特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究

文献情報

文献番号
201811047A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究
課題番号
H29-難治等(難)-一般-037
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
新井 一(順天堂大学 )
研究分担者(所属機関)
  • 青木 茂樹(順天堂大学)
  • 石川 正恒(洛和ヴィライリオス)
  • 数井 裕光(高知大学)
  • 加藤 丈夫(山形大学)
  • 栗山 長門(京都府立医科大学)
  • 佐々木真理(岩手医科大学)
  • 伊達 勲(岡山大学)
  • 松前 光紀(東海大学)
  • 森 悦朗(大阪大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,237,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者において認知障害,歩行障害,排尿障害などの症状を呈する疾患は,患者のみならず,介護を行う側の負担にも関連する問題である.適切な診断のもとに髄液シャント術を行うことで症状改善が得られる病態として,特発性正常圧水頭症(iNPH)が注目される.iNPHはの臨床症状は加齢性変化や他の認知症疾患(アルツハイマー病,レビー小体型認知症)などと類似している.これらの変性疾患がiNPHと併存することもしばしば認められ,日常臨床上,鑑別診断が困難な場合が少なくない.従来のiNPHの診断・治療は,地域,施設,医師の間でばらつきが大きかったため,診断と治療の標準化をめざし,2004年本邦から世界初のiNPH診療ガイドラインを発刊した.さらに2011年にはガイドライン2版が刊行され,iNPHの認知度が格段に上がり,髄液シャント術の件数は急速に増加し,基礎・臨床研究も進展した.2015年には本邦からiNPHに関して世界初となるランダム化比較試験SINPHONI−2の結果がLancet Neurologyに報告され,iNPHに対する髄液シャント術の有効性は高いエビデンスを有した治療方法として証明された.しかしながら,病因,診断については未解決の課題が残っており,いまだ原因の特定ができておらず,新たなエビデンスを取り入れiNPH診療ガイドラインを改訂するタイミングであると判断し,研究目的とした.
研究方法
ガイドラインの改訂を目的としたガイドライン統括委員会を立ち上げ,班長所属施設にiNPHガイドライン作成事務局を設置した.日本正常圧水頭症学会と合同による改訂作業を行うこととして,班員以外に学会内から研究協力者を選出した.iNPH診療ガイドライングループ(CPG)とシステマティックレビュー(SR)チームを編成し,ガイドラインスコープについて議論し,重要臨床課題と分担を決定した.今回の改訂作業は,原則Minds2014の方針に従って作成したが,適宣,現状を踏まえた対応を行う方針とし,作成に関する具体的な方針を班会議での討議により決定して進めた.SRを開始するあたり講習会を開催し,各重要臨床課題に対するクリニカルクエスチョン(CQ)を設定した.CQは,iNPH診療において,推奨が診療の質を向上させると期待できるものをガイドライン統括委員会で決定しPICO形式にて定式化した.文献検索にはMEDLINE, Cochrane CENTRALが用いられた.疾患の解説的な事項の記載はスコープで総論的事項として作成していくこととした.これらの手法は生命倫理・人権保護及び法令等に該当しないものである.
結果と考察
iNPHガイドライン初版では,髄液シャントの予後を予測し得る検査として腰椎穿刺による髄液排除試験(タップテスト)を診断アルゴリズムの中心に据えた.初版ガイドライン策定の過程で,我が国からエビデンスレベルの高い研究成果を世界に発信することの必要性を認識し,26研究施設共同で前向きコホート研究(SINPHONI)が行われた.結果,臨床上iNPHを疑う症例に,脳室拡大とともに高位円蓋部くも膜下腔の狭小化等の所見をみる場合には,タップテストの結果に関わらず髄液シャント術を行うと高い奏効率が得られることが判明した.この画像所見をDESH所見と名付け,iNPH診断の中核として広く受け入れられるに至った.本結果を受け,2011年のガイドライン第2版では,DESH所見を重視した診断アルゴリズムが定められた.本邦からランダム化比較試験の報告や全国疫学調査(2012年)の報告など,エビデンスの高い研究結果が続々と報告された.この経緯を踏まえ新たなエビデンスを取り入れた診療ガイドラインの再改訂が必要と判断した.改訂3版では欧米を中心とした国際ガイドラインと日本のガイドラインとの診断基準の差異を考慮し,専門用語などの統一をはかることが必要であると考え,国際ガイドライン会議を開催し,世界基準のガイドラインを我が国で先駆けて作成するとした.また iNPHの重要臨床課題の中にはCQの作成には向かない課題も存在したため,本ガイドラインの構成はガイドライン本文と各CQの回答・解説文の2部構成とした.
結論
Minds診療ガイドライン作成の手引き2014に沿って,iNPH診療ガイドラインの改訂作業を進め,重要臨床課題よりCQを作成し,SRを行なった.診療のガイドライン改訂により,iNPHの診療において,診断の精度,及び治療の有効性と安全性の向上が見込まれるよう,今後発刊,また英文化したガイドラインを同時に作成し,日本のみならず世界に発信し社会還元していく.

公開日・更新日

公開日
2019-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-09-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201811047Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,108,000円
(2)補助金確定額
8,054,000円
差引額 [(1)-(2)]
54,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,118,679円
人件費・謝金 1,053,514円
旅費 1,331,480円
その他 1,680,179円
間接経費 1,871,000円
合計 8,054,852円

備考

備考
自己資金 852円

公開日・更新日

公開日
2020-03-11
更新日
-