所,5名は追跡不能であった.地域生活の継続不能と関連した項目は,生活支援ニーズを持つこと,居住支援ニーズを持つこと,家族の介護負担が高いことであった.6)地域在住高齢者173名に実施した頭部MRI検査のVBM解析において,小脳,海馬,線条体の萎縮が日常生活における不便さや活動性低下と関連した.
結論
1)介護保険の「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上」で定義される若年性認知症は要支援要介護認定を受けている第2号保険者の34.0%であり,脳血管障害が最も多い.2)わが国の認知症疾患医療センターベースで推計される若年性認知症の年間発生率は人口10万人対2.61人で,アルツハイマー型認知症が最も多い.3)70歳以上の地域在住高齢者における認知機能低下の年間発生率は6.0%で,年齢が高いこと,教育年数が低いことが認知機能低下のリスク因子となる.4)認知症高齢者の地域生活を支えるための日常生活支援は,「信頼感の醸成」「生命・身体の健康の維持」「基本的な生活支援」「本人の希望の実現」という4つの次元にカテゴリー化される.5)認知症高齢者の地域生活の継続には,住まいや生活支援が確保されていること,家族の負担感が低いことが重要な要件である.6)地域在住高齢者における頭部MRI検査有所見率は高く,小脳,海馬,線条体の萎縮は日常生活における不便さや活動性の低下に関連する.
公開日・更新日
公開日
2020-02-10
更新日
2020-02-13