モルヒネを主軸とした癌疼痛管理のガイドラインの有用性に関する臨床試験

文献情報

文献番号
199800680A
報告書区分
総括
研究課題名
モルヒネを主軸とした癌疼痛管理のガイドラインの有用性に関する臨床試験
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
平賀 一陽(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 福井次矢(京都大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本緩和医療学会は、3年前からEvidence-based Medicine(EBM)に基づいたがん疼痛管理のガイドラインの作成作業を行ってきた。EBMに基づいて精力的に委員会で検討したきた結果、がん疼痛の緩和には痛みの評価と副作用対策を含めてモルヒネの上手な投与法が重要であることが判明した。本研究の目的は、EBMに基づいたがん疼痛管理のガイドラインの有用性を検討することで、そのための臨床試験を計画した。
研究方法
がん疼痛管理のガイドラインの有用性を検証するのに適切な施設であるか否かを検討するために、がん診療施設に指定されている国立病院(以下、国立病院)とがんセンター・成人病施設(以下、がん専門病院)に入院しているがん患者の、疼痛出現率・除痛率などについて看護婦・医師にアンケート調査を行い比較検討した。具体的には、看護婦へのアンケート調査の項目は、病期別鎮痛対策患者数(有痛患者)と鎮痛効果(患者が十分に満足する除痛率)、鎮痛法の汎用頻度とそれらの鎮痛効果などである。がん治療医へのアンケート調査項目は、鎮痛法選択の順位、モルヒネ投与の時期、モルヒネ投与時の薬品の説明、モルヒネ経口投与が中止になる原因、今までに経験したモルヒネ経口の最高投与量、末期がん患者に対する病名告知の有無などである。
結果と考察
がん診療施設の国立病院とがん専門病院を対象にしたがん疼痛の実態調査の結果は、次の通りであった。
1.看護婦へのアンケート結果
・入院中のがん患者のうち保存的治療期の患者は国立病院群で14%、がん専門病院群で12%、末期状態の患者はそれぞれ13%、9%を占め、両群の間には有意差がなかった。・保存的患者の有痛率と除痛率は国立病院群ではそれぞれ38.7%、48.9%、がん専門病院群では45.0%、54.9%であった。末期状態の患者については国立病院群ではそれぞれ72.2%、52.3%、がん専門病院群では72.9%、56.6%であった。保存的治療期の患者の有痛率が、国立病院群で有意に低い以外には、両群には有意差がなかった。・保存的治療期の有痛患者での経口モルヒネ使用頻度と除痛率は国立病院群ではそれぞれ43.3%、42.3%、がん専門病院群では47.4%、52.4%で、両群に有意差はなかった。末期状態については国立病院群ではそれぞれ41.8%、50.0%、がん専門病院群では36.5%、53.9%で、両群に有意差はなかった。・保存的治療期の有痛患者でのモルヒネ注射の使用頻度と除痛率は国立病院群ではそれぞれ 7.2%、76.9%、がん専門病院群では17.8%、62.5%であった。末期状態の有痛患者については国立病院群ではそれぞれ35.0%、64.5%、がん専門病院群では47.6%、63.7%であった。がん専門病院群は国立病院群に比して有意にモルヒネ注射の使用頻度が低かった。
看護婦へのアンケート結果より、国立病院に入院中の患者はがん専門病院に入院中の患者より、モルヒネの注射によるがん疼痛治療の頻度が有意に少なく、除痛率も低下傾向にあった。
2.医師へのアンケート結果

・鎮痛法の順位について、「WHO方式」を実践している医師は国立病院群で69.1%、がん専門病院群で80.4%で、国立病院群では、WHOがん疼痛治療法の採用率が低かった。・モルヒネ投与の時期については、「病期に拘らず、必要なら積極的に投与する」と答えた医師は国立病院群で68.0%、がん専門病院群で85.2%であり、国立病院群でモルヒネの投与時期が有意に遅かった。・モルヒネ投与時の薬品の説明では、「患者にモルヒネであることを話している」医師は国立病院群で29.8%、がん専門病院群で67.2%であった。優れた鎮痛効果とモルヒネの薬品名がマスコミで数多く報道されているにも拘らず、「患者にモルヒネと説明している」医師が29.8%でしかなかったことは、国立病院群の医師には潜在的にモルヒネ=中毒の考えがあることを示しているのかもしれない。がん患者の鎮痛医療は、服薬コンプライアンスを上げることから始まるので、医療者はモルヒネの作用・副作用およびその対策を、患者によく説明するよう努力する必要がある。・モルヒネ経口投与中止の原因は「経口摂取不能」が70.8%、72.1%と一番多く、ついで「副作用のため」が61.4%、61.7%、「疼痛の軽減のため」が27.8%、40.5%の順で、疼痛の軽減のためにモルヒネ内服を中止するのはがん専門病院群で有意に多かった。副作用の内容は嘔気、便秘などの消化器系と眠気、幻覚・混乱などの中枢神経系が主なものであったが、両群間に有意差はなかった。モルヒネ経口投与の副作用は対応可能であるので、副作用対策が不十分なためモルヒネ投与を中止あるいは不十分量のモルヒネ投与にとどまっていることが、治療成績の向上の妨げになっているという現状が推測される。・今までに経験したモルヒネ経口の最高投与量をみると、61mg以下/日が国立病院群では35.9%で、がん専門病院群の18.3%より有意に多く、モルヒネの投与量が少なかったために、鎮痛効果が得られずモルヒネ投与を中止したという現状が推測される。すなわち、WHO方式がん疼痛治療法が急速に普及しているが、現場では恐る恐る投与していること、そして不十分な副作用対策ががん疼痛治療上の問題点と考える。・末期がん患者に対する病名告知を調べた結果、原則として告知している医師は国立病院群で17.8%で、がん専門病院群の54.7%より有意に少なく、患者にモルヒネと説明している国立病院群の医師は29.8%であることとともに興味ある結果となった。
医師へのアンケート結果から、がん診療施設の国立病院に勤務の医師はがん専門病院の医師より、がん疼痛治療への意識・認識が遅れている傾向にあった。

結論
WHOのがん疼痛治療指針が発刊されて12年が経ち、その知識と実践は急速に普及しているようにもみえるが、投与時期、薬品名の説明、副作用対策などでまだ不十分な面もある。がん疼痛の頻度、汎用鎮痛薬の頻度とそれらの除痛率、医師の診療態度などから、がん診療施設の国立病院はがん専門病院より疼痛治療が遅れている傾向にあるので、EBMに基づいたがん疼痛管理のガイドラインの有用性を検討する施設として適切であることが判明した。したがって、平成11年度はがん診療施設に指定されている病院を研究施設とし、そこに入院している患者のうち、がん疼痛を訴えるがん患者個々を研究対象として以下の方法で研究を行なう。がん疼痛管理のガイドライン配布前後で、参加施設の対象病棟に1ヶ月間に入院したがん疼痛を訴える患者全員(WHOのどの段階でも良い)を登録し、従来の方法による除痛治療(自由)を行い、痛みの評価(アセスメント)は、1週間毎、4週間行う(退院後も追跡)。それらのデータを配布前と比較検討して、ガイドラインの有用性を検討する。

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