文献情報
文献番号
201815008A
報告書区分
総括
研究課題名
嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発
課題番号
H30-長寿-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
藤谷 順子(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター リハビリテーション科)
研究分担者(所属機関)
- 唐帆 健浩(杏林大学)
- 菊谷 武(日本歯科大学)
- 柴田 斉子(藤田医科大学)
- 田沼 直之(東京都立府中療育センター)
- 寺本 房子(川崎医療福祉大学)
- 藤島 一郎(浜松市リハビリテーション病院)
- 藤本 保志(名古屋大学)
- 吉田 光由(広島大学)
- 渡邊 裕(東京都健康長寿医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
超高齢社会を迎えた本邦において摂食嚥下障害を有する高齢者は増加しており地域在住の健康高齢者の約25%・要介護認定を受けている高齢者の約50%に摂食嚥下障害が存在との報告がある。摂食嚥下障害を有する高齢者に適正な食形態を提供することは誤嚥や窒息などの予防・低栄養防止・QOLの維持につながる。しかし患者に適した食形態が選択されているかという点については未だ十分とは言えない。摂食嚥下機能評価の依頼のあった施設入居中/在宅療養中の高齢者において本人の機能と摂取している食形態の間に乖離がみられた者はそれぞれ35%/68%に及んでおり能力以上の食形態を摂取している者と行き過ぎた配慮をされている者が混在しているとの報告もある。嚥下造影検査(VF)嚥下内視鏡検査(VE)は摂食嚥下機能の評価・食形態の決定に重要だがすべての医療機関/介護施設/在宅等で頻繁に実施するのは困難である。平成24年度の調査によると介護保険の施設において7割以上がVF,VEを実施することができない(実施にあたっての連携先がない)状況であった。H27介護報酬改訂においては多職種による食事観察が評価されるに至り実績をあげている。河野らによる在宅での訪問看護師・ケアマネに対する実態調査でも「在宅で目の前で食べてもらう」を食形態の選択に利用していると答えたのは83%にのぼっている。 すなわち適正な食形態が選択される状況を作るためには観察によって食形態を判定するためのガイドラインの開発が必要である。
研究方法
1.文献的検討:まず形態判定に係る国内外の文献の検索を行った。2.実態調査:日頃、摂食嚥下障害の治療に携わっている医療者がどのように対象患者の推奨食事形態を判断しているかを調査した。
結果と考察
1.MASAは臨床観察に加えて検査食を咀嚼した後の食塊の様子を観察する24の評価項目で構成されており侵襲性が低く医師でなくても観察が可能であるがその点数では食形態の提案はできない。咀嚼機能を含めた摂食嚥下機能をスコア化しその合計点で食形態を提案するスクリーニング方法として報告があるのは現時点ではGGUSSでありGGUSSは三段階の検査食を用いて徐々に難易度の高い直接嚥下機能を評価していくもので追試研究も報告されている。米を主食とする日本人への適合および現在本邦で用いられている嚥下調整食の多様性には対応していない。2.関連学会及び専門職団体を経由した呼びかけで調査に協力した625名の回答を分析した結果、食形態の決定は複数名による協議で行っているという回答が88%であった。また食形態を決定するために実際に行っている評価としては意識・発熱・意識障害・構音障害・失語の有無など臨床観察項目と改訂水飲みテスト/食物テスト/反復唾液嚥下テスト/その他の水飲みテストなど直接的評価が組み合わせて用いられていた。観察項目としてはムセの有無・嚥下反射惹起・湿性嗄声など狭義の嚥下や誤嚥を評価する観察項目の他、口腔内残留・舌可動性・咀嚼・食物の送り込みなど食形態による咀嚼についての評価項目が利用されていた。随意的な咳・指示理解の態度など協力の程度も評価に用いられていた。食形態のレベル変更のために利用している評価項目としては発熱・意識・栄養状態・血液検査・胸部レントゲンなどが食物テストや頸部聴診などのその場での直接的評価方法よりも高い頻度で選択されており、検査食または食事場面のその場での評価だけでなく肺炎リスクや栄養状態を総合判断して食形態の変更を決定していることが伺えた。
結論
文献的検討からは日本人向けに改訂したスクリーニング方法の開発が期待されることが判明した。摂食嚥下運動、外からではその一部しか観察することができない。摂食嚥下機能の評価に慣れている職種は口唇・舌の可動域や筋力・喉頭挙上の程度、嚥下反射惹起の頻度など他覚的に評価できる指標から患者の嚥下機能を推測し実際の食事場面の観察に加え発熱や痰・食事所要時間などから嚥下の安全性および効率・耐久性を評価して推奨食事形態を決定している。その判断は個々の経験に委ねられている部分が大きい。嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査など口腔〜咽頭内の器官および食物の動きを可視化できる検査は摂食嚥下障害患者の病態を明らかにし嚥下の安全性と効率を確認するための優れた評価手段である。これらの画像検査と観察による評価を一致させていくことが重要である。また摂食嚥下障害の治療として安全な食べ物から徐々にその量と形態を変更していく段階的摂食訓練が推奨されているが食品は多様である。観察による評価の精度をあげるためには適切な食品レベル分けや評価の基準となる食物の決定などが求められる。一方食事場面の観察評価のほかに、肺炎リスクと栄養などの全身状態を常に把握することが重要であることも普及していく必要があると思われた。
公開日・更新日
公開日
2020-04-24
更新日
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