前向きコホート調査に基づく認知症高齢者の徘徊に関する研究

文献情報

文献番号
201816001A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコホート調査に基づく認知症高齢者の徘徊に関する研究
課題番号
H28-認知症-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 孝(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 隆雄(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐  )
  • 斎藤 民(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学社会学研究センター 室長 )
  • 村田 千代栄(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学社会学研究センター 室長  )
  • 鄭 丞媛(ジョン スンウォン)(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学社会学研究センター 研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,918,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、徘徊による行方不明の発生をエンドポイントとする前向きコホート研究を行い、行方不明の発生率、関連因子を明らかにする。
本研究では徘徊の定義を、「認知症に関連すること」「移動を伴うこと」「屋外であること」、「介護者からみて行方不明であること」として、警察対象となる以前の行方不明の実態と危険因子を明らかにする。
研究方法
1.研究期間:倫理・利益相反委員会承認後~平成31年3月31日
2.実施場所:国立長寿医療研究センター(NCGG)・もの忘れセンター
3.研究デザイン:非ランダム化前向き観察研究
4.研究対象:もの忘れセンターを受診した高齢患者(認知症、軽度認知障害、主観的認知障害を含む)及びその介護者。
5.調査項目:基本情報(本人・介護者)、高齢者総合機能評価、神経心理検査:MMSE(Mini-Mental State Examination)、野菜想起、ADAS(Alzheimer's Disease Assessment Scale)、RCPM(Raven's Colored Progressive Matrices)、FAB(Frontal Assessment Battery)、WMS-R(Wechsler Memory Scale-Revised)、数唱、論理的記憶、薬劑・服薬状況、徘徊による行方不明の判定:調査票Ⅰで「探した」との回答を参考に、本研究班4名が総合的に判定した。
6.データ解析:1年追跡期間内に徘徊があった者となかった者との間の登録時における医学的要因と社会的要因の相違点をt-testで検討した。
(倫理面への配慮)
本研究はヘルシンキ宣言および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に示される倫理規範に則り計画され、NCGGの倫理・利益相反委員会の承認(No.977-2)を得た。
結果と考察
1.登録患者の経過
登録期間内において、490件の患者・家族ペアを登録した。サービス付き高齢者住宅居住中(1件)、認知症以外の疾患(17件)を除外した。ベースライン調査の472件で、「捜した」群92件(19.5%)、「心配のみ」群66件(14.0%)、「該当なし」群314件(65.1%)であった。
1年後の追跡調査では、412件(84.1%)から回答を得た。一年間で60名が脱落した。「探した」群から31件、「心配のみ」群から3件、「該当なし」群から24件の「行方不明」が発生した。上記より、行方不明の新規発生率は8.1%、再発率は39.7%と推計された。 
2.要因分析(発生・再発)の分析結果
1年追跡期間内に徘徊があった者となかった者との間には,医学的要因として10の変数,社会的要因として2つの変数において違いが見られる可能性が示唆された(p<0.05)。
医学的要因(10変数):寝たきり度,MMSE総点,DBD総点,Vitality index総点,老年症候群総点,転倒スコア,ADAS総点,RCPM総点,FAB総点,GDS総点
社会的要因(2変数):J-ZBI総点,経済状況
考察
もの忘れ外来に通院する高齢者の一年間の前向き観察研究により、認知症の行方不明の年間の発症率は、全体 14.1%、新規発生率8.1%、再発率39.7%であることが初めて明らかにされた。また、徘徊の発生に関連する因子として、医学的要因10項目、社会的要因2項目が示された。
徘徊の発生率を調べた先行調査では、過去一年間の行方不明の有無を介護者から聴取した横断研究が多く、行方不明の頻度は20~30%と報告されていた。本研究の前向き観察研究では、行方不明全体でも14.1%と推計された。先行研究との差異については、「徘徊による行方不明」を家族がどのようにとらえているか(理解)が曖昧であること、過去一年間を正しく捉えていないこと等が示された。
