医療機関等における安全対策に関する研究

文献情報

文献番号
199800676A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関等における安全対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山口 惠三(東邦大学医学部微生物学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 仲川義人(山形大学医学部附属病院薬剤部)
  • 太田美智男(名古屋大学医学部細菌学講座)
  • 武澤純(名古屋大学救急医学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
院内感染症のコントロールに重要なものとして、(1) 感染症の発生および患者背景の適確な把握、(2) 臨床分離菌の頻度と耐性菌の把握、(3) 院内環境における病原体分布、(4) 院内消費薬剤(主に抗菌薬)の把握、などであるが、これらの中で、(1)は看護部、(2)、(3)は検査部、そして(4)は薬剤部が深く関与している。しかし一般的にこれまで医師や看護婦の院内感染対策における役割についてはその重要性が認知されているものの,臨床検査技師や薬剤師に対してはその役割や仕事内容に関して広く認知されるというには程遠いのが現状である.従って、看護部、検査部、薬剤部におけるそれぞれの特性を明確にするとともに、それぞれの立場に合った院内感染対策の教育を行うことは,今後のわが国における院内感染対策の向上に欠かすことができないものと考える.そこで現在,日本感染症学会の主催による医師,看護婦を対象とした院内感染対策講習会の対象を臨床検査技師,薬剤師にまで範囲を広げることが望まれ,また,実際の講習会の効果を充分に上げるためには,臨床検査技師,薬剤師それぞれの立場に合った院内感染対策講習会のプログラムを検討する必要があると考えられる.このような背景から,本研究は臨床検査技師,薬剤師を対象とした院内感染対策講習会を行うのに際して,それぞれの立場に合った講習会のプログラムを検討することを,目的としている.
一方,これらの3部門がお互いに密に連絡を取りそれぞれが有する情報を共有することができれば、専任スタッフは限られていても極めて効率的な院内感染対策が可能となる。情報交換の手段としては、パソコンを用いたLANの導入があり、感染情報の病棟へのフィードバックにも本システムを利用することができる。一方、ICNやICPなどの専門的知識を有するマンパワーの育成は院内感染対策上不可欠なものである。本プロジェクトで構築しようとしている院内感染症監視システムを幾つかの限られた施設で実際に動かし、いかにすれば効率的で機能性の高い院内感染対策が可能となるのか、その運用の仕方について十分な検討、解析を加えることをもう一つの目的としている.
研究方法
1.院内感染対策における臨床検査技師の役割についての検討
今年度は,太田美智男班員の指導のもと,第10回臨床微生物学会において「院内感染対策における臨床検査技師の役割」についてのワークショップを行い、討論するとともにその成果をふまえて講習会の内容について計画・立案が行われた。
2.院内感染対策における薬剤師の役割についての検討
今年度は,仲川義人班員の指導のもと,第14回日本環境感染学会総会において,薬剤師の院内感染に関する研究・業務の実践・問題点の究明を目的にワークショップが企画され,「院内感染と薬剤師」に関する問題が協議された。
3.感染専門看護婦(士)養成に関する研究
質の高い院内感染症サーベイランスを行うためには看護婦(士)の育成が不可欠であり、すでに日本感染症学会主催の院内感染症講習会を通じて教育が行われてきた。本研究では,武澤純班員により,米国におけるICN教育のシステムについて検討を加えるとともに本邦におけるそれと比較しながら、今後のより理想的な教育システムの確立を模索した。
4.院内感染対策支援システムの構築
院内感染に重要な役割を果たしている、看護部(病棟)、検査部、および薬剤部の三極をネットワークで結び,情報を共有できるシステムを構築する。今年度は,まず検査部と看護部(病棟)をネットワークで結んだ場合を仮定して,検査部の情報の閲覧及びデータ解析をできるシステムのプログラム作成を中心に行った。
結果と考察
1.臨床検査技師を対象とした院内感染対策講習会プログラムの検討
