文献情報
文献番号
201811011A
報告書区分
総括
研究課題名
多系統蛋白質症(MSP)の疾患概念確立および診断基準作成、診療体制構築に関する研究
課題番号
H29-難治等(難)-一般-001
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
山下 賢(熊本大学大学院生命科学研究部 神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 安東 由喜雄(熊本大学大学院生命科学研究部 神経内科学分野 )
- 青木 正志(東北大学大学院医学系研究科)
- 勝野 雅央(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 高橋 祐二(国立精神・神経医療研究センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
骨パジェット病および前頭側頭型認知症(FTD)を伴う封入体ミオパチー(inclusion body myopathy with Paget's disease of bone and frontotemporal dementia: IBMPFD)は、骨格筋や骨、中枢および末梢神経障害を示す疾患として認識されてきた。しかし本疾患はそれらの疾患に留まらず、筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめ多彩な神経症状も呈することから、2013年に多系統蛋白質症(multisystem proteinopathy: MSP)と称する疾患概念が提唱された。しかしMSPの疾患概念は国際的なコンセンサスに至っておらず、診断基準も制定されていないため、単一臓器のみの発症に留まる症例では診断に苦慮する。近年の分子遺伝学の進歩によってMSPの原因遺伝子が同定され、治療を目指した病態研究が進展しているが、一方で正確な診断に基づく疫学や自然歴の情報を得ることが難しく、新規治療法を確立するために必要な臨床研究の実施が困難である。本研究の目的は、MSPの臨床診断基準を確立し効率的な診断体制を構築することにより、単一臓器の発症に留まる潜在患者を発掘すると同時に、本疾患の原因遺伝子は中枢神経系および筋、骨変性疾患の原因となるため、共通の病態を有するALSやFTDなどの神経変性疾患の病態研究に寄与する知見を見出すことである。
研究方法
本研究において平成29年度に既知の遺伝子変異を有するMSP患者の臨床情報を解析し、臨床診断基準と重症度分類を策定するとともに、MSPが疑われる患者に対して包括的な診断体制を構築する。平成30年度は、診断基準に基づいて全国のMSP患者の実態調査を行い、その臨床および疫学的情報を収集するとともに、指定難病データベースの運用に必要な臨床パラメーターを同定し、将来的な臨床試験の基盤を確立する計画である。
結果と考察
平成30年2月の班会議において、MSP診断基準暫定案について議論を行った。その際、①診断基準の目的を明記すべきであること(例: 臨床診断基準、調査研究目的など)、②FTDやALSについては既存の指定難病の診断基準があるが、骨パジェット病については診断基準がなく、専門家を交えた診断基準作成が望ましいこと、③MSPとして報告されている遺伝子変異を有するものの、神経もしくは骨格筋、骨のいずれか単一組織の病変しかないものをMSPに含めるべきかということ、④昨年度の基準案に関して、具体的に何が必須で何がどれだけ揃うべきか明確にすべきであること、また⑤各MSP関連遺伝子の変異の確認に際して、病的意義が不明の変異をどう扱うべきかということなどが指摘された。そこで本年度より研究協力者として、以前「重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究班(大薗班)」に所属された国立病院機構大阪南医療センター統括診療部長 橋本淳先生に参加いただき、骨パジェット病に関する診断基準を含めて、新たにMSP診断基準を作成した。本邦症例の臨床病理学的解析において、認知症や骨パジェット病を発症する症例は見出されなかった。また各班員に関しては、個々の症例を通して診断基準案の検証を行い、診断基準案のブラッシュアップを行うとともに、MSPの病態を再現するマウスや患者iPS細胞由来の細胞モデルの確立、類似の病態を呈し鑑別が必要な封入体筋炎症例の遺伝学的解析などによるMSPに関する病態研究が進められ、病態研究の基盤が構築された。
結論
我々は初めて本邦におけるMSPの実態を解明する調査研究目的の診断基準を作成した。今後、学会承認を通して確定された診断基準に基づいて全国のMSP患者の実態調査を行い、その臨床および疫学的情報を収集する予定である。
公開日・更新日
公開日
2019-09-02
更新日
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