行方不明の要因分析では、医学的因子として、寝たきり度,MMSE総合点,DBD総合点,Vitality index総合点,老年症候群総合点,転倒スコア,ADAS総合点,RCPM総合点,FAB総合点,GDS総合点が、また、社会的要因として、介護者の介護負担,経済状況が関与する可能性が示された。いずれも臨床的にも意義ある要因と思われるが、12項目中には、カテゴリー化して分析する必要がある変数も含まれており、今後、多変量回帰分析等により,変数間の因果関係や変数の効果について検証する必要があると考えられた。
結論
認知症関連疾患を有する高齢者472名において、行方不明の年間発症率は、新規発生率 8.1%、再発率 39.7%であった。
行方不明の発生と関連した因子として、寝たきり度,認知機能低下、BPSD、抑うつ、意欲低下、老年症候群、また介護者の介護負担,経済状況が悪いことが関連する可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2020-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201816001B
報告書区分
総合
研究課題名
前向きコホート調査に基づく認知症高齢者の徘徊に関する研究
課題番号
H28-認知症-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 孝(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 隆雄(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐)
  • 斎藤 民(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 室長)
  • 村田 千代栄(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 室長)
  • 鄭 丞媛 (ジョン スンウォン)(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、徘徊による行方不明の発生をエンドポイントとする前向きコホート研究を行い、行方不明の発生率、関連因子を明らかにする。
本研究では徘徊の定義を、「認知症に関連すること」「移動を伴うこと」「屋外であること」、「介護者からみて行方不明であること」として、警察対象となる以前の行方不明の実態と危険因子を明らかにする。
研究方法
1. 研究期間:倫理・利益相反委員会承認後~平成31年3月31日
2. 実施場所:国立長寿医療研究センター(NCGG)・もの忘れセンター
3. 研究デザイン:非ランダム化前向き観察研究
4. 研究対象:もの忘れセンターを受診した高齢患者(認知症、軽度認知障害、主観的認知障害を含む)及びその介護者。
5. 調査項目:基本情報(本人・介護者)、高齢者総合機能評価、神経心理検査:MMSE(Mini-Mental State Examination)、野菜想起、ADAS(Alzheimer's Disease Assessment Scale)、RCPM(Raven's Colored Progressive Matrices)、FAB(Frontal Assessment Battery)、WMS-R(Wechsler Memory Scale-Revised)、数唱、論理的記憶、薬劑・服薬状況、徘徊による行方不明の判定:調査票Ⅰで「探した」との回答を参考に、本研究班4名が総合的に判定した。
6. データ解析:1年追跡期間内に徘徊があった者となかった者との間の登録時における医学的要因と社会的要因の相違点をt-testで検討した。
(倫理面への配慮)
本研究はヘルシンキ宣言および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に示される倫理規範に則り計画され、NCGGの倫理・利益相反委員会の承認(No.977-2)を得た。
結果と考察
1. 登録患者の経過:登録期間内において、490件の患者・家族ペアを登録した。1件はサービス付き高齢者住宅居住中、17件は認知症以外の疾患のため除外。登録時の対象は472件で、「捜した」群92件(19.5%)、「心配のみ」群66件(14.0%)、「該当なし」群314件(65.1%)であった。
1年後の追跡調査は、412件(84.1%)から回答を得た。一年間で60件脱落。「探した」群から31件、「心配のみ」群から3件、「該当なし」群から24件の「行方不明」が発生した。上記より、行方不明の新規発生率は8.1%、再発率は39.7%と推計された。 
徘徊の発生率を調べた先行調査では、過去一年間の行方不明の有無を介護者から聴取した横断研究が多く、行方不明の頻度は20~30%と報告されていた。本研究の前向き観察研究では、行方不明全体でも14.1%と推計された。先行研究との差異については、「徘徊による行方不明」を家族がどのようにとらえているか(理解)が曖昧であること、過去一年間を正しく捉えていないこと等が示された。
2. 質問票Ⅰの信頼性:質問票Iの信頼性を検証するため、追跡調査の53名で面接による聞き取り調査を行った。「該当なし」と「捜した」との回答の一致率は84.9%であり、信頼性は高いと考えられた。
3. 行方不明で探した人の認知機能:縦断観察時に「行方不明で探した人」(58名)の登録時MMSEは、平均値18.1点(8~30点)であった。
