規制薬物の依存メカニズムと慢性精神毒性に関する神経科学的研究

文献情報

文献番号
199800678A
報告書区分
総括
研究課題名
規制薬物の依存メカニズムと慢性精神毒性に関する神経科学的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 光源(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 三木直正(大阪大学大学院)
  • 長谷川高明(名古屋大学医学部保健学科検査技術科学)
  • 五味田裕(岡山大学医学部)
  • 大熊誠太郎(川崎医科大学薬理学)
  • 鍋島俊隆(名古屋大学医学部)
  • 佐藤公道(京都大学大学院)
  • 鈴木勉(星薬科大学)
  • 笹征史(広島大学医学部)
  • 山本経之(九州大学薬学部)
  • 伊豫雅臣(浜松医科大学)
  • 西川徹(国立精神・神経センター)
  • 丹羽真一(福島県立医科大学)
  • 氏家寛(岡山大学医学部)
  • 小山司(北海道大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
覚せい剤(メタンフェタミン、MAP)などの薬物依存と覚せい剤精神病の増加に対応するため、薬物依存メカニズムと慢性精神毒性を研究の目的とした。
研究方法
薬物依存および精神毒性の発現メカニズムに関する神経薬理学的研究では、主に生化学、神経薬理学、行動薬理学、薬物依存における脳性障害の検出・診断法に関する研究では主に神経化学、分子生物学、核医学の手法を用いた。
結果と考察
薬物依存メカニズムについては、モルヒネの精神・身体依存に脳の細胞内情報伝達系のアデニル酸シクラーゼ活性の亢進が関与することが示唆され、それにはG蛋白質αサブユニットの抑制を介することが分かった。また、アデニル酸シクラーゼ活性のノックアウトマウスでは退薬症状が抑制され、依存に関係する染色体上の遺伝子の活性化や、モルヒネ反復投与によりDNA結合が変化するPur αの活性化因子がカルモジュリンであることが明らかになった。さらに、カテコラミン合成酵素や細胞内情報伝達系の遺伝子を改変したマウスを用い、依存の形成に脳内カテコラミンとcAMPが重要な役割を演じていることを示した。この他、Ca動態の変化やニコチン受容体の活性化、脳内ジアゼピン結合抑制因子の脳内発現が依存形成に関係することが示唆された。
慢性精神毒性については、精神病エピソードにみられる逆耐性現象の神経メカニズムを中心に研究された。覚せい剤精神病の既往のある乱用者で、脳ドーパミントランスポーターが減少しており、精神症状の重症度と相関することを初めてPETで証明した。また、MAP反復投与による逆耐性の形成に必要な新規遺伝子を特定することに成功し、全塩基配列の解析を終え、ヒト相同遺伝子の存在も確認した。逆耐性に脳ヒスタミン神経系が抑制系をなすことがヒスタミン合成酵素ノックアウトマウスで確かめられた。異常な神経回路の形成に関わるarc mRNAが変化すること、GABA-ベンゾジアゼピンによる逆耐性の抑制、MAP反復による事象関連電位P3やPPI の変化も明らかになった。
結論
薬物依存メカニズムについては、薬物依存に脳の細胞内情報伝達系の亢進およびそれらに関連する遺伝子発現の変化が関与することが示唆された。また慢性精神毒性に関しては、ヒトにおいて脳ドーパミントランスポーターの減少を初めて明らかにするとともに、動物モデルにおいても遺伝子発現の変化やヒスタミン、GABA神経系の関与が示唆され、さらに神経生理学的、行動薬理学的変化も検出された。

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