太田班員を中心に行われたワークショップが平成11年1月31日,川崎市にて行われた.ワークショップの結果ならびに班会議の討論を踏まえて、臨床検査技師対象の第一回院内感染対策講習会の案がまとめられた。その骨子としては講義だけではなく実習を含めた3日間のコースで,250名程度を目安として,到達目標を設定し、小テストを行うなどして受講者が一定のレベルに到達出来るようにした点が挙げられる。検査技師は院内感染制御のためには通常の検査室で行われているルチンワーク以外の知識と技術を身に付けておかなければならない。そのためには講習会の中に実習を組み込む必要性があり、カリキュラムの作成に際してはこの点が重要視されねばならない。太田班員の報告書にはこの点が強調されているものの、それに必要となる予算、会場、マンパワーなどを総合的に勘案すると、現段階でこれをすぐに実現するには困難な点もあると思われる.しかし本講習会を実りあるものにするためには十分な予算化が必要であり、太田班員から提案された理想的カリキュラムの実現に努力が払われなければならない。
2.薬剤師を対象とした院内感染対策講習会プログラムの検討
仲川班員を中心として6人の演者によるワークショップが,平成11年2月25日,名古屋にて行われた.その中で「院内感染対策と薬剤師の役割」,「インフェクションコントロールチームと薬剤師」といったテーマでの講演があるとともに,厚生省医薬安全局安全対策課の諸岡健雄主査による「院内感染対策講習会」についての報告があった。その後の総合討論で活発な論議が交わされ、それらの結果を踏まえて仲川班員によって薬剤師を対象とした院内感染対策講習会プログラムに対する意見が示された。薬剤師の院内感染における役割を充分に機能させるためには,薬剤師の適正配置と院内感染についての役割を明確にするとともに、感染問題に対する知識を深め、研鑽を積むことが必要である。そのためには各医療施設に感染対策専門薬剤師の育成が急務であり、薬剤師を対象とした全国規模での院内感染に関する講習、研修の実施が必要となる。仲川班員から提案された講習会のカリキュラム案では、院内感染制御に関わる薬剤師の役割や抗菌薬の副作用(耐性菌の誘導などを含む)などが取り上げられており、現行の院内感染対策講習会の一環として実施可能なものと考えられる。
3.米国におけるICNはすでに制度化されており、そのための教育プログラムもしっかりとしたものが確立されている。一方、本邦においても国立大学附属病院においてICNがすでに制度化され、日本看護協会が発表した感染症管理認定看護師教育カリキュラムによると約6ヵ月の教育コースを設定している。カリキュラムの内容を米国のそれと比較すると、必修講義時間および実習時間ともに我が国の方が多く設定されており、その妥当性と実施可能性についてはさらなる検討が必要であろう。
4.院内感染対策支援システムの構築
検査部にサーバーを設置するとともに,LANあるいは電話回線を介した端末を病棟に設置することを仮定して,検査部および病棟相互の情報交換が可能になるようにシステムを構築した.今年度は検査部におけるデータの解析システムを中心に,さまざまな方向からの解析と表現が可能となった.院内感染対策支援システムに関しては,まだシステムの一部が完成したに過ぎず,現段階で実際の院内感染対策への応用はまだ困難と考えられる.しかし今後,さらに段階的に改良を加え,システムを完成させることができた場合には,このシステムを用いて全国の関係者を指導することで、実際の臨床現場を反映したアプローチ法が自然に浸透し、より高い教育効果が得られるものと考えられる。
結論
従来、医師と看護婦のみを対象として実施されてきた院内感染対策講習会の門戸が、1999年度より検査技師、薬剤師にまで広げられることになった。このことにより、幅広い分野の職種において感染症専門家の育成が行われることになり、包括的な院内感染対策のアプローチを可能ならしめるということで高く評価される。本プロジェクトでは、今年度は先ず、検査技師および薬剤師を対象とした講習会のカリキュラムについて検討を加えた。いずれも職種の特殊性を考慮した実践的カリキュラムとなっているが、年に1回という限られた回数と予算の中でこれらを全てカバーすることは難しい面があると考えられるので、初年度は現状に即した対応が必要となろう。ICNの養成に関しては、米国と本邦の教育内容の違いについて比較検討を始めたところであり、必要に応じて講習会のカリキュラムの見直しを行う予定にしている。院内感染対策支援システムに関しては、段階的に改良を加え、このシステムを実際の臨床の場に導入しながら関係者を指導することで、より高い教育効果が得られるものと考えられる

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