4. 要因分析の分析:1年追跡期間内に徘徊があった者となかった者との間には,医学的要因として10の変数,社会的要因として2つの変数において違いが見られる可能性が示唆された(p<0.05)。
医学的要因(10変数):寝たきり度,MMSE総合点,DBD総合点,Vitality index総合点,老年症候群総合点,転倒スコア,ADAS総合点,RCPM総合点,FAB総合点,GDS総合点
社会的要因(2変数):J-ZBI総合点,経済状況
いずれも臨床的にも意義ある要因と思われるが、今後、多変量回帰分析等により、変数間の因果関係や変数の効果について検証する必要があると考えられた。
結論
1. 認知症関連疾患を有する高齢者472名において、徘徊による行方不明の一年間前向き観察研究を行った。行方不明の年間発症率は、新規発生率8.1%、再発率39.7%であった。
2. 行方不明の発生と関連した因子として、寝たきり度,認知機能低下、BPSD、抑うつ、意欲低下、老年症候群、また介護者の介護負担,経済状況が悪いことが関連する可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2020-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201816001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症高齢者の徘徊は社会的インパクトが大きい課題である。しかし、徘徊の定義も実態も不明である。本研究では、徘徊を「認知症に関連すること」「移動を伴うこと」「屋外であること」、「介護者からみて行方不明であること」と定義して、行方不明の発生をエンドポイントとする前向きコホート研究を行い、行方不明の発生率、関連因子を初めて明らかにした(行方不明の年間発症率は、新規発生率13.5%、再発率43.1%)。
臨床的観点からの成果
これまでの徘徊に関する研究は、警察捜査の対象となった行方不明事例についての調査しかなかった。 本研究では、もの忘れ外来を受診した高齢者において、警察捜査になる前の行方不明を含めた徘徊事例の実態を、一年間の前向き観察研究で明らかにした。また、寝たきり度,認知機能低下、BPSD、抑うつ、意欲低下、老年症候群、介護者の介護負担,経済状況が悪いことが行方不明の発症に関連することを初めて明らかにした。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
徘徊による事故、介護者の責任については国会でも大きな問題となっている。しかし、徘徊に関する体系的な研究は非常に少ない。本研究では、もの忘れ外来に通院する認知症高齢者の発生頻度を、前向き観察試験で初めて示した。また、行方不明となる高齢者の特徴を明らかにした。これらの知見から、徘徊は認知症の経過でいつでも起こりえることを明らかにした。また、徘徊の関連因子を介護者に情報提供し、医療・介護関係者に具体的な注意喚起を行うことが可能になった。
その他のインパクト
本研究による新たな知見は、第59回日本老年医学会のシンポジウム、第9回日本認知症予防学会のシンポジウムで報告された。いずれのシンポジウムにも200名近い参加者があり、有益な討論が展開された。また、市民公開講座(長寿科学振興財団)を行い、一般市民、研究者を含む多くの参加者に情報提供を行い、熱心な討論が行われた。また、本研究の主要結果は英文論文として投稿準備が進んでいる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
『認知症に関わる徘徊の現状と対策』『地域再生、互助を中心とした自律的・継続的な社会をつくるために』

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Seungwon Jeong, Takao Suzuki, Takashi Sakurai, et al
Incidence of and Risk Factors for Missing Events Due to Wandering in Community-Dwelling Older Adults with Dementia.
Journal of Psychiatry and Psychiatric Disorders , 7 (2) , 38-45  (2023)
10.26502/jppd.2572-519X0183

公開日・更新日

公開日
2020-03-18
更新日
2023-07-28

収支報告書

文献番号
201816001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,092,000円
(2)補助金確定額
5,068,000円
差引額 [(1)-(2)]
24,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 86,299円
人件費・謝金 3,634,889円
旅費 0円
その他 173,321円
間接経費 1,174,000円
合計 5,068,509円

備考

備考
補助金確定額が千円以下切り捨ての為、合計金額の5,068,509円のうち509円が差額となる。

公開日・更新日

公開日
2020-02-13
更新日
-